知っておきたいDICの検査データ

[特集1]基礎疾患別DICを疑う視点
知っておきたいDICの検査データ
~何が増えて何が減るのか~
山口大学医学部附属病院 看護部 副看護師長
集中ケア認定看護師 石井はるみ
板数が減少し,APTT,PTが延長,FDP,D-ダ
DICの検査データとは
イマーが増加していればDICが考えられます。
凝固・線溶系とは,1つの反応が次の反応を
表1に知っておきたい凝固・線溶系に関係する
促進していくプロセスです。そのプロセスのど
検査の概要を示します。
こかで凝固と線溶が亢進し過ぎてしまったのが
血小板
DICです。
血液中の小さな円板状の細胞です。DICでは
DICには基礎疾患が必ずあり,すべての侵害
凝固が亢進し,血栓の材料である血小板が消費
刺激,生体侵襲は患者の急性期にDICを引き起
されるので減少します。通常,5万個/μL以下
こす可能性があります。DICの病態把握は治療
で出血症状が出現し,2万個/μL以下で補充療
に直結し,患者の予後に関与するものですから,
法が行われます。
検査データの把握は欠かせません。
PT(プロトロンビン時間)
4
4
4
知っておきたい凝固・線溶系に
関係する検査
PTは外因性の凝固時間を表したものです(図
採血を行った後,止血に時間がかかると感じ
組織が障害されると,外因,つまり血管外か
たら,検査データをチェックしましょう。血小
ら血管内へ凝固を促進する物質が流入してきま
1)
。
す。この物質を組織因子と言います。
表1:凝固・線溶系に関する検査
検査項目
血小板(PLT)
参考基準値
15.0 ∼ 40.0
(万個/μL)
組織因子の流入により凝固開始の命
概略
粘着能と凝集能を持ち一
次止血の主役
PT(プロトロンビン時間) 10 ∼ 12(秒)
外因性の凝固活性を見る
活性70 ∼ 120(%)
INR1±0.1
APTT(活性化部分トロン 23.9 ∼ 39.7(秒)
ボプラスチン時間)
内因性の凝固活性を見る
FDP
10.0以下(μg/mL) 線溶亢進状態を示唆
D-ダイマー
1.0以下(μg/mL) FDPの一種。凝固線溶亢
進を示唆。FDPの代替と
してD-ダイマーを使用し
てもよく,換算表がある
フィブリノゲン
200∼310(mg/dL) 一次止血にも二次止血に
も利用される
AT(アンチトロンビン)
82 ∼ 132(%)
TAT(ト ロ ン ビ ン・ア ン 3.0以下(ng/mL)
チトロンビン複合体)
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と複合体を形成して第Ⅹ因子を活性
化させ,次々に命令が伝わっていき,
最終的にたんぱく質のフィブリンが
できます。
PTとはこの凝固命令からフィブリ
ン完成までの時間を表しており,秒
表示や正常な患者と比べた活性表示,
患者のPTを正常PTで割ったPT-INR
表示があります。
血液凝固活性化に対抗し
て消費する。血液凝固制
御に必須の因子
APTT(活性化部分トロンボプラ
トロンビン生成の把握
凝固亢進の把握
APTTは,内因性の凝固時間を表
PIC(プラスミン・α2 プラ 0.8以下(μg/mL) プラスミン生成の把握
線溶亢進の把握
スミンインヒビター複合体)
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令が入ります。組織因子が第Ⅶ因子
スチン時間)
したものです(図1)
。
内因,つまり血管内で第ⅩⅡ因子
図1:PT(プロトロンビン時間)と
APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)の関係
固まりなさい!!
内因系
(血管内)
図2:安定化フィブリン
①
固まって!
!
ⅩⅡ
ⅩⅡ
ⅩⅠ
Ⅸ
ⅩⅡ
②
D
Ⅹ
Ⅴ
PT
③
D
E
Ⅱ
Ⅰ
D
E
トロンビン
D
フィブリン
Ⅷ
APTT
E
フィブリノゲン
=架橋結合
(プラスミン
に分解され
ない)
外因系
(血管外)
D
第ⅩⅢ因子
D
E
D
D
E
D
D
D
D
E
D
D
E
D
安定化フィブリン
フィブリン完成!!=凝固
フィブリノゲンにはD分画とE分画がある。トロンビンの作
用を受けてフィブリンへ,さらに第ⅩⅢ因子の作用で安定化
フィブリンとなる。
外因系の「固まって!
!」という指示からフィブリンができ
るまでの時間がPT,内因系の「固まりなさい!
!」という
命令からフィブリンができるまでの時間がAPTT。
図3:FDPとは
が血管内皮細胞以外の異物と接触することで凝
D
固の命令が入り,次々とほかの凝固因子を活性
E
化していき,最終的にフィブリンができるまで
の時間を表しています。
①
図1でも分かるように命令伝達が多いので,
フィブリノゲンは,トロンビンの作用を受け
てフィブリンへ,さらに第ⅩⅢ因子の作用で安
定化フィブリンとなります(図2)
。FDPは,
線溶化の活性化によりプラスミンという酵素が
フィブリンとフィブリンの元となるフィブリノ
D
E
D
D
E
D
D
D
D
E
D
D
E
D
E
②
D
プラスミン
D
E
④
FDP
フィブリノゲン
準値も約30秒は長くなっています。
プラスミン
プラスミン
D
PTよりフィブリン完成までに時間がかかり,基
FDP(フィブリノゲン・フィブリン分解産物)
プラスミン
③ 安定化フィブリン
D
D
E
D
E
E
D−ダイマー
E
D
E
D
D
D
D
D
D
D
D
フィブリン
プラスミンはD分画とE分画の間しか切れない。2分子のD
分画が結合したD-ダイマーは安定化フィブリンが分解され
た証である。
ゲンに作用して,D分画とE分画の間を切断し
DICの診断の上で重要視されてきたFDPです
て分解した産物の総称です(図3)。
が,過度にFDPのみを重要視すると診断が遅れ
一般的には凝固系が先に活性化し,続いて線
る恐れがあるので注意が必要です。
溶系の活性化が起こるので凝固系の亢進の検出
D-ダイマー
にも有効です。
凝固系が亢進すると,線溶作用で分解される
しかし,感染症を合併したDICではFDPの上
以上にフィブリンが作られて,安定化フィブリ
昇が軽度に留まります。これは,感染症を合併
ンになります。安定化フィブリンは2分子のD
したDICでは線溶に強いブレーキがかかり,血
分画が結合したD-ダイマー分画とE分画にし
栓が溶解しにくいためにFDPがあまり上昇しな
か分解できません(図3)
。
いと考えられています。
D-ダイマーが高くなるということは,大量
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の安定化フィブリンが分解されていることを意
パリン様物質と結合することで活性化し,トロ
味します。つまり,凝固亢進により血栓形成が
ンビンや第Ⅸa~ⅩⅡa凝固因子などに結合し
先行して起こり,その後で線溶系が活性化され
て凝固反応を阻害します。
たということが把握できます。
DICの多くではATは低下し,その診断や重症
AT(アンチトロンビン)
度判定に有用です。しかし,急性前骨髄球性白
ATは肝臓で生産され,血管内皮細胞上のヘ
血病のDICでは,TATは増加しますがATは低下
するので注意が必要です。
図4:DICの病態と検査データの増減
TAT(トロンビン・アンチトロンビン
①平常時では,体内の凝固・線溶系のバランスは保たれて
いるが,基礎疾患によりサイトカインや組織因子の血中
濃度が上昇することで発症のスイッチが入る。
凝固
線溶
サイトカイン↑
組織因子↑
複合体)
トロンビンが生成されると,その過剰な作用
を防止するATと結合して,作用を不活化させ
るTATを形成します。
したがって,TATはトロンビン生成のマーカー
となります。
②サイトカインや組
織因子により,血
小板や凝固因子が
活性化し,微小血
栓が形成される。
PIC(プラスミン・α2プラスミン
線溶
凝固
TAT↑
AT↓
赤沈↑
インヒビター複合体)
プラスミンによるフィブリン分解が進行する
と,α2-プラスミンインヒビターと結合して,
作用を不活化させるPICを形成します。
③形成された微小血栓を溶かすために線溶系が活性化さ
れ,フィブリノゲンやフィブリンがプラスミンにより分
解される。
凝固
PIC↑
線溶
D-ダイマー↑
FDP↑
したがって,PICはプラスミン生成のマー
カーとなります。
DICの病態と検査データ(図4)
DICでは,基礎疾患によりサイトカインや組
織因子の血中濃度が上昇し,血小板や凝固因子
④微小血栓の形成(②)と線溶(③)が繰り返し行われる
ことで,大量の血小板と凝固因子が消費される。
凝固
線溶
血小板↓
フィブリノゲン↓
APTT,PT↑
が活性化して微小血栓を形成します。この過程
では,血小板が消費されるので血小板数は減少
し,出血時間は延長します。また,凝固因子の
活性化と消費により,APTT,PTとTATは延長
し,ATは減少します。微小血栓形成のために
フィブリノゲンは減少し,赤血球沈降速度(赤
⑤凝固系は枯渇し,
出血傾向が現れ,
微小血栓に障害
された多臓器に
異常が見られる。
沈)は遅延します。
凝固
線溶
腎機能↓
肝機能↓
出血↑
医療情報科学研究所編:病気がみえるvol.5,血液,P.177,
メディックメディア,2008.より引用,一部改編
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続いて,形成された微小血栓を溶かすために
線溶が亢進し,その結果,FDP,D-ダイマー,
PICが増加し,プラスミノゲンは減少します。
この凝固と線溶の過程を繰り返すことで,血
知っておくと役立つこと~採血した血液にヘパリンを加えるとどうして固まらないのか?
ヘパリンが血液中のアンチトロンビン(AT)をパワーアップさせて,凝固反応が起こらないようにし
ているからです。ヘパリン自体に抗凝固作用はありませんが,アンチトロンビンと結合すると1,000倍の
抗凝固作用があり,トロンビンや第Ⅹa因子,第Ⅸa因子,第ⅩⅠa因子,第ⅩⅡa因子などの活性を阻害し
ます。
ヘパリン投与ではPT,APTTともに延長しますが,阻害される内因性の凝固因子がより多いAPTTで
薬剤効果をモニタリングします。
小板や凝固因子は枯渇し,血小板数,フィブリ
ノゲンのさらなる減少,APTT,PTの延長が進
表2:DICの検査データで増加・減少する項目
減少する項目
増加する項目
みます。また,微小血栓症による臓器障害が起
血小板
FDP
こると,多臓器に関する検査値が異常値を示し
APTT(凝固因子減少に
よる延長)
D-ダイマー
PT(凝固因子減少によ
る延長)
PIC
てきます。
凝固・線溶系の検査データにおいて,増加・
減少する項目をまとめると表2のようになりま
TAT
破砕赤血球(フィブリンに
赤血球が引っかかり血管内
で溶血)
フィブリノゲン
AT
す。凝固・線溶で使われる材料が減って,複合
体や分解物が増えると覚えましょう。
DICの分類に必要な検査
これまでは,DICなら血栓溶解のためにヘパ
リン投与と短絡的に治療を行ってきましたが,
DICの中には血栓が形成される以上に溶解する
表3:DICの分類にかかわる検査データ
線溶抑制型
線溶亢進型
D-ダイマー/ FDP比上昇(初
期では上昇しない)
TATが上昇(早期から上昇する)
D-ダイマー/ FDP比
低下
PICの高値が持続
(2)PICは線溶亢進型で高値になる
作用が亢進し出血症状を示すものがあり,抗凝
線溶系が活性化すると,プラスミンの生成が
固療法が適しているのか見直されています。
亢進します。すると,それを抑えようとPICも
また,基礎疾患により症状が異なります。そ
活性化します。そのため,線溶亢進型DICでは
こで,線溶抑制型と線溶亢進型の2つにDICを
PICが高値となります。
分類して治療方針を決定する必要が出てきまし
この複合体は血中半減期が短いので,必ずし
た。分類にかかわる検査データを表3に示しま
も病勢と数値が相関するとは限りませんが,高
す。次の3つを合わせて測定することで正確な
値が持続する場合は持続的な線溶亢進状態が考
分類が可能です。
えられます。
(1)TATは線溶抑制型で高値になる
(3)D-ダイマー/FDP比が重要
凝固系が活性化するとトロンビンの生成が亢
凝固系が亢進する線溶抑制型では安定化フィ
進します。すると,それを抑えようとアンチト
ブリンの割合が増えます。安定化したフィブリ
ロンビン(AT)も活性化します。
ンは,プラスミンでは完全に分解できないので
線溶抑制型DICでも線溶亢進型DICでもTAT
D-ダイマーが増えます。つまり,FDPの中の
は増加しますが,線溶抑制型DICではPICの増
D-ダイマーの割合が増えるのでD-ダイマー/
加が軽微なため,相対的にTATが増加します。
FDP比は上昇します。
そのため,線溶抑制型DICでは発症早期からTAT
一方,線溶亢進型では,フィブリノゲンと安
が上昇するので早期診断に有効です。
定化前のフィブリンがプラスミンによってどん
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