福島第一原子力発電所事故の対処に係る研究開発 1- 20 滞留水中の難測定核種の分析手法の開発 -β線計測によるカドミウム 113m 分析法の構築- 30 mℓ 試料 Cd担体 1 mg 蒸発・乾固 㻝㻜㻜 溶離液回収 Sr 2 M塩酸 10 mℓ 1.2 M塩酸 10 mℓ 1 M硝酸 15 mℓ 1 M硝酸 30 mℓ 陰イオン 交換樹脂 㻡㻜 廃棄 㻜 㻝㻜㻜 Fe 蒸発・乾固 0.1 M硝酸 試料溶液 回収率 㻡㻜 10 mℓ (9 mℓ) (0.5 mℓ) シンチレータ 11 mℓ β線測定 (液体シンチレーションカウンタ) 㻜 㻝㻜㻜 0.5 M硝酸 回収率測定 (ICP-AES) 図 1-42 113mCd 分析フロー 溶離液(1 M 硝酸)の始めの 15 mℓは廃棄し、後の 30 mℓ で Cd を回収します。 Zn (%) 㻡㻜 100 36 Cl 113m Cd 㻜 㻝㻜㻜 80 㻡㻜 㻜 㻝㻜 㻞㻜 㻞㻡 㻟㻜 㻟㻡 㻠㻜 㻠㻡 㻡㻜 㻡㻡 㻢㻜 㻢㻡 㻣㻜 㻣㻡 (a) (b) 計数効率 Cd 99 Tc 60 14 C 40 (%) (c) 流出液量 (mℓ) 20 (a) 試料流出液(b) 洗浄液:1.2 M 塩酸(c) 溶離液:1 M 硝酸 0 150 図 1-41 Cd 及び共存元素の回収率と流出液量の関係 分離条件は、試料を 2 M 塩酸溶液 10 mℓに調製後、(a)陰イオ ン交換樹脂に通液し Cd を樹脂に吸着させます。次に、 (b)1.2 M 塩酸 10 mℓで樹脂を洗浄し、その後 (c) 1 M 硝酸 55 mℓを通液 し Cd を溶離します。 東京電力福島第一原子力発電所では、放射性核種を 含む滞留水の処理が進められており、水処理設備のひ とつとして多核種除去設備(ALPS)が稼働しています。 ALPS による放射性核種の除去性能を確認するには、そ の処理水の放射能濃度を把握する必要があります。評価 対象核種の一つであるカドミウム 113m(113mCd)は γ 線の 放出率が小さく(0.023%) 、非破壊 γ 線測定が適用でき ないため、放出率の大きな β 線(放出率:99.9%)を測 定する新たな分析法について検討を行いました。 113mCd の β 線を精度良く測定するためには、測定の妨 害となる元素(核種)を分離する必要があります。この分 離には、陰イオン交換法を適用することとし、Cd 及び共 存元素の吸着状態や溶離挙動を確認するため分離条件の 検討を行いました。分離条件と結果を図 1-41 に示します。 Cd は流出液 45∼50 mℓ (溶離液通液後 25∼30 mℓ)に ほぼ全量が溶出しており、流出液 35 ∼ 65 mℓ(溶離液 通液後 15 ∼ 45 mℓ)を回収すれば、ほかの元素から効率 250 350 450 550 クエンチング指標 (tSIE) 図 1-43 クエンチング補正曲線 14 C(156 keV) ,99Tc (294 keV)及び 36Cl(709 keV)から 113m Cd (561 keV)の計数効率を推定しました。 良く分離・回収できることが分かりました。この結果に 基づき作成した 113mCd 分析フローを図 1-42 に示します。 β 線の測定には、液体シンチレーションカウンタを使 用しますが、測定試料のクエンチング(消光現象)により 計数効率が低下します。このため、β 線測定においては、 クエンチング補正曲線を作成し、効率補正を行う必要が あります。しかし、113mCd の標準溶液は入手が困難なた めクエンチング補正曲線を作成することができません。 そこで、入手が容易なほかの β 線核種の標準溶液を用い てクエンチング補正曲線を作成し、113mCd の β 線計数効 率を推定しました (図 1-43) 。このようにして構築した 本分析法を ALPS 処理水を想定した模擬試料に対して 適用したところ、Cd 回収率は 97% 以上と安定しており、 目標としていた検出下限値(0.004 Bq/mℓ)を達成す ることができました。以上の検討により、ALPS の本 格運転に向けた性能評価に対して貢献することができま した。 ●参考文献 安田麻里ほか, 液体シンチレーションカウンタを用いる β 線計測法による福島第一原子力発電所の滞留水中の 113mCd 分析法の検討, 分析化学, vol.63, no.4, 2014, p.345-350. 原子力機構の研究開発成果 2014 31
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