工学系学生の居残り状況把握のためのシステム運用

工学系学生の居残り状況把握のためのシステム運用
~「居残り電子管理システム」の改良活用を通して~
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○瀬尾明香 ,佐藤英治 ,大野俊明 ,池田茂
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横浜国立大学 理工学系大学院等技術部
1. はじめに
工学系では夜間に研究等で学内に居残る場合,書面による届出の提出が義務付けられている.しかし,届出は「確認
に時間を費やす」上に,非常時では「瞬時に内容の把握が困難」等の問題があった.東日本大震災後,安否確認の対応
にあたった教員は大変多くの労力を要した.そこで,教員から相談を受けた我々は,管理者が瞬時に居残り状況を把握
できるシステムとして「居残り電子管理システム」を開発し運用を開始した.今年度は,構築されたシステムを改良す
ることで,ユーザーに「使いたいシステム」として認識,活用してもらうことを目標とし取り組んだ.ユーザーの意見
を基に更なる改善を加え,新しいユーザーインターフェース(以下,UI)を検討し,機能拡張を加えた.今後の展望
として,本システムの正しい活用方法を周知することで教職員および学生に対し安全衛生の意識向上を働きかけていく.
2. システム活用への取り組み
2.1 ユーザー視点でのものづくり
本システムは開発当初から「マニュアルを読まなくても利用できるシステム作り」を心がけ,試行開始から数度の改
良を加えてきた.そこで,目標の達成状況の指標の1つとして技術部内でユーザー向け調査を実地した.回答者の多数
から「マニュアルを使用せず登録可能」
「操作が容易」という結果を得られた.これによりマニュアルの削除化を達成し
た.マニュアルを使用しながらの操作はユーザーにとって負担となる上,読み間違いや確認不足による誤登録に繋がる
危険があった.今回のマニュアルに頼らないシステムの構築は,アカウント登録時の入力・操作間違いを減少させるこ
とができ,ユーザーに余計な負担をかけず利用してもらえるシステムとなった.
2.2 新しいUIの検討
これまでのUIでは,システム操作は容易であるが課題があった(表1)
.例えば,操作を簡略化したことにより「申
請操作結果が不明瞭」である上,表示されている情報量が多いため瞬時に重要事項が把握できないという問題があった.
新しいUIでは,旧UIの長所を残しつつ,シンプルなデザインの中においても申請操作の変更結果が一目でわかるデ
ザインであることを重視した.また,情報を集約することで最低限必要な項目だけを表示することとした.また,機能
拡張としては,システム上でのパスワードの再設定が可能となった.従来,パスワード変更はシステム管理者に問い合
わせる必要があったが,機能を拡張することでユーザーとシステム管理者共に操作負担を無くすようにした.
表1 旧UIの課題と新UIにおいての改良比較
旧UIのデザイン
UIのデザイン
新UIのデザイン
UIのデザイン
全体図
課題1
←重要なお知らせを表示
課題2
改良1
改良2
課題3
改良3
仕様
課題1 ステータスの変化がわかりにくい
課題2 HOME 画面の情報量が多い
(重要なお知らせが一瞬で判断できない)
課題3 使用頻度が少ないメニューが混在している
(指導教員登録などは頻繁には使用しない)
改善1 ステータスを中心に配置し登録情報を見せる
(登録内容は全てこのスペースで把握可能)
改善2 情報を集約・必要最低限の表示に抑える
(重要なお知らせはトップに配置し明瞭にする)
改良3 操作メニューを一箇所にまとめる
2.3 指導教員に向けた周知方法
学生に対しては,履修案内での掲載や学科内での安全教育の資料等で
の周知方法がとられている.本システムは,居残りをする学生が指導教
員を登録することによって,指導教員からもリアルタイムで指導学生の
居残り状況が確認できる機能が備わっている.この機能は,
「指導教員が
アカウントを登録すること」によって,初めて有効活用できる.現状の
課題として,学生の管理者である指導教員全体にこのシステムの活用方
法が浸透していないことが挙げられる.そこで,本システムを利用する
ことのメリットを教員に周知すべく掲示用ポスターの作成に取り組んだ
(図1).周知内容は,緊急時に指導学生の安否を確認したい状況におい
て,「今現在」
,「誰が」「居残っているかどうか」を把握できるかを問う
ものとなっている.本システムは,この問題を解決する 1 つの手段とし
て提供できる機能が備わっており,指導教員にその利点を有効活用して
図1
周知ポスター(指導教員向け)
いただけるように働きかけることが大きな取り組み課題の1つと言える.
周知ポスターは,掲示だけではなく本システム上でも閲覧できるように
した.
2.4 学生に向けた周知方法事例(建築学科での安全教育)
建築学科では新年度になると実験系の研究室に在籍する学生に対し
て安全教育が行われている.実験系研究室に所属する技術職員の発案に
より,配布資料内において本システムの利用案内が記載された.修論・
卒論の繁忙期になると,安全教育の配布資料を基に本システムの登録に
ついて質問が出たとの報告も受けており,この周知方法は一定の成果を
得られる結果となった.
3. 登録者推移から判断する本システム周知時期
図2
試行開始から 2 年間の登録者推移
本システムは,2011 年 12 月に試行開始されてから 3 年目になるが,
登録者推移から登録時期の傾向が表れてきた(図2).全体的に登録者が
増加傾向にある時期は,
修論・卒論の繁忙期である 12 月頃となっている.
この時期に合わせてシステム利用について周知すると効果が期待できる
といえる.
2013 年度から学生に配布する履修案内に本システムの利用案内が掲
載されたことにより,2013 年 4-6 月の新規登録数は,2012 年の同時期に
比べ飛躍的に上がっていることがわかる(図3).2013 年 6 月以降も平
均して新規登録数が増えていることから,履修案内・安全教育内での周
知の持続効果が表れていると推測できる.このことから,学生が本シス
テムを必要とする時期,又は新年度に合わせて周知することが効果的だ
図3
登録推移で見る履修案内の周知効果
と言える.適切な時期の周知を続けることが,本システムが認識・利用
されることに繋がると期待できる.
4. 今後の課題と展望
本システムは,より良いシステムを目指し改良を加えてきた.結果,ユーザーが利用しやすいシステムとして一定の
水準に達することに成功した.履修案内・安全教育等での周知成果もあり,本運用初年度に比べ利用者は増加傾向にあ
る.しかし,まだ全体的にシステムが浸透しているとは言い難い.システムの価値を発揮させるためには,まず教職員・
学生が『システムの存在,活用することによる利点』を知ることが第一歩となる.また,居残る人数の実態が正確にシ
ステムに反映されるほど,災害時の安否確認の情報としての役割を果たすものとなる.同時に,ユーザーが安全衛生の
意識をもって利用することで「夜間での単独実験の防止」
「無用な居残りの抑止」等,安全管理や事故防止に有効なシス
テムとなることが期待できる.今後も,教員・事務組織のパートナーとしてシステムの有効利用について提案していく.
参考文献
1)
佐藤英治,瀬尾明香,大野俊明,池田茂: 工学系学生の居残り状況把握のための「居残り電子管理システム」の
改良および活用報告, 平成 24 年度愛媛大学総合技術研究会 ポスター発表 (2013)
2)
今村しおり:平成 25 年度横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院 建築学教室 構造実験棟安全使用心得
(p35-p36)