龍本生(1) 救虫捨身諦 - J

印 度 學 佛 教 學研 究 第41巻 第1號
龍 本生(1)
-RP〔33〕
は じめ に
(73)
救虫 捨 身諦
話 の 新 出 並 行 話-
岡
§1.
卒 成4年12月
田
真
美
子
本 稿 の 目的
『大 寳 積 経 』 中 のRraplapariprcch(以
下RP)に
あ る 釈 尊 前 生50話 の 第
パ ラレル
33話 は 「トカ ゲ」 を主 人 公 とし てい る. これ は, 従 来 並 行 話 無 し と され て い た15
話 の うち, 筆 者 が 新 た に パ ラ レルを 発 見 して 報 告 した5話 の ひ とつ で あ る1).そ の
と きパ ラ レル とし て挙 げ た のは, Mlasarvstivavinaya
(以下MSV
Sbh)中
Sahghabhedavastu
の 「亀 本 生 」 で あ った. と こ ろ が, そ の 後, これ 以外 に3つ
の パ ラ レルが 見 つ か った. そ れ らの 主 人公 は敦 れ も 「龍 」 で あ る, 本 稿 は, こ の新
た に発 見 され た3つ
の説 話 をRP第33話
の パ ラ レル と して 報 告 す る こ と と共 に
これ らを 含 む 「龍 の 捨 身 説 話 」 群 の 研 究 の端 緒 を 開 く こ とを 目的 と し てい る.
§2. 救 虫(蟻)捨 身説 話 の 採 録 基 準
「救 虫(蟻)捨 身 諜 」と して こ こで取 り上 げ る5つ の 説 話 に 共通 す る特 異 要 素 は 次
の2点
で あ る:
(1)主 人公(釈 尊 の前生)が 爬 虫 類 であ る
(2)虫(蟻)を
救 う為 に 捨 身 す る
これ は 今 後 更 に 別 の 並 行 話 を 探 究す る 際 の採 録 基 準 と な るべ き も の であ る.
§3.「救 蟻(虫)捨
身本生」出典一覧
論 を 進 め る前 に, 参 照 の 便 の た め §1,2. で述 べ た5つ
てお こ う(以 下 の うち文 献3-5は
la.
の説 話 の出 典 を ま とめ
新 出 パ ラ レル):
RP Skt (33) FINOTZ2) p. 25, 1. 7-8
lb. RP Tib ENSINK3) p. 80, 1. 29-32
1c(1)No.
310大
寳積 経 巻八 十
護 國 菩 薩 會 大 正11.
462b15-16.
閣那 堀 多
(585-600訳)
1c(2)No321護
國 奪 者 所 問 大 乗 経 大 正12.
6a7-8.
施 護(980-訳)
2a. MST Sbh. GM s4 ff. 16, 8-17, 31
2b. Peking, Ce116a2-bl;
2c.
No1450根
Derge, Na121a2-b2
本 読一 切 有 部 毘 奈耶 破 僧 事
-468-
大 正23.
155b22-c10.
義浮
(74)
龍 本 生(1)
救 虫 捨 身 課 (岡
田)
X700. 71)
3. No1509大
智度論
初 品 大 正25.
162a9-b1鳩
摩 羅 什(402-405訳)
4. No. 153菩
薩 本 縁 経 巻 下 龍 品第 八
大 正3.
68b26-70a7伝
5. No160菩
薩 本生 婁 論 巻 三 慈 心 龍 王消 伏怨 害 縁 起 第 七
支謙
大 正3.
338b10-c5
紹 徳 慧i洵等(960-1127訳)
3§4.
PR第33話
の
「トカ ゲ 本 性 」
パ ラ レ ル の 検 討 に 入 る 前 に,
ま ず,
RP第33話
の 梵 蔵 漢 テ キ ス トを 一 瞥 し て
お こ う. (韻律 はketumati.=はm.c)
mabhut pipilikavadho me
a
tyakta
na ca citta kampita
c
purvabhavesu
tada me
varasrayo
'pi canapeksya j
b
godha yada asit 113311 d
前 生 に お い て トカゲ で あ った 時 の こ と, 蟻 殺 しが 起 こ らぬ よ うに
と
私 は,
優 れ た身 体 も顧 み ず 捨 てた が, そ の時 我 が 心 は 動 揺 しな か った.
srog chags go dhar soon srid gyur ba'i tshe//=d
grog sbur dag ni' chi bar' gyur dogs nas//=a
lus kyi dam pa ma bltas btan ba byas//=b
de tshe na yi sems ni gyo ba med//=c
(1)又念過去作
夫
d
在大陣中心c無殺
寧 自喪身不害人
(2)棄捨b大地諸春族 観彼不著如蟻子a 如是往昔d濟群生
(a-dは 対応す るSktのPadaを
b
乃至蟻子無殺想
a
心c無退道生疲苦
表 し, 下線のついたものは, 句全体 でな く, その語
句 のみが対応 してい ることを表 してい る.)
Tib訳
は, よ くSktに
対 応 し て い る. 漢 訳 は, 些 か 異 な っ た趣 を呈 し て い る
(1)閣那 堀 多 訳 は 主 人 公 を 「職 夫」 とし て い る. 筆 者 は, 写 本 で 本 来 の(godha)
が(yodha)と
な っ て いた か, 或 は 訳 者 が そ う読 ん だ の か の いず れ か であ ろ
うと推 定 して い る. 主 人 公 が 戦 士 に な った の に 伴 って, 舞 台 は戦 場 に取 っ て代 わ
られ る(大 陣 中).「 蟻 」 は 準 主役 の 座 を 降 りて,「 虫 も殺 さぬ」 とい う単 な る比 喩
に 用 い られ る 小 道 具 に な っ て し まっ て い る. (2)施護 訳 は(1)より
Skt. b tyakta, a pipilika,
purvabhavesu,
c cittaの4単
層対応が悪 く
語 を 訳 し てい るに
す ぎな い. (2)訳は 兎 も角, 説 話 に通 暁 し5)他 箇 所 で高 い 対 応 度 を 示 して い る(1)訳
が こ の様 であ る のは, 矢 張 り 「トカ ゲ」godhaの
本 生 話 が 一 般 に 良 く知 られ た説
話 では な か った こ とを しめ して い る. 他 に 「トカ ゲ本 生 」 と言 え ばPalijatakaの
3話(138,
142,325話)が
知 られ る くらい で あ る6).
-467-
龍本生(1)救
虫捨身課(岡
田)
(75)
§5. パ ラ レル モ チ ー フ の 比 較
次 に い よい よ内容 の比 較 に 移 る.
全 体 を10項
目 に分 け てモ チ ー フの 有 無 を 調 べ た のが, 下 の表 であ る.
表1.
*K身
体 で は な く<心>を
内容照互表
動 か さず とあ る.
#話
の始 め に 述 べ られ る.
§6. パ ラ レル 語 句 の 比 較
更 に個 々の項 目ご とに 内容 を 検 討 し よ う.
(1)+(5)主
人 公 は 先 に も述 べ た 如 く, 揃 っ て爬 虫類 であ る, これ ら の 中 では, RP
の トカ ゲ と蟻 の 組 み合 わ せ が 説 話 の効 果 を 上 げ て い る. Godhaト
カゲは, Pali-
jataka No. 138な どで も知 られ る よ うに, 蟻 を 喰 う天 敵 であ る. 其 れ が 逆 に 蟻 に
喰 わ れ る とい うと ころ に菩 薩 トカゲ の慈 悲 深 さの 表 れ が あ る と い え る.『 本 縁』
『智 度』 『本 生
』 の 龍 は 明 らか にPalijatakaのNo.
506, 524, 543の 主 人 公 で あ
る 「戒 を 守 る龍 」 の 話 が 元 に な っ て い る と思 わ れ る. この3匹 の 龍 は, 蟻 や 小 虫
に捨 身 す るエ ピ ソ ー ドは 持 た ぬ の で あ るが, い ず れ も 「燧
い て」 持 戒 して い る点 に注 目した い.
-466-
」 の 上 に と ぐろを 巻
(76)
龍本生(1)
救虫捨身潭 (岡
田)
(2)『 本 縁』 で は 断 食 し て,『 智 度 』 で は 林 中 に長 く坐 っ て, MSVで
は五百商
人 を 渡 海 させ て,「 疲 れ て 眠 って い た」 とあ る.『 本 縁』 を瓢 窃 した 『本 生 糞 』7
話7)は,
た だ 「疲 困」 と記 す のみ で, 眠 って い た とい う記 述 は な い.
(3)「 猟 師 に 剥 が れ る」 とい うのは,「 龍 本 生」 に のみ あ る モ チ
フ であ る. こ
れ は また, 上 述 の ジ ャー タカ中 の 「龍 本 生 」 が, 持 戒 中 に悪 人 に 傷 つ け られ た と
い う こ と と相 似 の要 素 であ る. この 猟 師 や 悪 人 は皆 デ ー ヴ ァダ ッ タの前 生 とい う
こ とに な って い る.
(4)MSVの
み は, 先 ず 一 匹 の蟻8)が 主 人 公 の 亀 を 見 付 け, 巣 に 戻 って八 万 の
蟻 を連 れ て来 た, と し てい る. またMSVの
こ の蟻 は 匂 い を 嗅 ぎ付 け て9)や って
き たが,『 本 縁』 『本 生 婁 』 の 小 虫 も皮 を 剥 が れ た 龍 の流 す 血 の 匂 い を 嗅 ぎ付 け
て10)集ま った.
(6)(7)『智 度 』:戒 を 守 るた め も う敢 え て 「動 か なか った 」11).MSV:も
を 動か した り転 が した りした ら き っ と これ ら 蟻
し身 体
を 傷 つ け る だ ろ う12).RP
Skt.
a; Tib. b:蟻 た ち が死 ん で し ま うのを お そ れ て, 捨 身 す る. RP漢(1):寧
ら身 体 を 矢 っ て も他 を 害 す まい ≒MSV
の
命 を 害 す まい13). Tib:他
Skt:寧
ろ
我が
命 を な くし て も
ろ自
の生 き物 を 害 す る こ と よ りは命 と離 れ る(=死
他
ぬ)
方 が よい14).
(8)『 本 縁 』 『本 生量 』 は共 に, 今 此 の小 虫 が 私 を 食 べ る な ら, 願 わ くば 来 世 に
お い て 法 食 を 与 え ん, とし て い る15).『智 度 』 は, 今 我 が 身 を 虫達 に施 す のは 仏
道 の 為 で あ る. 今 肉 を施 し て其 れ 等 の身 を 満 た し, 後世 成 仏 した時 には 法 を 施 し
て 其 れ 等 の 心を 益 そ う. と誓 う16). MSVも
同 じ 事 で, 私 が 此 の八 万 の蟻 を 肉 と
血 で 満足 させ た よ うに, 未 来 無 上 の悟 りを 得 た 後 は これ らを 法 味に よ っ て満 足 さ
せ よ う. とい う願 を 発 し てい る.
(9)(10)『本 縁 』 『本 生 婁 』 は, 菩 薩 が 瞑 の 因 縁 で 龍 中 に生 まれ 堕 ちた, と冒 頭 に
記 す のみ で, 所 謂Identicationは
な い.『 智 度 』 は,「 毒 龍 」 が 「繹 迦 文 佛 」
「諸 小 轟 」 は 「初 轄 法 輪 」 の 時得 道 した 「八 萬諸 天 」 で あ った. と し て い る.
MSV中
に これ と些 か 関 係 す る要 素 が あ る. (4)で み た 一 匹 の 先 導 の 蟻 を 「僑 陳
如 」16)それ に 率 い られ た 八 万 の 蟻 は 「八 萬 諸天 」 だ った, と言 うわ け だ が, この
「僑 陳 如」 は 周知 の 如 く 「初 転 法 輪 」 に 臨 ん だ 五 比 丘 の 筆 頭 で あ る.
1)「Rastrapalapariprccha中 の 繹奪前生50話」,『 我 の思想 前田専 学博士 還暦 記念
論集』, 春秋社 1991, P.591 2) FINOT,
L, Rastrapalapariprcchd, sutra du
Mahayana,
Bibliotheca
Buddhica
II,
-465-
St-Petersbourg,
1901.
Repr.
Tokyo
1977
龍本生(1)救
§7. お わ りに
虫捨身課(岡
田)
(77)
相互関連
以 上 の 如 く内 容 を 検 討 した結 果 を 図 示 す れ ば 次 の よ うに な る.
表2.
系
統 図
3) The Question of Rastrapala, Translated
and Annotated by Jacob ENSINK,
Zwolle 1952. 4) ed. GNOLI, Raniero, The Gilgit Manuscript of the Sanghabhedavastu.
Serie
Orientale
Roma,
よ く承 知 し て い て 屡 々RP
論,
ibid. Pp. 584E.
参 照.
XLIX,
Sktに
6)村
印 度 學 佛 教 學 研 究 』, 1969.
上 真 完.
3,
1977-1978.
7)cf.
Jatakamala,
Asia
Brough,
on
1;
『本 生 経 類 の 思 想 史 的 研 究 』 改 訂 増 補 版
た だ し, 従 来 第8話
た が,
こ の 第7話
9)gandham
戒 故
ま で はAJMと
不復敢動
12)
dri tshor
yadi
yan
與法食
sloe
14)
bla'o;
漢:
kayam
kau
ndy
chags
乍可棄捨身命
此 小轟等
<キ ー ワ ー ド>
srog
食我食者
詳 し く は,
拙
成 立 に つ い て 」,
John,
Major,
8)Skt:
The
New
Chinese
Series,
山喜 房 仏 書 林
kitika,
te; 聞 亀 香 氣
calayisye
etch praghatayisyami;
gal to lus bsgul
'chi bar'gyur
te; 我 若 動 揺
週韓身者
pranoparodhah
那 嘱 多 は 原話 を
Pseudo
vol. XI,
part
1978p.
163.
『本 生 覧 』 の 内 容 が 一 致 し て い る と 解 説 さ れ て き
は 全 く別 の 話 で あ る.
ghratva;
5)閣
Ratrapapariprcchaの
P. 198.
Translation
干潟龍祥
Aryasula's
Roma,
な い 要 素 を 付 加 し て い る 程 で あ る.
gzan
va
Tib:
Ia gnod
施汝法食
byed
pa
此小轟
bu
ki
聞其身血
samparivartayisye
par
15)今
srin
其 血 香:
lam bsgyur
na gdon
必當害蟻
13)kamam
終不損他
願當來世
10)聞
va
za bar'di
pranaviyogo
bas
ni srog
16)kaundinyo
持
niyatam
mi
食我 身 者
ta ka
11)爲
rnams
na tu
dan
願於來世
bhiksuh;
oral
當
dge
nya
龍 本 生,
救 虫 捨 身 謂,
Rastrapalapariprccha,
『大 寳 積 経 』, ト カ ゲ
(神 戸 女 子 大 学 講 師)
-464-