一太郎 11/10/9/8 文書

連続延伸・熱処理した
ポリフェニレンサルファイド繊維の動的粘弾性
奥 村航 *
長 谷 部裕 之 * *
木水貢*
神谷 淳 * *
緒言
ポ リ フ ェ ニ レ ン サ ル フ ァ イ ド (以 下 ,PPSと す る 。)繊 維 は 耐 熱 性 や 耐 薬 品 性 に 優 れ て お り , 主 に 高 温 ガ ス 集 塵
用 の バ グ フ ィ ル タ ー と し て 利 用 さ れ て い る 。耐 熱 性 の 発 現 は ,PPS樹 脂 固 有 の 性 質 の み な ら ず ,溶 融 紡 糸 ,延 伸 ,
熱 処 理 等 の PPS繊 維 の 成 形 加 工 条 件 に も 依 存 す る 。し た が っ て ,成 形 加 工 条 件 と 得 ら れ た 繊 維 の 物 性 の 相 関 関 係
を評価することは,製品開発の上で欠かせない 。
一方,繊維やフィルム等の高分子固体の分子鎖熱運動評価の一つとして,動的粘弾性測定がある 。この測定
法は,弾性率の温度変化を解析することで,繊維やフィルム等の軟化現象を観察できる。
本 研 究 で は ,高 温 下 に お け る PPS繊 維 の 弾 性 率 の 知 見 を 得 る こ と を 目 的 と し ,動 的 粘 弾 性 測 定 を 行 っ た 。ま た ,
PPS繊 維 の 連 続 延 伸・熱 処 理 条 件 に よ る 弾 性 率 の 挙 動 の 変 化 を 評 価 す る こ と で ,連 続 延 伸・熱 処 理 条 件 と 耐 熱 性
の発現について検討した。
PPS繊 維 の作 製
原 料 ペ レ ッ ト に は ポ リ プ ラ ス チ ッ ク ス ㈱ 社 製 PPS( フ ォ ー ト ロ ン 0220C9) を 用 い た 。 ペ レ ッ ト を 粗 く 粉 砕 後 ,
160 o Cで 約 8時 間 真 空 乾 燥 を 行 っ た 。 こ の 樹 脂 に つ い て 東 測 精 密 工 業 ㈱ 社 製 の 溶 融 紡 糸 機 を 用 い , 孔 径 0.6 mm,
L/D=2,12 holeの ノ ズ ル か ら ,340 o C,10.5 g/minで 吐 出 し た 樹 脂 を ,200 m/minで 巻 き 取 り ,未 延 伸 繊 維 を 得 た 。
得 ら れ た 未 延 伸 繊 維 を 連 続 的 に 延 伸 ・熱 処 理 し た 。延 伸 試 料 と し て ,未 延 伸 繊 維 (No. 1)を 延 伸 温 度 90 o Cで 3お
よ び 4倍 に 延 伸 し た 試 料 (No.2,3),100 o Cで 3お よ び 4倍 に 延 伸 し た 試 料 (No.4, 5)を 作 製 し た 。 ま た ,熱 処 理 試 料
と し て , No.3の 試 料 を 熱 処 理 温 度 200 o Cで 熱 処 理 倍 率 が 1.05倍 お よ び 1.1倍 の 試 料 (No.6, 7)を 作 製 し た 。 表 1に 延
伸 ・ 熱 処 理 条 件 を ま と め , 複 屈 折 と 結 晶 化 度 Xcを 併 記 し た 。
表1
PPS 繊 維 の 連 続 延 伸 ・ 熱 処 理 条 件 .
Sample
No.
Draw
Ratio
1
2
3
4
5
6
7
as-spun
3
4
3
4
4
4
Drawing Annealing Annealing BirefrinTemp.
Ratio
Temp.
gence
/ oC
90
90
100
100
90
90
1.05
1.1
/ oC
200
200
×103
1.8
148
160
102
150
214
249
XC
%
1
6
15
3
16
27
27
PPS繊 維 の 動 的粘 弾 性 測 定
エ ス ア イ ア イ・ナ ノ テ ク ノ ロ ジ ー ㈱ 社 製 粘 弾 性 ス ペ ク ト ロ メ ー タ EXSTAR DMS6100を 用 い ,昇 温 速 度 0.5 K/min,
温 度 範 囲 50 - 100 o C,試 料 長 10 mm,振 幅 10 μ m,初 期 荷 重 10 mN,周 波 数 0.1,0.2,0.5,1 Hzで 測 定 を 行 っ た 。
但 し , 一 回 の 昇 温 で 4周 波 数 分 の 測 定 を 行 っ た 。
*企 画 指 導 部
** 繊 維 生 活 部
貯 蔵弾 性 率 E’の 挙 動
102
図 1 (a)に 結 晶 化 度 が 10%以 下 の 非 晶 の 試 料 (No.1,2,4:
(a)
以 下 , 非 晶 試 料 ), お よ び , 図 1 (b)に 結 晶 化 度 が 10%以 上
蔵 弾 性 率 E’を 示 す 。
o
非 晶 試 料 の E’ は , い ず れ も 80 C か ら 急 激 に 減 少 し ,
110 o C付 近 か ら 増 加 す る 。 こ こ で , PPS繊 維 の ガ ラ ス 転 移
o
10
E' / cN dtex-1
の 結 晶 化 し た 試 料 (No.3, 5 – 7: 以 下 , 結 晶 化 試 料 )の 貯
1
100
10-1
No.1
No.2
No.4
o
温 度 は 80 C,結 晶 化 温 度 は 110 Cで あ る 。従 っ て ,前 者 の
10-2
50
E ’ の 急 激 な 減 少 は ガ ラ ス 転 移 , 後 者 の E’の 増 加 は 結 晶 化
75
に起因する変化と考えることができる。特に未延伸繊維
70
す る と E’の 減 少 は 1~ 2桁 に 留 め る こ と が で き る 。こ れ は ,
60
延伸することで分子鎖の構造が安定していき,熱に対す
50
きる。
一方,結晶化試料は非晶試料とは異なり,結晶化によ
E' / cN dtex-1
の No.1は 80 o C近 傍 で 3桁 ほ ど E’が 減 少 す る の に 対 し ,延 伸
る力学的性質の低下を抑制できるためと考えることがで
る E ’ 増 加 は 観 察 さ れ ず , E’は 単 調 に 減 少 し た 。 ま た , 非
125
150
175
(b)
30
20
0
50
No.3
No.5
No.6
No.7
75
100
125
150
175
さ れ , 200 Cに お い て も 10 cN/dtexの E’を 保 持 し た 。
Tempareture / C
図 1 貯 蔵 弾 性 率 (E’)の 温 度 変 化 :(a)非 晶 試 料
(b)結 晶 化 試 料 ;測 定 周 波 数 0.5 Hz
101
図 2に 全 て の 試 料 の 損 失 正 接 (tan δ)示 す 。 tan δは E’の 変
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7
化 率 と 対 応 す る 。 従 っ て , tan δの ピ ー ク 温 度 は E’の 最 大
減 少 を 示 し た 温 度 と 対 応 し て お り ,PPS繊 維 の 軟 化 温 度 の
100
tan 
ほ ど E’の 減 少 が 低 い こ と を 示 す 。
200
o
o
指 標 と し て 用 い る こ と が で き る 。 ま た , tan δの 値 が 低 い
200
40
10
晶 試 料 と 比 較 し て 温 度 上 昇 に 伴 う E’の 減 少 は 著 し く 抑 制
損 失正 接 (tan δ)の挙 動
100
Tempareture / oC
非 晶 試 料 に お け る tan δの 最 大 値 を 示 す 温 度 は 95 – 98 o C
10-1
に 現 れ る の に 対 し , 結 晶 化 試 料 は 140 – 150 o Cに 現 れ た 。
ま た , 非 晶 試 料 の tan δの 最 大 値 は 約 0.2 – 1に 分 布 し て い
10-2
50
り,非晶試料と比較して一桁低い値となる。
以 上 の 動 的 粘 弾 性 の 測 定 結 果 と 表 1の 複 屈 折 と 結 晶 化 度
75
100
125
150
175
200
o
る の に 対 し ,配 向 結 晶 化 試 料 は 約 0.02 – 0.04に 分 布 し て お
Tempareture / C
図2
損 失 正 接 (tan δ )の 温 度 変 化 ; 測 定 周 波
数 0.5 Hz
の 結 果 よ り , 延 伸 ・ 熱 処 理 す る こ と に よ り PPS繊 維 は 分 子
鎖の配向とそれに伴う 配向結晶化により, 構造が安定化することで,力学的性質の耐熱性が向上したと考える
ことができる。
結言
連 続 延 伸・熱 処 理 し た PPS繊 維 の 動 的 粘 弾 性 を 測 定 し た 結 果 ,分 子 鎖 の 配 向 と 配 向 結 晶 化 に よ り 構 造 が 安 定 化
す る こ と で 力 学 的 性 質 の 耐 熱 性 が 向 上 し , tan δの 最 大 値 を 示 す 温 度 は 140 – 150 o Cと な り , 200 o Cに お い て も 10
cN/dtexの E’を 保 持 す る よ う に な っ た 。
論 文投 稿
繊 維 学 会 誌 2012, vol. 68, no. 12, p. 319-322.