日本建築学会九州支部研究報告 第 53 号 2014 年 3 月 せん断パネルの設計式に関する一考察 ‐フランジ幅厚比制限について‐ 康博 *1, 同 玉井 正会員○飯田 2.構造-10.鉄骨構造 宏章 *2 建築構造 せん断パネル, フランジ幅厚比, 単調圧縮試験, 複合非線形有限 1. はじめに せん断パネルダンパーはブレース形式,間柱あるい はブレースの交叉部を介して架構内に設置されるせん 断降伏型のエネルギー吸収材であり,鋼製ダンパーと して有効である.せん断パネルダンパーの性能は建物 が終局に至るまで機能を維持するものとして設計する. その性能を定めるものとしてフランジ及びパネルの幅 厚比が挙げられる.フランジ幅厚比はパネルを純せん 断応力状態に保つようにせん断パネルの曲げによる圧 縮力で局部座屈が生じても,耐力が設計耐力以上保持 する必要がある 1) . 図1 本研究では様々なフランジの厚さを持つ H 型鋼に中 心圧縮載荷試験を行うとともに複合非線形有限要素解 せん断パネルの代表例 表1 試験体シリーズ 析を行って,荷重‐変位関係を求め,変形性能からせ ん断パネルの所要幅厚比を検討する. 2. フランジ幅厚比制限設計式 せん断パネルダンパーの一設計基本事項に,フラン ジがパネルから伝達される面内圧縮力で座屈せず,か tf mm mm 7F 5F 3F 1.5F 6.49 5.28 2.96 1.57 22.7 22.7 22.7 22.7 鋼種 SN00 つパネルを曲げ応力が小さいせん断応力状態に保持す bf Test Specimen たすことになる. σ fy tf E ≤ 0.33 ……………………………………(1) ここで, b f :フランジ突出部長さ t f :フランジ板厚, E :ヤング率 σ fy :フランジ降伏強さ これは日本建築学会鋼構造塑性設計指針第 2 版 2) のは ね出しフランジの幅厚比制限であり,塑性ヒンジ発生 後,歪硬化が生じるまで局部座屈させない条件式とな っている. 図 1 に示すせん断パネルはその幅厚比の制限を満た 図2 した設計例である. On Design of Shear Panel Damper 試験方法 IIDA Yasuhiro, TAMAI Hiroyuki -Width-to-thickness ratio of flange- 417 2 mm 1099.8 990.2 778.8 652.7 H-100×50×4.55×tf る必要がある.この条件はフランジ幅厚比が次式を満 bf A L=200 bf σ fy tf E 0.119 0.146 0.260 0.480 本来,せん断パネルは上下にせん断力が加わること 表2 を考慮しフランジ幅厚比を設計するが,今回の中心圧 σy 縮の加力条件はせん断力作用時におけるフランジの加 σu 2 力条件よりフランジにとって厳しい条件となっている. Web Flange 本研究では(1)式の検討を行う. 素材試験結果 (N/mm ) 359 310 2 (N/mm ) 460 437 εi εu φ ε st (%) 13.2 16.8 (%) 35.0 40.5 (%) 57.5 56.3 (%) 1.45 3.4 3.載荷試験の概要 フランジの幅厚比制限を検討するため,せん断パネ ルと同形状の H 型鋼を用いて単調圧縮局部座屈試験を 行った. 試験体は表 1 に示す.H-100×50×5×7(SN400)の形 鋼からフランジ板厚 t f をフランジ内側を切削して, 7mm,5mm,3mm,1.5mm とした.材長 L が 200mm の部材で名称を 7F,5F,3F,1.5F の 4 体を用意した. 試験体と同一ロットの H 型鋼のフランジ,ウェブか ら 5 号試験片 3 本を切り出し行った素材試験結果の平 均値を表 2 に示す.表中の σ y は降伏点, σ u は引張強 さ, ε i は一様伸び(最大荷重時公称ひずみ), ε u は破断 伸び, φ は絞り, ε st は加工硬化開始歪である. 図 2 に試験方法を示す.加力は 2000kN アムスラー 試験機を用いた.試験体の上下に鋼板をはさみ,変位 図3 要素分割 計測はその鋼板を用いて変位計により相対縮み量を計 測した. 表3 4.有限要素解析の概要 4.1 n 乗硬化則のパラメータ σy 解析モデルと解法 ε st* 2 図 3 に H-100×50×5×7 の有限要素分割の状況を示 Web Flange す.解析範囲は,H 型鋼全領域とし,一辺に強制変位 N/mm 315 310 % 2.70 2.70 要素,フランジ 800 要素で,節点数は 1681 節点あり, 面内変形,面外曲げ変形とも十分な精度を有しており, 離散化誤差は小さい. 要素モデルは,1 節点 6 自由度の 4 節点薄板シェル 要素を採用し,数値積分は完全数値積分を採用した. 解析シリーズ パネルには通常の鋼のヤング係数 205kN/mm2 ,ポア ソン比 0.3 を用いる.ウェブ板厚 tw =4.55mm,フラン ジ板厚は本試験体と同値で行い,パネル高さを 200mm とする.応力‐歪関係は表 3 の係数の n 乗硬化モデル を用いた.加力は 7F,5F,3F,1.5F 試験体の 4 ケース について,単調に 0.125L だけ下方に強制変位を与えた. 5.実験及び解析結果とその考察 各試験体の実験結果を図 4~7,表 4,写真 1 に示す. 図 4 は,全塑性軸力で無次元化した荷重,P / N y と平均的軸 縮み歪と δ / L の関係を.表 4 は設計降伏軸力で無次元化し た平均的軸縮みが 0.03 の時の荷重 P(δ = 0.03L ) ,一旦塑性化し て,耐力が設計降伏軸力となるまでの変位量を解析値・実験 図5 値ともに示す. 418 2 N/mm 2.00 2.01 で面内圧縮力を作用させた.要素分割は,ウェブ 800 4.2 n C P / FA − δ / L 関係 % 0.11 0.10 (a) 7F 試験体 (b) 5F 試験体 (c) 3F 試験体 写真 1 (a) 7F 試験体 (c) 3F 試験体 (d) 1.5F 試験体 試験後の局部座屈性状 5F 試験体 (b) (d) 図4 P / N y − δ / L 関係 表4 実験及び解析結果 1.5F 試験体 Experimental Test Specimen 7F 5F 3F 1.5F FA kN 282.0 232.7 183.0 153.4 Ny bf σ fy kN 368.3 304.3 240.9 203.4 tf E 1.119 0.146 0.260 0.490 419 FEM P(δ =0.03L) FA δ ( P = FA) L P(δ =0.03L) FA 1.032 1.029 0.858 0.586 0.062 0.046 0.011 0.005 1.337 1.352 1.038 0.563 δ ( P = FA) 0.085 0.068 0.033 0.015 L 図 5 は各試験体の P / FA と δ / L の実験値における関 参考文献 係を.図 6 は δ ( P = FA) / L とフランジ無次元化幅厚比の 関係を示し,図 7 は 1) 玉井宏章, 高松隆夫,山西 央朗:せん断パネルダンパー P(δ = 0.03 L ) / FA とフランジ無次元化 の塑性変形性能に関する研究,広島工業大学紀要,研究編, 幅厚比を各試験体について示す. 第 45 巻,pp.147-155,2011. 図 6,図 7 には,実験値をもとに最少二乗法を用い 2) 日本建築学会,鋼構造運営委員会,鋼構造制振小委員会: て以下の関係式を求めた. δ(P= N y ) L bf = 0.0077 tf P(δ = 0.03 L ) FA σ fy E 鋼構造制振構造設計指針・同解説,pp.66-70 −1.192 b f σ fy = −1.851 tf E …………………(2) + 1.574 ……………(3) 写真 1 は各試験体の試験後の局部座屈性状を示す. 以上の結果から以下のことが分かる. 1) 図 4 から,7F 試験体が最も大きな変形領域まで耐 力を維持して歪硬化による耐力上昇が生じる. 2) 図 4 より解析値は実験値の変形性状を追跡しうる. 3) 図 5 及び写真 1 からいずれもピーク値を超えると 耐力低下が生じ,局部座屈が生じる. 図 6 より δ ( P = FA) / L は無次元化幅厚比に反比例して 減少し P(δ = 0.03 L ) / FA が 0.33 のときちょうど 0.03 となる. b σ fy 図 7 より, f は無次元化幅厚比と直線関係 tf E b f σ fy にあり, が 0.33 のとき 1 となる. tf E 4) 5) 図6 設計降伏荷重時変形能力と無次元化幅厚比関係 図7 0.03 ひずみ時の荷重と無次元化幅厚比関係 6.まとめ パネルダンパーのフランジ幅厚比制限値を検討す るため様々なフランジ板厚を有する H 型鋼の中心圧縮 載荷試験とその複合非線形有限要素解析を行った. 得られた知見は以下の様に要約ができる. 1) フランジ幅厚比制限値を bf σ fy tf E ≤ 0.33 の場合,フ ランジ降伏後において,平均的縮み歪が 0.03 まで 設計降伏耐力を維持することができる. 2) 複合非線形有限要素法によれば,局部座屈を有す る H 型鋼の圧縮試験のピーク荷重を耐力劣化性状 をほぼ追跡できる. 今後,様々な幅厚比を有する H 型鋼圧縮載荷試験の複 合非線形解析を行って,制限値を更に検討すると共に, せん断加力状態での制限値の緩和についても検討する. *1 長崎大学大学院 工学研究科 大学院生 *1 Graduate Student, Graduate school of Nagasaki Univ. *2 長崎大学 工学部 構造工学コース 教授 博士(工学) *2 Prof, Nagasaki Univ, Dr. Eng. 420
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