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ピン接合形式二重鋼管ブレースの座屈拘束設計法
京都大学 金城 陽介
1. はじめに
座屈拘束ブレースは,図 1 のように芯材の座
屈を座屈拘束材により防止し,圧縮時にも引張
時と同様な軸方向塑性変形を可能とした制振部
材である.座屈拘束ブレースの注意点として,
座屈拘束材に軸力が流れないようにすることと
芯材の塑性縮みを吸収する縮み代を確保するこ
との 2 点が挙げられる 1).また,芯材の塑性化
後,剛接合形式では座屈拘束材端部に塑性ヒン
ジが形成される場合があるが 1),ピン接合形式
では,塑性ヒンジ形成による不安定機構になら
ないように,座屈拘束材端部に弾性保持部材が
一定量貫入され,端部の回転が拘束される(図
2)
.弾性保持部材と座屈拘束材の間にはクリ
アランスを確保することで,座屈拘束材に軸力
を流さず,芯材の軸方向塑性変形を可能にして
いる.このように,芯材の塑性変形を拘束せず
に端部の回転を拘束している部分を摺動部と呼
ぶ.図 2(b) のような両側に摺動部が設けられ
た両側摺動タイプ以外に,図 2(c) に示すように
一端に摺動部を設け,他端で座屈拘束材と弾性
保持部材を溶接などにより剛接合し,相対的な
回転を拘束する片側摺動タイプがある.片側摺
動タイプの芯材や座屈拘束材の座屈モードは写
真 1 のように非対称形になるが,既往の座屈拘
束材の曲げ座屈拘束条件 1) は対称形の座屈モー
ドを仮定しており,片側摺動タイプの座屈モー
ドとは大きく異なる.したがって,片側摺動タ
イプの座屈拘束ブレースについては,適切な座
屈モードを仮定する必要がある.さらに摺動部
では,弾性保持部材からうける補剛力(面外に
押し出される力)により座屈拘束材が写真 2 の
ように局所的に変形する.この局所変形によっ
接合部
座屈拘束部
接合部
芯材 座屈拘束材
(a) 剛接合形式
接合部
座屈拘束部
接合部
芯材 座屈拘束材
弾性保持部材
(b) ピン接合形式
図 1 座屈拘束ブレースの基本構成
塑性ヒンジ
(a) 剛接合形式
弾性保持部材による回転拘束
(b) ピン接合形式(両側摺動)
弾性保持部材による回転拘束
溶接による回転拘束
(c) ピン接合形式(片側摺動)
図 2 接合形式による端部の違い
写真 1 片側摺動タイプの座屈モード
(上:座屈拘束材,下:芯材)
て接合部の回転拘束が不
十分になり,たわみが増
大するが,既往の設計式 1)
にはその影響が考慮され
ていない.
本研究では,摺動部に
写真 2
おいて弾性保持部材が回
摺動部の局所変形
転拘束に与える影響を明
らかにし,理論的・実験的検討に基づいて,片
側摺動タイプのピン接合形式座屈拘束ブレース
の端部の局所変形を考慮した座屈拘束設計法を
構築することを目的としている.
2. 対象とするピン接合形式座屈拘束ブレース
本研究で対象とするピン接合形式座屈拘束ブ
レース(二重鋼管ブレース)を図 3 に示す.片
側摺動タイプを対象としており,図左側は摺動
部で,補強管が補剛管内部に貫入されることで
接合部の回転を拘束している.補強管は補剛管
と溶接されておらず,軸方向に伸縮する.一方,
図右側では補強管より短い口金と補剛管が隅肉
溶接されており,こちらを固定側と呼ぶ.
二重鋼管ブレースは繰返し載荷をうけると,
補剛管の曲げモーメント・たわみが増大する 2).
&%
115
[
#
動側]
PL
60
)"*
A
B
A
B
125
[固定側]
$)"*
!)*
)*
!
eK/2
eS/2
'
A-A (
B-B (
図 3 本研究で対象とする座屈拘束ブレース(二重鋼管ブレース)
25
260
115
これは先述のように,補強管から
うける補剛力により補剛管端部の
載荷管重 P
表 1 試験体一覧(要素実験)
eK
eK
口が拡がり,クレビスの回転角が
補剛管
貫入量 隙間
2
2
増大するからである.したがって,
No. DB
tB
lK
eK
補剛管の曲げモーメントやたわみ
(mm) (mm) (mm) (mm)
1
100
を正確に把握するには,作用軸力
z25
2
130
と補剛管端部の変形量との関係を
4.6
3
165
明確にしなければならない.
8
6
4
200
165.2
3. 補剛管の摺動側端部要素実験
5
130
6.5
補剛管端部の変形に影響する因
6
165
PL
子として,補強管貫入量 l K,補剛
7
130
図 4 要素実験試験体
4.6
4
8
165
管の曲げ剛性 EI B,補剛管と補強
No.1
No.5
管の隙間 e K などが挙げられるが,
P (kN)
No.2
No.6
300
No.3
No.7
これまでに因子の影響は定量的に
No.4
No.8
表されていない.そこで,補剛管
d0
B
の摺動側端部を取り出した要素実 200
験を行い,補剛管端部に生じる補
kB
剛力と変形量に関するデータを収
lb
剛棒
100
集し,それらの関係を結びつける
理論式を構築した.なお,以下で
d (mm)
ピン
は,補剛管端部の局所変形量を開
0
0
10
20
30
口量と呼ぶ.
図 5 載荷荷重 - 開口量関係 図 6 補剛管端部の力学モデル
試験体は図 4 のように,クレビ
補剛管端部の変形を図 6 のように力学モデル
ス,補強管,補剛管,丸鋼,嵩上げジグ,ベー
化する.このモデルは
3 本の剛棒がピンを介し
スプレートで構成される.軸力管は設けず,丸
て接続されており,連続的に付けられたばねが
鋼を配置し回転を自由にすることで,塑性化に
変形に抵抗する.写真 3 のように補剛管は補強
より剛性を失った軸力管を模擬している.実験
パラメターは補強管貫入量 l K,補剛管板厚 t B, 管と接すると補強管の半周部分を覆うように変
形し,補強管と噛み合った状態で逆側の半周部
補剛管と補強管の隙間 e K であり,補剛管径 D B
分が塑性変形する.そこで,補剛管の単位長さ
は全試験体で一定で,補強管径 D K を変化させ
当たりのばね定数 k B は図 7 の荷重 F と変形量
ることで,隙間 e K を調整している.載荷は油
x による剛性 F/x として,次式で与える.
圧ジャッキによる単調引張載荷とし,開口量 d
が 20mm 程度に達するまで載荷した.
載荷荷重 P- 開口量 d 関係を図 5 に示す.図
5 より,l K と t B が大きく,e K が小さいほど初
期剛性が大きくなる.これは,l K が大きく,e K
が小さいほど補強管と補剛管の接触面積が大き
くなり,荷重が分散されるからである.
kB =
2
8( π − 8)
2
EI z
3
( π − 2)( π + 2π −16) rB
rB = (DB − tB ) / 2 , I z = tB3 / 12
(3)
(4),(5)
補剛力 B はばねの荷重 F の和であり,次式の
ようになる.
x
N
P
F
rB
EI z
写真 3
B
剛体
B = kB (lb + 2d0 )δ / 2
lK
N
ただし,i0 は補強管と補剛管が接触するときの
(a) 要素実験
θ0 = eK / lK
剛性 EI B で与え,両端の接合部の曲げ剛性を
r J EI B として,作用軸力 N と補剛管の曲げモー
メント,たわみの関係を導出する.本研究では
軸力管の初期たわみを u0A,補剛管の初期たわ
みを u0B,軸力管のたわみを u A,補剛管のたわ
みを uB と表す.
座屈拘束部および接合部では,微小要素の力
の釣合から,次の微分方程式を満たす 3).
(9)
(6) 式による計算値と実験値の比較例を図 8
に 示 す. 図 8 は 試 験 体 No.3 の 補 剛 力 B- 開
口量 d 関係であり,実験値は載荷荷重 P を図
9(a) に示す力の釣合より次式を用いて補剛力 B
に換算している.
(10)
部材実験においては,図 9(b) の関係から,次
式で軸力 N を補剛力 B に換算すればよい.
lC
10
15
20
DB +
5
+N
jπ z
l
j=1
(13)
B
u0 = − F θ 0 (z − l)
A
M θ0 =
du0
dz
(14)
A
, F θ0 = −
z=0
du0
dz
(15.a),(15.b)
z=l
ただし,A1,A2,A3 は u0A を決める係数であり,
次の補強管と補剛管が 2 点で接する条件および
軸力管と補剛管が接する条件から求められる.
lK
eS / 2
l
l
F J
rJ EI B
EI B
M
d (mm)
3
A
u0 = ∑ A j sin
rJ EI B
By
100
0
0
eK / 2
300
200
試験体 No.3
2 A
du
=0
(12)
4
dz 2
dz
本研究では,補強管が補剛管と接することで
摺動側の補剛管端部が d だけ拡がり,さらに軸
力管が補剛管と接し,座屈拘束部が曲げモーメ
ントを負担しはじめるときのたわみを初期たわ
みと定義する.軸力管の初期たわみを sin 波の
線形結合,補剛管の初期たわみを固定側のピン
を通る1次関数として次式によって与える.
EI(z)
(11)
CAL
TEST
4
A
d (u − u0 )
A
図 8 より,要素実験では,ベース PL 直上で
補剛管が降伏曲げモーメント M yB に到達する
(図中の水平一点鎖線 By)と,B-d 関係の接線
剛性が低下する.したがって,(6) 式の部材実
験への適用範囲は B y 以下に限定される.なお,
後述する部材実験において生じる補剛力はこの
範囲内に収まり,(6) 式は十分な精度である.
4. 補剛管の曲げモーメント・たわみの導出
二重鋼管ブレースの曲げモーメント,たわみ
を求めるための力学モデルと初期たわみを図
10 に示す.両端はピン支持条件とし,軸力管
が降伏した後も接合部と座屈拘束部境界では,
変位・応力の適合条件が保持されるものとする.
座屈拘束部では,軸力管は曲げモーメントを負
担しないものと考え,曲げ剛性を補剛管の曲げ
B (kN)
(b) 部材実験
図 9 補剛力への換算
クレビス回転角であり,次式で表せる.
400
B
(7),(8)
B = (1 + lC / lK )Nθ 0
lK
0
B
(6)
B = (1 + lC / lK )P
lC
B
図 7 ばね定数の定義
lb = δlK / (δ + lKθ 0 ) , d0 = DKθ 0 / 2
eK
lC
0
A
u0
F
0
図 8 計算値と実験値の比較例 図 10 二重鋼管ブレースの力学モデル(上)と初期たわみ(下)
表 2 試験体一覧と実験結果(部材実験)
No.
1
2
3
4
5
6
軸力管
補剛管
貫入量
隙間
ピン間長 最大軸力 耐力低下
サイクル
終局状態
tS
DB
tB
lK
eK
eS
l
Nmax
DS
(軸歪)
(mm) (mm) (mm) (mm) (mm) (mm) (mm) (mm)
(kN)
1141
6 (+1.0%)
165
8.0
7.0
130
1211
7 (+1.0%)
面内方向に座屈
4.6
21.0
1316
7 (+1.0%)
2100
135.0 7.2 165.2
1476 3*1 (-1.5%) 引張時に軸力管破断
4.0
165
1499 3*2 (+1.5%)
面内方向に座屈
6.5
17.1
ガセット
PL の塑性化
7.0
3600
1323 3*3 (+1.2%)
により面外方向に座屈
*1
軸歪 ±1.0% の 20 サイクル目終了後も健全であったため,軸歪 ±1.5% で載荷した.
軸歪 ±1.0% で 2 サイクル目終了後,軸歪 ±1.5% で載荷した.
*3
軸歪 ±1.0% の 18 サイクル目終了後も健全であったため,軸歪 ±1.2% で載荷した.
*2
⎧ (l − l ) θ − l θ = e / 2 + δ
C F 0
C M 0
K
⎪⎪
⎨ (lC + lK ) M θ 0 − (l − lC − lK ) F θ 0 = eK / 2
⎪
A
B
⎪⎩ max(u0 − u0 ) = eS / 2
C:計算値 T:実験値 数字:サイクル
(16)
Aj
jπ z
uA = ∑
sin
2
l
j=1 1 − (l / jπ ) (N / EI B )
(17)
軸力管が補剛管に接触した後,一体となって
変形すると仮定すれば,補剛管の曲げモーメン
ト MB,補剛管のたわみ uB は次式で表される.
(18)
M B = Nu A
B
A
B
A
u = u0 + (u − u0 )
M (kNm)
M yB
30
(12) 式に軸力管の初期たわみ u0A,境界条件
と変位・応力の適合条件を代入することで,軸
力管のたわみ u A が得られる.なお,r J が 1 以
上であれば,u A は r J によってほとんど変化し
ない.そこで,r J =1 とすると,u A は次のよう
に簡易化される.
3
40
B
(19)
5. 理論式の妥当性(部材実験との比較)
4 章で導出した理論式による計算値と繰返し
載荷実験の実験結果を比較する.載荷は,油圧
ジャッキによる正負交番繰返し載荷とし,軸歪
±0.5% で 2 サイクル載荷した後,±1.0% で耐
力が低下するまで載荷した.なお,軸歪は材軸
方向変形をピン間長 l で除した値とし,圧縮時
を正と定義した.
試験体一覧とその実験結果を表 2 に,軸歪
+1.0% における補剛管の曲げモーメント・た
わみ分布例(試験体 No.2)
を図 11 に示す.なお,
曲げモーメントは補剛管に貼付した歪ゲージの
値から曲率を求め,曲げ剛性 EI B を乗じて算
出する.図より,補剛管が降伏曲げモーメント
M yB に達するまでは,サイクルを経ると計算値
と実験値との差異が小さくなることがわかる.
これは,軸力管の曲げ剛性が 0 に近づき,本研
20
C1
C4
C7
T1
T4
T7
10
0
30
uB (mm)
20
10
0
図 11 計算値と実験値の比較例(No.2)
究で仮定したモデルに近づくからであると考え
られる.降伏モーメント M yB に達すると,たわ
みが急増して耐力が低下し始める.したがって,
座屈拘束条件は次式で与えればよい.
B
A
B
M max = Numax < M y
(20)
6. 結論
(1) 座屈拘束材の端部を取り出した要素実験を
行い,端部の局所変形の算定式を提示した.
(2) 二重鋼管ブレースの補剛管の曲げモーメン
トの算定式を示し,座屈防止条件((20) 式)
を得た.また,二重鋼管ブレースの繰返し
載荷実験によって,その妥当性を確認した.
参考文献
1) 日本建築学会:鋼構造座屈設計指針,2009.11
2) 宮川和明,安井信行,木下智裕:ピン接合形式二重鋼
管ブレースの端部補強に関する研究(その 1 〜その 3),
日本建築学会大会学術講演梗概集(東海),2012.9
3) 井上一朗,吹田啓一郎:建築鋼構造 - その理論と設計 -,
鹿島出版会,2007.12