発表内容

太陽風起源禁制X線遷移の実験室観測
を目的とした多価イオントラップの開発
原子物理研究室
A0876315 沼舘 直樹
研究背景
当研究室では太陽風における電荷交換反応後
の主要な発光遷移と考えられている寿命の長い
禁制遷移O6+:3S, 3P → 1Sの実験室観測を計画*
1.ECRイオン源でO7+を生成
2.原子・分子と衝突させ準安定励起状態O6+へ
3.Kingdon トラップでO6+捕獲
4.禁制遷移O6+:3S, 3P → 1Sの観測
発光断面積を測定
*首都大学東京、電通大共同研究
本研究の目的
禁制遷移の実験室観測に必須となる
Kingdonトラップの開発とその性能評価
性能評価ではAr2+を使用
実験装置全体図
ECRイオン源
NANOGAN
今回新たに開発した部分
500 mm
deflector
Kingdon trap
SSD
slits
Einzel lens
FC2
FC1
Analyzing magnet
差動排気用
オリフィス(φ2.5)
)
オリフィス(
deflector
MCP
ECRイオン源の原理
イオン源の原理
• ECR:Electron Cyclotron Resonance(電子サイク
ロトロン共鳴)
磁場中にある電子はローレンツ力を受けサイクロ
トロン運動(円運動)をする
電子のサイクロトロン周波数に等しい周波数のマ
イクロ波を電子に印加すると、共鳴的に吸収し電
子の運動エネルギーが増大する
この加速された電子が中性粒子・多価イオンと衝
突することで、電子が剥ぎ取られ逐次電離する
ECRイオン源(
イオン源(NANOGAN)
)
イオン源(
電子サイクロトロン周波数 fc = 10 GHz @ 0.357T
引き出し電圧 Vacc = 4~10 kV
Arq+質量スペクトル
トラップ後方のFCで測定
トラップ後方の で測定
MW:60W, 10kV, 1.6mA, Ar:2.0e-6Torr
MW:60W, 10kV, 1.6mA, Ar:2.0e-6Torr
12
0.12
Ar5+
Ar2+
0.1
イオン電流
イオン電流(nA)
10
イオン電流
イオン電流(nA)
Ar
+
8
6
Ar3+
4
Ar5+
Ar4+
2
Ar6+
0.08
0.06
0.04
Ar8+ Ar7+
0.02
拡大
0
0
0
5 10 15 20 25 30 35 40 45
質量電荷比(M/Q)
質量電荷比
4
5
6
7
8
質量電荷比(M/Q)
質量電荷比
•Ar8+までスペクトル確認
までスペクトル確認
•トラップ実験での引き出し電圧(
トラップ実験での引き出し電圧(4.0
kV)では
)ではAr
トラップ実験での引き出し電圧(
)では 2+:8 nA
9
Oq+質量スペクトル
O2ガス
ビームライン上のFCで測定
ビームライン上の で測定
100
O2:10%, He:90%混合ガス
混合ガス
トラップ後方のFCで測定
トラップ後方の で測定
MW:50.4W, 10kV, 1.14mA, O2:3.0e-7Torr
7
He+,O4+
6
60
イオン電流
イオン電流(nA)
80
イオン電流
イオン電流(pA)
MW:60.5W, 10kV, 0.11mA, O2:1.2e-7Torr
O7+
40
O+
5
4
3
O2+
2
20
1
0
O3+
0
1.5
2
2.5
3
3.5
質量電荷比(M/Q)
質量電荷比
4
2
4
6
8 10 12 14 16
質量電荷比(M/Q)
質量電荷比
•O7+までの生成を確認できた
•トラップ後方では
トラップ後方ではO
トラップ後方では 3+まで確認
→ビームアライメントの最適化が必要
ビームアライメントの最適化が必要
18
Kingdon trapの原理
の原理
• リング・エンドキャップ電極よりも
相対的に低い電圧をワイヤー電
極に印加することで、井戸型ポテ
ンシャルを形成し、多価イオンを
捕獲する
• 左下の図はトラップ内でのイオン
軌道のシミュレーション
• イオンはワイヤーの周りを旋回
Kingdon trap
リング
エンド
キャップ
格子
ビーム方向
ガイシ
リング電極内径:50mm
ワイヤー直径:100µ
µm
エンド電極間:50mm
•電極:ステンレス
電極:ステンレス
•ガイシ:ステアタイト(絶縁体)
ガイシ:ステアタイト(絶縁体)
測定のタイミングチャート
ビーム&ワイヤーON
ワイヤーOFF
ビームOFF
発振器と
使用
発振器とDelay Generator使用
ワイヤーON
&
MCSトリガーON
トラップ内にビーム
が入り込む
トラップ開始
トラップされたイオ
ンが吐き出され、
検出される
トラップ結果(Ar
トラップ結果( 2+)
MCS dwell:200 ns, 25000 ch, 統計:3000
トラップ時間:5.4 ms
50
200
ポテンシャル深さ:0.6
kV
ポテンシャル深さ
カウント数:557
カウント数
ポテンシャル深さ 0.2 kV
カウント数:194
カウント数
40
150
30
100
20
50
10
0
0
0
0.002
0.004
0.006
0.008
0.01
0.012
0.014
0
0.002
0.004
0.006
0.008
ECR: 75.9W, +4.0 kV, 0.41mA, VB=1.761V(Ar2+), VEinzel=0 kV
P =4.6E-7 Pa, MCP: −1.60 kV, Vdef1 = −51V(ON), +93V(OFF)
0.01
0.012
0.014
寿命測定(Ar
寿命測定( 2+)
トラップ信号
トラップ信号(counts)
MCS dwell:200 ns, 25000 ch, 統計:3000
ポテンシャルの深さ:0.4 kV
120
100
80
60
40
20
0
0
100
200
300
トラップ時間(ms)
トラップ時間
400
ECR: 74.0W, +4.0 kV, 0.45mA, VB=1.742V(Ar2+), VEinzel=0 kV
P =6.0E-7 Pa, MCP: −1.70 kV, Vdef1 = −51V(ON), +93V(OFF)
•カウント数の変化は見られない
→ばらつきが大きいのはビーム強度の変動と統計が足りないため
•寿命測定には長いトラップ時間での測定が必要
まとめ
• 新たに多価イオントラップの実験系と測定系の立
ち上げを行った
• 多価イオンの生成
引き出し電圧10 kVで、Ar8+、O7+まで生成確認
• Kingdon トラップでAr2+のトラップに成功した
今後の課題
• トラップ後方FCでのO7+の観測
生成・観測条件の最適化
• トラップ条件の最適化
ビーム、トラップ電極電圧の安定化
• 入射イオンエネルギーの増大(4 kV → 10 kV)
• Arq+、Oq+のトラップ寿命測定
本研究は首都大学東京、電気通信大学レーザー新
世代研究センターとの共同研究として行われた。