急激な経過を辿った 管内増殖性糸球体腎炎の一例

急激な経過を辿った
管内増殖性糸球体腎炎の一例
小牧市民病院 腎臓内科 吉岡知輝、船橋嘉夫、浦濱善倫、大石秀人
症例 64歳 女性
既往歴 特になし
家族歴 腎疾患なし
生活歴 喫煙なし、飲酒時々、主婦
現病歴 H23.5月咳が続き近医にて喘息と診断された。5/20頃∼食
事が摂れなくなった。咳はこの頃にはなく、症状は胃痛・嘔
気だった。5/29近医受診。クラビット・ビオR・ファモチンジン
を処方された。5/30血液検査にてCRP9.1mg/dlでありオーグ
メンチンを追加された。またチエナムの点滴が開始された。
5/31CRP6.0mg/dl。消化器症状は変わらず、6/1当院消化器
内科へ紹介となった。
CTは、小腸が浮腫状に肥厚しており、周囲に軽度腫大したリンパ節
が多発しているのを認めた。GIFは、十二指腸・空腸にびら
ん・潰瘍を認めた。感染性腸炎の疑いで抗生剤治療(ピレタ
ゾール1g×2、6/6∼ワイスタール1g×2へ変更)をおこなった。
入院時より尿所見は異常あり(尿蛋白(3+)、潜血(2+))。Cr0.45mg/dl。
入院後急激に腎機能が悪化した。6/3Cr0.61mg/dl、
6/7Cr1.06mg/dl、6/8Cr1.47mg/dl。6/8当科へ依頼となった。
現 症 身長 153.4cm 体重 44.9kg
血圧 152/79mmHg 脈拍 76/分
体温 37.3℃ SpO2 96%
呼吸音整 心雑音聴取せず 腹部軟、心窩部圧痛あり 肝脾触知せず 表在リンパ節腫大なし 四肢浮腫(+)
初診時血液検査所見
WBC
seg
eosi
lymp
RBC
Hb
Plt
19000
81.0
2.0
12.0
430×104
13.0
43.5×104
IU/ml
%
%
%
mg/dl
mg/dl
mg/dl
TP
Alb
T-Bil
AST
ALT
Na
K
Cl
Ca
P
LDH
CK
BUN
Cre
Glu
CRP
4.7
2.3
0.4
19.3
10.7
119.9
5.2
90.4
7.5
5.3
242.2
24.1
31.2
1.47
106.7
2.42
g/dl
g/dl
mg/dl
IU/l
IU/l
mEq/l
mEq/l
mEq/l
mg/dl
mg/dl
IU/l
IU/l
mg/dl
mg/dl
mg/dl
mg/dl
初診時尿検査所見
比重
pH
蛋白
糖
潜血
白血球
赤血球
硝子円柱
顆粒円柱
上皮円柱
蝋様円柱
TP/CRE比
FDP
NAG
β2MG
1.010
7.0
(3+)
(‐)
(3+)
5∼9
1∼4
10∼19
30∼49
10∼19
20∼29
3.23
<0.1
24.8
<10
個/HPF
個/HPF
個/HPF
個/HPF
個/HPF
個/HPF
g/g・CRE
µg/ml
U/l
µg/l
免疫学的検査所見
RF
(‐)
IgG
1178.5
mg/dl
IgA
265.4
mg/dl
IgM
60.7
mg/dl
IgE
82.9
mg/dl
C3c
135.1
mg/dl
C4
25.0
mg/dl
ANA
抗DNA抗体
抗SS-A/Ro抗体
<40
<2.0
<7.0
倍
EU
U/ml
抗SS-B/La抗体
<7.0
U/ml
抗カルジオリピ
ン・β2GPI抗体
1.07
U/ml
ループスアンチ
コアグラント
<1.2
MPO-ANCA
PR3-ANCA
抗GBM抗体
ASLO
<10
<10
<10
<10
クリオグロブリン
陰性
EU
EU
EU
IU/ml
その他
サイトメガロ抗原陰性(-) 可溶性IL-2レセプター1370U/ml フェリチン160ng/ml 第XⅢ因子46%
当科依頼後経過
6/15ガリウムシンチ両腎集積あり(6/22CTでは両腎腫大)。
6/21腎生検施行。
PAS染色
PAS染色
PAS染色
PAS染色
PAS染色
HE染色
PAM染色
PAM染色
AZAN染色
AZAN染色
AZAN染色
PAS染色
PAS染色
PAS染色
PAS染色
PAS染色
IgG
IgA
C3
生検後経過
腎機能悪化に伴い、6/23∼透析を開始した。
徐々に肝機能も悪化して7/1血液検査はAST111.8IU/l ALT74.3IU/l ALP1174.2IU/l LDH1313.2IU/l BUN94.2mg/dl Cr5.11mg/dl WBC46400 Hb9.6g/dl Plt8.6万 CRP12.25mg/dl PT72.0% APTT70.6秒 FDP249.5µg/ml D-D>100.0µg/dl。透
析中ショック。血液内科にも依頼しマルクも施行も、血液疾患を
示唆する所見なし。血管炎に準じてステロイドパルス療法を施行。
後療法プレドニン45mg∼内服開始。
徐々に腎機能・肝機能、また血球も改善した。
ステロイド精神病が出現し、ステロイドを速やかに減量するため、
7/16エンドキサン500mg静注。プレドニンはこの頃内服も困難だっ
たため注射にしており、ソルメドロール40→20mgへ減量。
7/18透析離脱。
抗核抗体・抗DNA抗体・補体・ANCAなど再検するも異常なし。
プレドニン7/28∼20mg、8/12∼15mg、26∼12.5mg。
9/15退院。
臨床経過表
Cr(mg/dl)
尿TP/Cr比(g/g・Cr)
WBC(IU/ml)
12.64
HD
10
ステロイドパルス
PSL45mg∼
7.5mg
エンドキサン500mg
5
50000
1.49
0
6/1 6/8
6/23 7/1/4
7/13/18
7/28
8/3
11/10
腎生検の問題点
光顕所見は、基本的に管内増殖性病変だが、臨床経過・検査所見
と合致する診断は?
#紫斑病性腎炎→臨床的には紫斑病と診断できないが、第XⅢ因子
は低値だったが。
#感染後糸球体腎炎→病原体は不明、臨床経過は合わない印象。
#ループス腎炎→SLEを疑う所見なし。
#血管炎→ANCAは陰性、管内増殖は来さないと思われる。
IgM
C4
C1q
Fibrinogen
HE染色
HE染色