32抄録 川端浩一 和歌山県立医科大学みらい医療推進センター

捕手の二塁送球時における 3 種類の送球動作の比較
-体幹の動きに着目して-
川端浩一 1),浦田達也 2),伊藤章 3)
和歌山県立医科大学みらい医療推進センター1),大阪体育大学大学院 2),大阪体育大学 3)
1. 緒言
中間付近から投じられたストライクボールをキャ
走者に盗塁を試みられた場合,捕手は投手から
ッチャースボックス内で捕球した後,二塁ベース
の投球を捕球した後,素早く二塁ベースに送球す
上に接地された防球ネットにノーバウンド送球を
ることが要求される.このことから捕手には,捕
するよう指示した.
球からリリースまでの動作時間を短くすること,
投球がストライクでない場合やワンバウンド送
およびボール速度を高めることが要求される.二
球および送球したボールが防球ネットに当たらな
塁送球時の捕手の動きを見てみると,体幹を前傾
かった場合などは失敗試技とし,野球技術に精通
させ,深くしゃがみ込んだ姿勢で捕球した後,素
した 1 名の検者が成功と判断した試技が得られる
早く立ち上がり,ステップしながら身体全体を右
まで繰り返し実験を行わせた.
回転させ,投球態勢に入っていく.体幹は,この
動作の撮影には 2 台のハイスピードカメラ
一連の動作の中で前後,左右,捻りなど多くの動
(CASIO 社製 : Exilim-FH20)を用い,210fps
きを行っている.このため送球動作における体幹
(シャッター速度 1/1000sec)で撮影を行った.
の動きを把握することは,指導を行う上で重要で
両カメラともに高さを捕球姿勢の捕手の肩付近に
あると思われる.
合わせ,1 台はカメラの光軸がホームベースから
本研究では,3 種類の送球動作を用い,捕球か
二塁ベース方向と直交するようキャッチャースボ
らリリースまでの体幹の姿勢,およびボールの位
ックスの側方約 10m の地点に設置し,もう 1 台
置との関係について分析することで,投げ方の違
は,マウンドとホームベースの中間付近から一塁
いによる体幹の使い方の比較検討を行った.
側に約 2m 離れた地点に設置した.動作撮影用の
2. 方法
カメラの画角では,送球されたボールが二塁ベー
被験者は,大学の硬式野球部に所属する捕手 13
スに到達する時点を撮影することができないため,
名(身長:1.735±0.049m,身体質量:72.5±6.2kg)
さらに 1 台のハイスピードカメラ(CASIO 社製 :
で全員が右投げであった.被験者には実験内容を
Exilim-F1)を用いて,二塁ベース上に到達する
事前に説明し,参加の同意を得た上で実験を行っ
ボールの撮影を行った.3 台のカメラの画角内に
た.
同期シグナル(DKH 社製 : PTS-110)を設置し,
二塁への送球動作は,普段通りの投げ方(NT)
,
それらを実験試技と同時に映し込むことで 3 台の
NT よりも送球動作をさらに素早くする投げ方
カメラの同期を行った.本研究では,ホームベー
(QT)
,NT よりもボール速度をさらに高める投
スから二塁ベース方向に対して右方向を X 軸,ホ
げ方(VT)の 3 種類を用いた.被験者には,試合
ームベースから二塁ベース方向を Y 軸,鉛直上方
で使用する防具(マスク,プロテクター,レガー
向を Z 軸と定義した.
ス)を全て装着させ,マウンドとホームベースの
得られたビデオ画像をもとに動作解析システム
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(DKH 社製:Frame-DIASⅡV3)を用いて,ボ
各投球動作に要した時間は,NT が 0.773±
ール,胸,腰,右肩,左肩,右腰,左腰,右爪先,
0.043 秒,VT が 0.782±0.066 秒,QT が 0.671
左爪先の 9 点をデジタイズした.デジタイズによ
±0.051 秒であり,QT の動作時間 は NT,VT よ
って得られた 2 次元座標を DLT 法により 3 次元
りも有意に短かった.
座標に変換した.
握り変え時から左脚接地時までの二塁方向の腰
送球動作を以下に示す動作時点をもとに 3 局面
の移動距離は,QT が NT,VT に比べ有意に小さ
に分けた.投球をミットで捕球した時点を捕球時
く,二塁方向に対する左右方向の腰の移動距離に
点,ボールを右手に握り変えた時点を握り変え時
は,明らかな違いが見られなかった.また鉛直方
点,踏み出した左足が地面に接地する時点を左足
向については,捕球時から握り変え時まで QT は
接地時点,ボールがリリースされた時点をリリー
NT,VT に比べ有意に小さい値を示した.このこ
ス時点の 4 時点とし,投球を捕球した時点からボ
とから QT は,二塁方向と鉛直方向に対し,小さ
ールを右手に握り変えた時点までを「握り変え局
く,素早い動きをしていたと考えられた.
面」,
ボールを握り変えた時点から踏み出した左足
肩角度は,左脚接地時において QT が NT,VT
が地面に接地する時点までを「踏み出し局面」,踏
に比べ有意に大きな値を示した.腰角度は左脚接
み出した左足が地面に接地した時点からボールが
地時おいて QT が NT に比べ有意に大きな値を示
リリースされた時点までを「投球局面」とした.
した.QT の腰の移動では,有意差が認められな
分析項目は,各局面に要した時間,腰の移動距
かったものの,三塁ベース方向に移動している傾
離,肩角度(水平面における X 軸とのなす角度),
向にあった.QT はこの位置から身体を開かずに
腰角度(水平面における X 軸とのなす角度)
,捻
投げようとしたために,肩角度と腰角度が他の投
転角度(水平面における腰角度に対する肩角度)
,
法よりも大きかったと考えられた.捻転角度は,
左脚接地時の前屈角度(前額面における Z 軸と胸
どの時点においても有意な差は認められなかった.
と腰を結んだ線分とのなす角度),
リリース時の側
左脚接地時の前屈角度とリリース時の側屈角度は,
屈角度(前額面における Z 軸と胸と腰を結んだ線
左脚接地時において,それぞれ NT と VT,NT と
分とのなす角度)およびボールと腰との距離を算
QT に有意差が認められた.
出した.
左右方向におけるボールと腰との距離は,左脚
捕球
握り替え
左脚接地
接地時とリリース時において QT が VT に比べ,
リリース
有意に大きかった.また二塁方向では左脚接地時
において VT が NT,QT に比べ有意に大きい結果
を示した.動作時間を短くするように指示してい
握り替え
局面
踏み出し
局面
た QT は,ボールを二塁ベース方向でリリースす
投球
局面
るのではなく,一塁ベース方向でリリースしてお
動作局面
り,ボールを素早くリリースするための技術であ
図 1 送球動作の局面分け
ると考えられた.
各分析項目における投球条件間の差について検
参考文献
討するため,対応のある一要因分散分析を用いた.
高橋佳三・阿江通良・藤井範久・功力靖雄・島田
有意な効果が認められた場合には,Bonferroni の
一志・石川陽介(1998) 捕手のスローイング動
方法により多重比較検定を行った.
作に関する基礎的研究. 日本体育学会大会号(49),
3.結果と考察
371.
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