Vol.33 No.4,2014 126 センターニュース 分析機器解説シリーズ(126) ◆超高感度ナノプローブEPMA:EPMA-8050Gのご紹介 ……… P1 ◆お知らせ ………………………………………………………………………………………………… P6 株式会社島津製作所 分析計測事業部 グローバルマーケティング部 宮本 丈司 ◆中央分析センター(筑紫地区) 装置利用状況 ◆中央分析センター伊都分室 利用状況 ………………………… P7 ………………………………………… P8 分析機器解説シリーズ (126) 超高感度ナノプローブ EPMA:EPMA-8050G のご紹介 株式会社島津製作所 分析計測事業部 グローバルマーケティング部 宮本 丈司 1 はじめに どの情報を得ることも可能となる。このようにEPMA は微小部の分析ツールとして非常に有用な装置であ Electron Probe Micro Analyzer(略してEPMA) り、 マイクロアナリシスの様々な用途で使用されてい は、発明者であるフランスのCastaingの命名による る。 ものであり、当初日本国内ではX線マイクロアナライ 市販EPMAのラインアップは搭載される電子銃の ザと呼ばれることが多かった。しかしEPMAは、SEM 種類で大別され、汎用機であるタングステン熱電子 (Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微 銃型(W-EPMA)、中級機である単結晶エミッタ(六 鏡)としての観察機能をはじめとして、電子線を照射 ホウ化セリウムなど) (CeB6 -EPM A)、そして高級 して微小部の種々の情報を得る総合的な分析装置と 機である電界放射型(FE-EPMA)に分けられる。近 しての機能を有するようになり、検出信号がX線だけ 年ではより高い空間分解能を要求される場合にFE- に限定されないことから、現在は電子線マイクロアナ EPMAを利用するケースが増えてきているが、従来の ライザと呼ばれることが一般的である。 FE-EPMAでは大電流時がとれないこと、また大電流 EPMAは、細く絞った電子線を試料に照射し、微小 時でのビーム径の拡がりが大きく、検出感度と空間分 部から発生する特性X線を検出することで、定性・定 解能の点で満足されていない。 量分析を行うことができる。また同時に発生する電子 この点を解決すべく、島津製作所は"大照射電流を や光も利用して、表面形状や電気的特性・結晶状態な より細かな電子線径に絞れる"新FE電子光学技術を (1) 分析機器解説シリーズ(126) 自社で確立し、過去50年に渡り培ってきた定評ある ため、電子線径を自動的に最小化でき、対物絞りの交 高いX線取り出し角度を始めとするX線分光技術と統 換も不要である。 合することで、高い空間分解能を実現しつつ、大電流 加えて、島津製作所製EPM Aのコンセプトである を照射することが可能な世界最高性能を持つ超高感 52.5°の高いX線取り出し角度(図2)により、研磨で 度ナノプローブEPMA:EPMA-8050Gを新しく開発し きない凹凸試料の分析はもとより、高いX線空間分解 た。 能、少ないX線の試料内での吸収による感度の向上、 本稿では、超高感度ナノプローブEPMA:EPMA- 分光時の感度と分解能を両立させたヨハンソン型分 8050Gとその応用について紹介する。図1にEPM A- 光結晶(図3)も備えていることから、様々な試料にお 8050Gの装置外観を示す。 いてより優れた分析を行うことが可能である。 二次電子分解能 3nm(30kV) 20nm(10nA,10kV) 50nm(100nA,10kV) 150nm(1μA,10kV) 最大照射電流 3μA 表 1 EPMA-8050G の特筆すべき性能 図 1 EPMA-8050G の装置外観 2 EPMA-8050G の特長 EPMA-8050Gは高分解能と高感度の両立を実現 し、X線分析で必要となる大照射電流条件下での二次 電子分解能および最大照射電流値を表1に示す。3nm はEPMAにおける最高分解能値であり、3μAはこれま でのFE-EPMAを凌駕する最大照射電流値である。こ れらは新しいショットキーエミッタ、電子光学系、除振 図 2 高い X 線取り出し角度 (52.5° ) 機構、磁気シールド、超高真空排気システムの搭載に より実現した。 新規開発のFE電子光学系は、コンデンサレンズを 電子銃側にできる限り近づけ、対物絞りと同位置に配 置したアイリスレンズによりクロスオーバを形成する (特許:第4595778号)。これらの新技術により、大電 流照射時にも電子線を絞ることができるため、元素分 析(大電流)時にも良好なビーム特性を維持すること ができる。 (20nm:10nA:10kV、50nm:100nA:10kV、150nm:1μ A:10kV) また全ての電流条件で開き角が最適に設定される (2) 図 3 ヨハンソン型分光結晶 分析機器解説シリーズ(126) 3 EPMA-8050G を用いたアプリケーション 50nm:100nA:10kV、150nm:1μA:10kVの二次電子分解 能を実現している。 3-1. かつてない卓越した空間分解能 図4は、錫粒子の二次電子像であり、照射電流を 観察条件において二次電子分解能3nm(30kV) 10nA,100nA,1μAと変えたときの各電子銃ごとの画 を 実 現 し 、元 素 分 析 条 件 に お ける 大 電 流 照 射 質の違いを表す。 時にも電子線を絞れるため、20 n m :10 n A :10kV、 図 4 各電子銃のプローブ特性比較(加速電圧 10kV) 3-2. 大電流による世界最高の感度 EPMA-8050Gは最大で3μAもの大電流を照射でき るため、極めて微量な元素も高感度に検出することが 可能となる。図5は、ステンレス中に約1%含まれてい るSiのマッピング分析を、異なる照射電流値で実施し た結果である。照射電流値が大きくなるほど信号強 度が強くなり、Siを含む領域がより明確になっている ことがわかる。 (3) 分析機器解説シリーズ(126) ピング分析した結果であり、鉄(Fe)とチタニウム (Ti)の分布を示す。 100nA 500nA 1.5 μ A 図 5 照射電流毎の信号強度比較 反射電子像 鉄 (Fe) 3-3. 高いX線取り出し角度の優位性 EPMA-8050Gを含む島津製作所製EPMAのX線取り 出し角度は52.5°と高いため、発生するX線の試料内 での自己吸収が小さく、空間分解能に優れている。加 えて、深く空いた穴の底や穴の中にある異物など、凹 凸のある試料に対しても分析可能である。 図 6 は 、ピ ット の 穴 の 中 に あ る 異 物 を マ ッ (4) チタニウム (Ti) 図 6 ピットの穴の中にある異物 分析機器解説シリーズ(126) 3-4. その他のアプリケーション 図8は、抗がん剤カルボプラチンを投与したマウス 図7は、鉛フリーはんだ中でAgが多く含まれる領域 の頭頸部腫瘍組織内にデリバリーされた、抗がん剤 を、 マッピング分析したデータである。 成分(白金錯体)である白金(Pt)の存在をEPMAに 反射電子像では赤丸の粒子と黄丸の粒子のコント よる元素イメージングで捉えたデータである。 ラスト差が小さく、判別が付かないが、X線像により赤 カルボプラチンは癌細胞内の遺伝子本体である 丸の粒子はAgであること、黄丸の粒子はCuであるこ DNA鎖と結合することで、DNAの分裂(複製)を阻害 とが確認できている。 して癌細胞を死滅させる特長を持ち、抗がん剤がど また、直径0.1μm程の大きさの粒子もX線像で識別 のような形態で癌細胞内に届いているのかを元素イ できていることがわかる。 メージングにより確認することができる。 反射電子像 反射電子像 Ag Pt 図8 生体組織中のPtの分布 Cu 図 7 鉛フリーはんだ中の Ag,Cu の分布 (加速電圧 :10kV、照射電流 :20nA) (5) 分析機器解説シリーズ(126)/お知らせ 4 5 おわりに 参考文献 様々な新技術の搭載によりEPMA-8050GはEPMA 副島啓義(1987) :電子線マイクロアナリシス,日刊工 として世界最高峰の性能を得ることができた。また、 業新聞社,p.3 長い歴史により培われた技術との融合により、これま で困難であったアプリケーションが実現できるように なり、今後、更に様々な分野・用途での活躍が期待さ れる。 お 知 ら せ 平 成 26 年 3 月 に Bruker 製 高 分 解 能 3 次 元 X 線 CT シ ス テ ム (SKYSCAN1172)が伊都地区中央分析センターに導入されました。試料の内部構造 観察や各種 3 次元計測を行うことが可能です。本装置の取扱い説明は、2014/4/15 と 2014/8/5 に行われました。 (6) 平成25年度 装置利用状況 中央分析センター(筑紫地区) 装置利用状況 (平成 25 年度) セ ン タ ー ( 筑 紫 地 区 ) 所 管 機 器 名 高周波2極スパッタ装置 (SPF210HRF) 件 数 時 間 8 65 93 476 5 39 顕微赤外分光分析装置(MFT2000) 100 49 超高感度示差走査熱量計 (DSC6100) 6 20 高感度示差走査熱量計 1 5 レーザー粒径解析装置 (LPA300) 271 81 赤外分光分析装置 291 399 775 1137 エスカ表面分析装置 (AXIS165) 環境制御型走査プローブ顕微鏡 計 中 央 分 析 セ ン タ ー 伊 都 分 室 利 用 状 況 (平成 24 年度) 伊 都 分 室 所 管 機 器 名 超伝導核磁気共鳴吸収装置 (JNM-ECP400) 件 数 時 間 1,796 1,365 ICP質量分析装置 (Agilent7500c) 12,755 775 ICP質量分析装置 (Agilent7700x) 1,267 103 粉末X線回折装置 (MultiFlex) 632 681 全自動水平型多目的 X 線回折装置 (SmartLab) 529 540 4 11 エネルギー分散型蛍光X線分析装置 (EDX-800) 192 95 走査型電子顕微鏡 (SS-550) 478 379 エネルギー分散型X線分析装置 ( 電顕付属 ) (Genesis2000) 534 822 電界放出形走査電子顕微鏡 (JSM-6701F) 313 365 70 83 1,142 846 低真空分析走査型電子顕微鏡 (SU6600) 710 1,663 走査型プローブ顕微鏡 (DimensionIcon) 94 292 3 D測定レーザー顕微鏡 (OLS4000) 184 118 イオンコーティング装置 (JFC-1600) 864 135 X 線分析顕微鏡 (XGT-5000) 電子線 3 次元粗さ解析装置 (ERA-8900) 超高分解能電界放出型走査型電子顕微鏡 (SU8000) (7) 平成25年度 装置利用状況 カーボンコータ (SC-701C) 194 44 フラットミリング装置 ( IM -3000) 373 167 9 19 1,7649 845 318 255 熱分析システム (SSC5200) 5 13 熱分析装置 (EXSTAR7000) 483 858 自動薄膜計測装置 (Auto SE-UK) 123 62 24,833 10,536 件 数 時 間 イオンミリング装置 (E-3500) フーリエ変換赤外分光光度計 (FT/IR-620) 顕微レーザーラマン分光装置 (ARAMIS) 計 管 理 超伝導核磁気共鳴吸収装置 (AV-300M) 超伝導核磁気共鳴吸収装置 (AVANCE500) 高性能 X 線光電子分光解析装置 (ESCA5800) 1017/- 541/- 7/- 1/- 12/23 54/45 -/3 -/31 -/1 -/4 20/- 2/- -/1 -/5 -/13 -/13 -/7 -/7 -/24 -/749 911/65 683/285 188/- 53/- 用 2,155 1,334 用 137 1,139 人 工 酵 素 化 学 ナ ノ 組 織 化 学 固体高分解能NMR (JNM-CMX300) 超高分解能走査型電子顕微鏡 (S-5200) 応 用 無 機 化 学 イオンスパッタ装置 (E1030) 動的二次イオン質量分析装置 (SIMS4000) ICP 発光分光分析装置(OPTIMA3100RL) 原子吸光分光光度計 (AA-7000) 磁化率測定装置 (MPMS-XL7TZ) 高速液体クロマトグラフ質量分析計 (LCMS-IT-TOF) レーザーイオン化飛行時間質量分析装置 (AXIMA-CFR plus) 合 計 機 能 組 織 化 学 バイオプロセス化学 極 低 温 実 験 室 農・ 微 生 物 工 学 内 他 部 部 利 門 利 (* 内部利用 / 他部門利用) 九州大学中央分析センターニュース 九州大学中央分析センター(筑紫地区) 〒816-8580 福岡県春日市春日公園6丁目1番地 TEL 092-583-7870/FAX 092-593-8421 第126号 平成27年1月16日発行 九州大学中央分析センター伊都分室(伊都地区) 〒819-0395 福岡市西区元岡744番地 TEL 092-802-2857/FAX 092-802-2858 ホームページアドレス http://www.bunseki.cstm.kyushu-u.ac.jp (8)
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