見る/開く

Title
Studies on the Roles of the Phosphatidy1-inositol-3
Kinase/Akt/Mammalian Target of
Rapamycin(PI3K/Akt/mTOR)Pathway in Newly Derived Canine
Hemangiosarcoma Cell Lines and Spontaneous Canine
Hemangiosarcomas( 内容と審査の要旨(Summary) )
Author(s)
村井, 厚子
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(獣医学) 甲第378号
Issue Date
2013-03-13
Type
博士論文
Version
none
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/48004
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
村
氏名(本(国)籍)
主
指
導
教
員
名
井
厚
子(愛知県)
学
位
の
種
類
博士(獣医)
学
位
記
番
号
獣医博甲第378号
日
平成25年3月13日
学位授与年月
柳
教授
岐阜大学
井
学位授与の要件
学位規則第3条第1項該当
研究科及び専攻
連合獣医学研究科
徳
磨
the
Phosphatidyl-inosito卜3
獣医学専攻
岐阜大学
研究指導を受けた大学
学
位
論
文
題
目
Studies
the
on
Roles
of
Target
Kinase/Akt/Mammalian
(PI3K/Akt/mTOR)Pathwayin
Hemangiosarcoma
of
Rapamycin
Newly
Derived
CellLines
Canine
Spontaneous
and
Canine
HemanglOSarCOmaS
(新規樹立犬血管肉腫細胞株と自然発生犬血管肉腫におけ
るphosphatidyl-inositol-3kinase/Akt/tnammalian
target
of
rapamycin(PI3K/Akt/mTOR)経路の役割に関す
る研究)
審
査
委
員
論
主査
岐 阜 大 学
教
授
丸
尾
幸
副査
帯広畜産大学
教
授
首
林
与志安
副査
岩手大学
教
授
御
領
政
副査
東京農工大学
教
授
渋
谷
副査
岐 阜 大 学
教
授
桝
井
文
の
内
容
の
要
嗣
信
淳
徳
磨
旨
犬血管肉腫(HSA)は血管内皮細胞(EC)由来の悪性腫瘍で,侵襲性が高く,容易に転
移する。その治療法は有効な方法が確立されていないことから,本研究ではHSAのシグナ
ル伝達分子をターゲットとした新たな治療法の開発を目的とした。まず,HSA細胞株を樹
立し性状解析を行い,次いで,この細胞株における
phosphatidyl-inositol-3
kinase/Akt/mmmaliant訂getOfrapamyCin(PI3K/Akt/mTOR)経路の細胞増殖への関与を調べ
た。さらに,犬の自然発生血管系腫瘍におけるAk〟mTOR/eukaryotic
tranSlationinitiation
fhctor4E(eIF4E)-bindingproteinl(4E-BPl)経路の活性について検討した。
第一章では,既に樹立された肝臓,右心房および牌臓由来のHSA異種移植腫瘍株から,
7株の形態学的に異なるHSA細胞株を樹立し,これら全細胞株が犬ECの性質を有するこ
とを確認した。次いで,ECに対する増殖因子,あるいは血清の細胞増殖に対する効果を
-135-
WSTしl法で検討したところ,1株で増殖因子あるいは血清下で,増殖促進が認められ,3
株では血清下のみで増殖促進が,残る3株では増殖因子あるいは血清下のいずれでも増殖
促進効果は認められなかった。そこで,血清刺激によるMAPK/Erk経路とPI3K/Akt/mTOR
経路の活性化についてウエスタンプロット法で検索したところ,血清刺激により増殖促進
が認められた3株を含む4株で,P44/42ErkThr202/Tyr204のリン酸化が増加したことから,
血清刺激による増殖促進にはMAPK/Erk経路が関与している可能性が示唆された。一方,
AktSer473,mTORcomplexl(mTORCl)Ser2448とその下流の4E-BPlは,6株で血清刺激に
反応せず,恒常的なリン酸化を示したことから,HSA細胞株ではmTORC2/Akt/4E-BPl経
路が恒常的に活性化していることが示唆された。
第二章では,PI3K/Akt/mTOR経路の治療ターゲットとしての有用性を検討するために,
同経路に対する分子標的阻害剤を用いた実験を行った。すなわち,HSA細胞株に,PI3K
阻害剤のLY294002を加えたところ,全ての細胞株で容量依存性に細胞増殖が抑制され,
PI3KJAkthnTOR経路のタンパクのリン酸化も低下した。一一方,mTORCl阻害剤のrapamyCin
を加えると全株でmTORCISer2448のリン酸化が低下したが,細胞増殖は3株のみで抑制さ
れた。これらの細胞株では,4E-BPlのリン酸化が低下しており,そのうち2株ではAktSer473
のリン酸化も低下していた。R叩amyCinによって増殖が抑制されない株では,4E-BPISer65
のリン酸化には変化はなく,AbSer473のリン酸化は1株で増加しており,その他の株では
変化しなかった。これらのことから,HSA細胞株の細胞増殖は,mTORClに依存しない,
mTORC2/AME-BPl経路によって制御されている可能性が示唆された。
第三章では,外科的に切除したHSA37例,犬血管腫(HA)27例,肉芽組織4例,正常
′皮膚4例について,リン酸化Ab(p-Akt)Thr30$ぉよびSer473,P-mTORCISer2448,P-4E-BPI
Thr37〟6,eIF4Eに対する免疫染色を行い,自然発生犬血管系腫瘍におけるAkt/mTOR/4E_BPl
経路の活性を調べた。その結果,約80%のHSAで,P-AktSer473ぉよびThr308,P-4E-BPI
Thr37〟6,eIF4Eの中等度から高度の発現が認められた。これはHAに比べて有意に高い割
合だった。一方,HSAでは35%のみでp-mTORCISer2448の弱から中等度の発現が認めら
れた。これらのことから,自然発生HSA
ではmTORClとは別に制御された,
mTORC2/AktAE-BPl経路が活性化していることが示唆された。
以上,本研究で樹立したHSA細胞株と自然発生のHSAでは,mTORClに依存しない
mTORC2/AktAE-BPl経路が活性化しており,治療のターゲットとして有用である可能性が
示唆された。しかし,細胞株と自然発生腫瘍の間にはmTORCISer2448のリン酸化の状態に
差異も認められた。自然発生腫瘍には,腫瘍以外の血球や問質の細胞も含まれており,・こ
の局所環境の存在が違いに関与している可能性が示唆された。今回の研究は,f乃Vf加と加
Ⅴわ0の実験系の利点および欠点を明確にし,HSAの新規治療を確立するための有用な情報
を提供するものと考えられた。
-136-
審
査
結
果
の
要
旨
犬血管肉腫(HSA)は血管内皮細胞(EC)由来の悪性腫瘍で,悪性度が高く,容易に転
移するため,その治療法の確立が求められている。また,HSAではEC増殖因子とその受
容体の過剰発現が報告されているが,これらの刺激によるシグナル伝達機構の詳細は明ら
かでない。申請者はHSAにおけるシグナル伝達分子をターゲットとした治療法の確立に向
け,まず,樹立したHSA細胞株の性状解析を行い,次いで,その細胞株における
phosphatidyl-inositol-3kinase/AkthnammaliantargetOfrapamyCin(PI3K/AkthnTOR)経路の細
胞増殖への関与を検討,さらに,大の自然発生血管系腫瘍におけるAkt/mTOR/eukaryotic
translationinitiationfactor4E(eIF4E)-bindingproteinl(4E-BPl)経路の活性について調べ
た。
第一章では,既に樹立された肝臓,右心房および牌臓由来のHSA異種移植腫瘍株3株か
ら細胞を分離,培養し,60代以上継代後,7株の形態学的に異なるHSA細胞株を樹立した。
全細胞株に犬ECの性質を確認し,ECに対する増殖因子とその受容体のmRNAの発現は
細胞株によって様々であった。次いで,ECに対する増殖因子,あるいは血清の細胞増殖
に対する効果をWSTJl法で検討したところ,1株で増殖因子あるいは血清下での増殖促進,
3株で血清下のみの増殖促進が認められたが,残る3株では増殖因子あるいは血清下のい
ずれでも増殖促進効果は啓められなかった。また,血清刺激によるMAPK/Erk経路と
PI3E/Ak〟mTOR経路の活性化についてウエスタンプロット法で検索したところ,血清刺激
により増殖促進が認められた3株を含む4株で,p44/42ErkTbr20ユ/ヤr204のリン酸化が増加
したことから,血清刺激による増殖促進にはMAPKJErk経路が関与している可能性が示唆
された。一方,AktSer473,mTORcomplexl(mTORCl)Ser244$とその下流の4E-BPIThr37/46,
Thr70,Ser65は,6株で血清刺激に反応せず,恒常的なリン酸化を示していた。mTORC2は
AktSer473を活性化させるため,HSA細胞株ではmTORC2/Akt/4E-BPl経路が恒常的に活性
化している可能性を明らかにした。
第二章では,PI3K/Akt/mTOR経路の治療ターゲットとしての有用性を調べるため,この
経路に対する分子標的阻害剤を用いた実験を行った。HSA細胞株に,PI3K阻害剤である
Ⅰ∬294002
を添加したところ,全ての細胞株で容量依存性に細胞増殖が抑制され,
PI3K/Akt/mTOR経路におけるタンパクのリン酸化も低下した。さらに,mTORCl阻害剤の
rapamyCinを加えると全株でmTORCISer244$のリン酸化が低下したが,細脾増殖は3株の
みで抑制された。これらの細胞株では,4E-BPIThr37/36,Thr70,Ser65のリン酸化が低下し
ており,そのうち2株ではAktSer473のリン酸化も低下していた。Rapamycinによって増殖
が抑制されない株では,4E-BPIThr37/46とThr70のリン酸化は低下したが,Ser65のリン酸化
には変化はなかった。以上のことから,HSA細胞株の細胞増殖は,mTORClに依存しない,
mTORC2/Ak〟4E-BPl経路によって制御されている可能性を明らかにした。
第三章では,自然発生犬血管系腫瘍におけるAkt/mTOR/4E-BPl経路の活性を調べた。外
科切除されたHSA37例,犬血管腫(HA)27例,肉芽組織4例および正常皮膚4例につい
て,リン勧化Ab(p-Akt)Thr308ぉよびSer473,p-mTORCISer2448,P-4E-BPIThr37/46,eIF4E
に対する免疫染色を行ったところ,P-AbSer473ぉよびThr308,p-4E-BPIThr37A6,eIF4Eで
は中等度∼高度の発現が約80%の・HSAで,P-mTORCISer2448では軽度から中等度の発現
が35%のHSAのみで認められた。これらの結果から,自然発生HSAでは,mTORClとは
別に制御されたmTORC2/Akt/4E-BPl経路が活性化している可能性を明らかにした。
本申請者の研究成果は,わlVf加と加γル0の実験系の利点および欠点を明確にし,HSA
の治療への有用な基礎的情報を提供するものと考えられた。
以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合獣医学研究科の学位論
文として十分価値があると認めた。
-137-
基礎となる学術論文
目:ConstitutivephosphorylationofthemTORC2/Akt/4E-BPIpathwayinnewly
1)題
derivedcaninehemanglOSarCOmaCe111ines
著
者
名‥Murai,A.,Asa,SA.,Kodama,A.,Hirata,A.,%nai,T.andSakai,H.
学術雑誌名:BMCVeterinaryResearch
巻・号・頁・発行年月:8:128,2012
目‥ImmunohistochemicalanalysisoftheAkt/mTOR′4E-BPIsignallingpathwayin
2)題
CaninehaemanglOmaSandhaemanglOSarCOmaS
著
者
名‥Murai,A・,Asa,SA.,Kodama,A.,Sakai,H.,Hirata,A.andⅥnai,T.
学術雑誌名‥JotmalofComparativePathology
巻・号・頁・発行年月:147(4):430-440,2012
既発表学術論文
目:
1)題
EstablislmentofcaninehemanglOSarCOmaXenOgra負modelsexpresslng
endothelialgrowthfactors,theirreceptors,andang10geneSis-aSSOCiated
homeoboxgenes
著
者
名‥Kodama,A・,Sakai,H・,Matsuura,S・,Murakami,M.,Murai,A.,Mori,T.,MaruO,
K・,Kimura,T.,Masegi,T.andⅥmai,T.
学術雑誌名:BMCCanCer
巻・号・頁・発行年月:9:363,2009
2)題
著
目:Glomerular1ipidosisaccompaniedbyrenaltubularoxalosisinwildand
者
laboratory-rearedJapaneserockptmiganS(上agqpusmutusj甲Onicus)
名:Murai,A.,Murakami,M.,Sakai,H.,Shimizu,H.,Murata,K.andⅥmai,T.
学術雑誌名:AvianDiseases
巻・号・貢・発行年月:55(4):709-713,2011
目‥Expressionofplatelet-derivedgrowth血ctoranditsreceptorsinspontaneOus
3)題
CaninehemanglOSarCOmaandcutaneOushemanglOma
著
者
名:Asa,SA.,Murai,A.,Murakami,M.,Hoshino,Y,Mori,T.,MaruO,K.,Khater,A.,
El-Sawak,A.,el-Aziz,EA.,Ⅵmai,TlandSakai,H.
学術雑誌名:HistoIogyandHistopathlogy
巻・号・頁・発行年月:27(5):601-607,2012
目‥GH-ProducingmammarytumOrSintwodogswithacromegaly
4)題
著
者
名:Murai,A.,Nishii,N.,Morita,T.andⅦki,M.
学術雑誌名:TheJournalof%terinaryMedicalScience
巻・号・頁・発行年月:74(6):77l-774,2012
目‥OccurrenceofThelaziaCallipaedbandTbxocaracatiinanimportedEuropean
5)題
著
者
lynx(阜ynxb)nX)inJapan
名-:El-Dakhly,K.,Hadid,SAE.,Shimizu,H.,El-Nahass,ES.,Murai,A.,Sakai,H.
andⅥmai,T.
学術雑誌名:JoumalofZooandWildlifeMedicine
巻・号・貫・発行年月:43(3):632-635,2012
ー138-
目:Pathologicalftaturesof叫ノCObacteriumkansasiiinftctioninblackbeardedsakis
6)題
(C肋甲OJe∫∫αJα乃α∫)
著
者
名:Murai,A.,Murakami,T.,Inoue,M・,Ueda,H・,Shiihara,S・,Kimura,J・,Hirata,A・,
Sakai,H.andYanai,T.
学術雑誌名:JournalofComparativePathology
巻・号・頁・発行年月:147(4):566-569,2012
ー139-