MPO-ANCA関連腎炎合併 membranous glomerulonephropathy 近江八幡市立総合医療センター 腎臓内科 塩津 弥生、八田 告、足立 孝臣 症例 78歳女性 <主訴> 両下腿浮腫・全身倦怠感 <既往歴> 若い頃に起立性蛋白尿を指摘(詳細不明) <現病歴> 2007年4月頃より、両下腿浮腫と全身倦怠感を認める ようになり、近医受診。原発性甲状腺機能低下症と診断 され、T4製剤内服を開始された。しかしその後も浮腫は 改善なく、徐々に腎機能は増悪していた (2007年4月BUN/Cre=14.7/0.93→2008年3月 30/3.61)。 ご本人の希望で今年3月に別の開業医に転医、尿蛋白と 腎不全を指摘され精査加療目的に当院に紹介となった。 内服内容 ①Ranitidine 150mg ②Amlodopine 2.5mg ③Spironolactone 25mg ④Furosemide 40mg ⑤Atorvastatin 10mg ⑥Levothyroxine 150μg 身体所見 身長139.4cm、体重40.4kg 血圧127/68mmHg、脈拍88回/min 整 眼瞼浮腫あり 眼瞼結膜貧血あり、眼球結膜黄疸なし 頚部:リンパ節腫脹なし 胸部:呼吸音 清 心音 収縮期雑音聴取 腹部:平坦・軟、血管雑音聴取せず 四肢:両下腿浮腫あり 血液検査① Na 139 mEq/L /mm3 K 4.1 mEq/L WBC 4900 RBC 260 ×104/mm3 Cl 112 mEq/L Hb 8.3 g/dl Ca 7.4 mg/dl Ht 25.2 % IP 4.3 mg/dl Plt 24.0 ×104/mm3 UA 4.8 mg/dl LDL-Cho 179 mg/dl TP 5.2 g/dl TG 113 mg/dl Alb 2.4 g/dl HDL-Cho 62 mg/dl AST 25 IU/L BS 128 mg/dl ALT 18 IU/L HbA1C 4.9 % LDH 241 IU/L TSH 0.875 IU/ml Amy 257 IU/L F-T4 1.41 ng/dl CRP 0.05 mg/dl F-T3 2.35 pg/ml BUN 30.0 mg/dl HBs-Ag (-) Cre 3.61 mg/dl HCV-Ab (-) 血液検査② IgA 177 mg/dl MPO-ANCA IgM 130 mg/dl PR3-ANCA IgG 567 mg/dl 抗GBM抗体 (-) RA (-) クリオグロブリン (-) CH-50 46 U/ml ASO 26 倍 抗核抗体 (Homo) 1280 倍 ASK 80 倍 免疫電気泳動 M蛋白 (-) 抗ds-DNA抗体 5.6 抗セントロメア抗体 (-) 抗Sm抗体 (-) 抗SS-A抗体 (-) 抗SS-B抗体 (-) 抗Scl抗体 (-) 抗Jo-1抗体 (-) 抗CCP抗体 (-) IU/ml 161 U/ml 1.3未満 U/ml 尿検査 尿検査 一日尿蛋白 7.67 g/dl ●定性 比重 1.008 尿中β2MG 25200 μg/L pH 7.0 随時尿NAG 16.6 IU/ml 蛋白 (3+) 潜血 (1+) 尿BJP (-) 白血球 (-) ブドウ糖 (-) ●沈渣 RBC 1-4 /HPF WBC 1-4 /HPF 細菌 (-) 上皮円柱 (1+) OFB (+) 画像検査 • 胸部X線 CTR50%、胸水貯留や肺うっ血は認めない • 腎エコー 両側腎萎縮(長径8cm程度)、皮質菲薄化 右腎でごく軽度の水腎症 • 胸部CT 特記すべき所見なし • 腹部CT 肝周囲、骨盤内に腹水貯留、軽度腎萎縮 腎生検 IgG IgA IgM Immunofluorescense C3c C4 C3d C1q Fib Electron microscopy 病理のまとめ <光学顕微鏡> z 糸球体 • 得られた糸球体は10個。線維細胞性半月体を1個認める。 全硬化糸球体、癒着病変は認めない。 • びまん性全節性にスパイク形成、基底膜の二重化を認める。 z 間質:尿細管萎縮、線維化高度 z 血管:動脈硬化や血管炎の所見は認めない。 <蛍光抗体法> • IgG,C3c,C3dで、基底膜に沿って顆粒状に沈着 <電子顕微鏡> • 係蹄上皮下~基底膜に多量のdense depositを認める。内皮下及びメサン ギウム領域にも少量のdepositを認める。 • 基底膜は肥厚、足突起は広範囲に消失。 • 内皮下浮腫を認める。 診断 Membranous glomerulonephritis in stage Ⅱ-Ⅲ 膜性腎症とIgGサブクラス • 原発性膜性腎症ではほとんどの症例でIgG4のみが陽性となる (Oliveira DB.Membranous nephropathy:an IgG4-mediated disease.Lancet 351: 670-671,1998) • ループス腎炎による膜性腎症ではIgG1,IgG2,IgG3がIgG4と同様 に陽性となる。 (Imai H,et al.IgG subclasses in patient with membranoproliferative glomerulonephritis,membranous nephropathy,andlupus nephritis.Kidney Int 51:270-276,1997) • Bucillamineによる膜性腎症ではIgG4に加えてIgG2 and/or IgG3が陽性となる。 (Nagahama K,et al.Bucilamine induces membranous glomerulonephritis.Am J Kidney Dis 39:706-712,2002) • Malignancy関連の膜性腎症では、原発性に比してIgG1とIgG2が 強く沈着する。 (Ohtani H,et al.Distribution of glomerular IgG subclass deposits in malignancy-associated membranous nephropathy.Nephrol Dial Transport 19:574579,2004) IgG1 IgG2 IgG3 IgG4 本症例では zIgG1,IgG2がIgG4に加えて陽性 z上皮下だけではなく、基底膜内やメサンギウム 領域にDense depositの沈着を認める。 →二次性膜性腎症? • 上部消化管内視鏡・検便・胸腹部CTでは特記す べき所見なし • 新たな薬剤歴はなし • 抗核抗体陽性だが、その他の各種免疫学的所見 は陰性。ただし原発性甲状腺機能低下症あり。 Membranous Glomerulopathy Induced by Myeloperoxidaseanti-neutrophil Cytoplasmic Antibody-related Crescentic Glomerulonephritis Suwabe T et al. Internal Medicine 44:853-858,2005 RPGNの経過をたどったネフローゼ症候群症例 MPO-ANCA値204U/ml 光学顕微鏡所見:壊死性半月体形成性糸球体腎炎 蛍光抗体法:IgGとC3が陽性。IgGサブクラスでは IgG1とIgG4が陽性。 • 電子顕微鏡所見:傍メサンギウム領域と上皮下に deposit沈着 • 他の二次性膜性腎症の原因となる疾患を認めず →MPO-ANCAが二次性膜性腎症発症に関与? • • • • お伺いしたい点 zMPO-ANCAは本症例に関与しているのでしょう か? • 半月体の存在 • 電顕所見での内皮下浮腫について zMPO-ANCAが関与しているかどうか証明するの に、どのような追加検査が必要でしょうか? z今後の治療方針について
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