自己免疫性膵炎に合併した ネフローゼ症候群の1例

自己免疫性膵炎に合併した
ネフローゼ症候群の1例
名古屋市立大学 心臓・腎高血圧内科
水野 晶紫
宮城 壮太
吉田 篤博
友斉 達也 山中 環
白澤 祐一 本川 正浩
木村 玄次郎
西尾 尊江
福田 道雄
症 例
患 者:
既往歴:
生活歴:
家族歴:
62歳女性
23歳 右肩習慣脱臼、アレルギー性鼻炎
47歳 子宮筋腫、子宮全摘術
53歳 イレウス
飲酒:機会飲酒 喫煙:なし
特記すべきことなし
現病歴
5年前より顎下リンパ節腫脹していた。2006年10月から口の乾燥、
味覚障害あり、両側顎下腺に多発性嚢胞認め、精査加療目的で
大須診療所から当院耳鼻科紹介受診。
穿刺細胞診: negative
頚胸部CT: 副神経LN、内深頚LN、縦隔LN、肺門LN腫脹
耳下腺と顎下腺の不均一造影効果あり
Gaシンチ:
両側顎下腺と右耳下腺に集積亢進
Tcシンチ:
右顎下腺の変形、左顎下腺からの洗い出し低下
リンパ節生検:atypical lymphoid hyperplasia, no malignant foci
現病歴
2007年7月29日夜から下血あり、7月30日消化器内科受診、入院と
なった。便培養結果は腸管出血性大腸菌O157。
入院中のCTにて、膵動静脈狭小化と膵頭部腫大を認め、自己免疫
性膵炎が疑われた。
IgG 1138、IgG4 241(135以上)、CA19-9 22.5
MRI/MRCP:膵は全体に腫大しており主膵管は全体的に細い
顎下腺IgG4免疫染色:リンパ節内に多数のIgG4陽性形質細胞
AIP診断基準(日本2006年)を2項目満たし、自己免疫膵炎と診断。
9月3日精査加療のため再入院。
入院時理学所見
意識清明
体温36.4℃ 血圧120/81mmHg 脈拍66/分
両下肢に浮腫認めず
顎下リンパ節腫脹
全身に皮疹認めず
胸部:心雑音なし 整 呼吸音清
腹部:平坦 軟 圧痛なし 肝・脾・腎触知せず
神経学的異常所見認めず
入院後経過
9月3日ERCP施行、膵管にステント留置。
9月7日よりステロイド30mg/日投薬にて治療を開始
(20日∼25mg、27日∼20mgへ減量)。
9月中頃から浮腫が増強し、腹部膨満感、
体重増加などの症状を自覚するようになり、
尿蛋白(4+)も認めたため、当科コンサルト。
9月25日腎生検。
腎生検前検査所見(1)
WBC:
RBC:
Hb:
Ht:
Plt:
PT:
APTT:
Fib:
8200
523×104
14.6
44.6
205×103
121
125
211
/mm3
/mm3
g/dl
%
/mm3
%
%
mg/dl
TP:
Alb:
AST:
ALT:
LDH:
Alp:
CK:
UA:
BUN:
Cre:
BS:
T-chol:
Amylase:
Lipase:
4.0
1.1
67
66
282
143
154
5.3
21
0.8
124
634
47
10
g/dl
g/dl
U/l
U/l
U/l
U/l
U/l
mg/dl
mg/dl
mg/dl
mg/dl
mg/dl
mg/dl
mg/dl
Na:
K:
Cl:
Ca:
Pi:
CRP:
HbA1c:
IgG:
IgA:
IgM:
CH50:
C3:
C4:
140
3.5
104
7.5
3.4
0.09
5.5
382
237
114
36.3
106
39
mEq/l
mEq/l
mEq/l
mg/dl
mg/dl
mg/dl
%
mg/dl
mg/dl
mg/dl
U/ml
mg/dl
mg/dl
検査所見(2)
免疫学的検査
抗核抗体:
尿定性
(−)
蓄尿
蛋白質:
(3+)
β2-MG:
431
μg/l
抗SS-A/Ro抗体: (−)
糖:
(−)
蛋白定量:
3221
mg/day
抗SS-B/La抗体:
(−)
潜血:
(−)
CCr:
78.6
ml/min
C-ANCA:
(−)
尿沈査
P-ANCA:
(−)
赤血球:
1</HP
eGFR:
53.86
ml/min
クリオグロブリン:
(−)
白血球:
1-4/HP
腹部CT、エコー
LEテスト:
(−)
硝子円柱:
100>/WF
両腎に萎縮なし
M蛋白:
(−)
WBC円柱:
5-9/WF
IgG
C3
C1q
C4
IgA
Fibg
IgM
IgG4免疫染色(酵素抗体法)
臨床経過
入院
CYA100mg
ロサルタン50mg/日
30
(g/dl)
25
25mg
PSL40mg/日
20
150
60
50mg
30mg
2.0
(mg/dl)
Alb
1.0
Cre
1.0
0.5
腎生検
(mg/日)
14000
1日尿蛋白量
7000
9/3
9/25
10/2
10/10
10/15
10/22
10/30
11/5
IgG4関連硬化性疾患の概念
z
1961年:Saringら
IgGが高値を示す膵炎を発表
z
1992年:Weningら
自己免疫性膵炎を提唱
z
2001年:Hamanoら
自己免疫性膵炎にIgG4が関与、また膵外症状としてい
ろいろな症状が出るものを合わせてIgG4関連硬化性疾
患という概念が生まれた
Discussion Point
z
z
z
自己免疫性膵炎に、間質性腎炎が合併することは報告され
ているが、糸球体疾患の報告は少ない(糸球体疾患の中では
数例の膜性腎症の報告があったのみである)。
蛍光抗体法でIgG、C3以外にC1q、C4が陽性であることから二
次性膜性腎症と考えたいが、IgG4染色は上皮側になく間質中
心であった。
自己免疫性膵炎による間質病変はIgG4染色パターンから理
解しやすいが、糸球体病変についてはIgG4が陰性であり、ど
のように考えればよいか?