Hilbert 空間概要

Hilbert 空間概要
ゆきみ
http://yukimigo.com/
2014 年 4 月 29 日
院試勉強のときに暗記用に作った原稿です. なのであんまり読めるものじゃない感あり
ますが, 証明の参照用に.
Definition 1 (内積空間). H を線型空間とする. 以下を満たす ⟨x, y⟩H : H × H → C を
H の内積 (inner product) といい, 内積が定義されている線型空間 H を内積空間という.
以下 x, y ∈ H, α, β ∈ C とする.
(H.1) ⟨x, αy1 + βy2 ⟩ = α⟨x, y1 ⟩ + β⟨x, y2 ⟩.
(H.2) ⟨x, y⟩ = ⟨y, x⟩.
(H.3) ⟨x, x⟩ ≥ 0.
(H.4) ⟨x, x⟩ = 0 ⇔ x = 0.
Theorem 2 (Schwarz’s inequality). H を内積空間とする. 任意の x, y ∈ H に対して
|⟨x, y⟩| ≤ ∥x∥∥y∥
proof. ⟨y, x⟩, y ̸= 0 とする. α ··= −
|⟨x, y⟩|2 /∥y∥2 からしたがう. ♡
⟨y, x⟩
とおくと, 0 ≤ ∥x + αy∥2 = ∥x∥2 −
∥y∥2
Definition 3. 可算集合 {xn ∈H}n が ⟨xn , xm ⟩ = δnm を満たすとき ONS(Orthonormal
system) という.
∞
∑
·
l ·= {a = (a1 , a2 , · · · )
|an |2 < ∞} と定義する.(a + b)2 ≤ 22 {max(a, b)}2 ≤
n=1
∑∞
22 (a2 + b2 ) より l2 は線型空間となり, 内積を ⟨a, b⟩l2 ··= n=1 an bn と定義することで内
積空間となる.
2
∞
Example 4. l2 で en ··= {δnj }∞
j=1 の集合 {en }n=1 は ONS.
1
Example 5. 任 意 の H の ONS{xn }N
n と αn ∈ C に 対 し て ∥
∑N
2
n=1 |αn | となる.
∑N
n=1
αn xn ∥2 =
Theorem 6 (Bessel’s inequality). {xn }N
n=1 を H の ONS とするとき, すべての x ∈H
∑N
2
2
に対して, n=1 |⟨xn , x⟩| ≤ ∥x∥ がなりたつ.
∑N
2
2
n=1 ⟨xn , x⟩xn とおくと, xn が ONS と例 5 から ∥y∥ =
n=1 |⟨xn , x⟩|
∑N
∑N
∑N
2
⟨y, x⟩ = ⟨ n=1 ⟨xn , x⟩xn , x⟩ =
n=1 ⟨xn , x⟩⟨xn , x⟩ =
n=1 |⟨xn , x⟩| と
∑N
∑N
2
2
⟨y, x − y⟩ = ⟨y, x⟩ − ∥y∥2 =
n=1 |⟨xn , x⟩| −
n=1 |⟨xn , x⟩| = 0. つ
proof. y =
となって,
なるから,
∑N
まり y と x − y は直交している. x = y + (x − y) と書いてみると, これを二乗して
∥x∥2 = ∥y∥2 + ∥x − y∥2 ≥ ∥y∥2 = |⟨xn , x⟩|2 となり証明できた. ♡
Corollary 7. {xn }∞
n=1 を H の ONS と す る と き, す べ て の x ∈H に 対 し て
∑∞
2
n=1 |⟨xn , x⟩| は収束し,
∞
∑
|⟨xn , x⟩|2 ≤ ∥x∥2
n≡1
がなりたつ. とくに limn→∞ ⟨xn , x⟩ = 0
∑N
2
∞
proof. aN ··=
n=1 |⟨xn , x⟩| とおけば,{aN }N =1 は正項級数だから単調非減少で,
Bessel’s inequality より有界であるから収束する. ♡
2
(N )
Example 8. 任意の a = {an }∞
∈ l2 を
n ∈ l に対して a
{
an 1 ≤ n ≤ N のとき
(a(N ) )n ··=
0
n ≥ N + 1 のとき
とおくと, an ∈ l2 だから ∥a(N ) − a∥2 =
∑∞
n=N +1
|an |2 −→ 0 as N −→ ∞ となる.
Definition 9. 任意の n 個の線型独立なベクトルがあるとき, その空間は無限次元と
いう.
Example 10. l2 は無限次元空間である. じっさい, en ··= {δnj }∞
j=1 とおくと, 任意の
n ∈ N に対して e1 , · · · , en は線型独立である. ♡
Definition 11. 完備な内積空間を Hilbert 空間という.
Theorem 12. l2 は複素 Hilbert 空間である.
2
proof. {a(n)} を l2 の Cauchy 列とする. a(n) ··= {a(n)j } とすれば,
k
∑
|a(n)j − a(m)j |2 ≤ ∥a(n) − a(m)∥2 −→ 0
(♠)
j=1
となるから {a(n)j }∞
n は C の Cauchy 列で, C の完備性より aj ∈ C があって a(n)j −→
aj となる. a ··= {aj }∞
j とおく. (♠) から任意の ε > 0 に対してある番号 N があって
m, n ≥ N で ∥a(n) − a(m)∥2 < ε2 とできるから, m −→ ∞ として limk→∞ とすると,
n ≥ N について
∞
∑
|a(n)j − aj |2 ≤ ε2
(♠ ♠)
j=1
よって, |aj |2 ≤ 2(|aj − a(n)j |2 + |a(n)j |2 ) より
∞
∑
|aj | ≤ 2(
j=1
2
∞
∑
|aj − a(n)j | +
2
j=1
∞
∑
|a(n)j | ) ≤ 2(ε +
2
j=1
2
∞
∑
|a(n)j |2 ) < ∞
j=1
だから, a ∈ l2 . (♠ ♠) により ∥a(n) − a∥2 ≤ ε2 なので a(n) −→ a ∈ l2 . よって l2 は完
備である. ♡
今後 H は Hilbert 空間をあらわすことにする.
Lemma 13. D⊥ は閉部分空間である.
proof. {xn ∈ D⊥ }n , xn −→ x ∈ H とする. 内積の連続性から ⟨xn , y⟩ −→ ⟨x, y⟩(y ∈
D) である. xn ∈ D⊥ から ⟨xn , y⟩ = 0 となり, ⟨x, y⟩ = 0. よって x ∈ D⊥ となる. ♡
Theorem 14 (射影定理). L ⊂ H : 閉部分空間 とするとき, 任意の x ∈ H は
x=y+z
(y ∈ L, z ∈ L⊥ )
と一意的に分解できる. y を x の L 上への射影という. 各 x ∈ H に y を対応させる対応
を PL とかく. つまり y = PL x.
proof. 一意性: x = y + z = y ′ + z ′ (y, y ′ ∈ L, z, z ′ ∈ L⊥ ) とすると, y − y ′ = z − z ′ で
左辺は L, 右辺は L⊥ の元だから, ∥y − y ′ ∥2 = ⟨z ′ − z, y − y ′ ⟩ = 0 だから y = y ′ , z = z ′
となって一意であることがわかった.
分解可能性: δ ··= inf{∥x − ξ∥ξ ∈ L} とおくと, 下限の性質から, ある ξn ∈ L があって
∥x − ξn ∥ −→ δ
3
(♠)
とできる. 中線定理 (∥x + y∥2 + ∥x − y∥2 = 2(∥x∥2 + ∥y∥2 )) を使って,
∥(x − ξn ) + (x − ξm )∥2 + ∥(x − ξn ) − (x − ξm )∥2 = 2∥x − ξn ∥2 + 2∥x − ξm ∥2 (♠ ♠)
となる. L が部分空間だから, (ξn + ξm )/2 ∈ L となって, δ 2 ≤ ∥x − (ξn + ξm /2)∥2 . (♠
♠) より
0 ≤ ∥ξn −ξm ∥2 = 2∥x−ξn ∥2 +2∥x−ξm ∥2 −4∥x−(ξn +ξm )/2∥2 ≤ 2∥x−ξn ∥2 +2∥x−ξm ∥2 −δ 2
となる. (♠) に注意して n, m −→ ∞ とすると, 右辺 −→ 4δ 2 − 4δ 2 = 0 がしたがうから,
{ξn } は H の Cauchy 列. よってある y ∈ H で ξn −→ y とできる. いま L が閉と ξn ∈ L
から y ∈ L である. よってノルムの連続性により ∥x − ξn ∥ −→ ∥x − y∥ となるから, (♠)
より
δ = ∥x − y∥
がわかった.
z ··= x − y とおいてこれが L と直交していることをみる. ϕ(t) ··= ∥z − γtξ∥2 (t ∈
R), γ ··= ⟨ξ, z⟩ とおくと, L が部分空間であることから y + γtξ ∈ L なので,
δ 2 = ϕ(0) ≤ ϕ(t) = ∥z∥2 − 2|γ|2 t + |γ|2 t2 ∥ξ∥2
と計算できる. γ ̸= 0 ならば十分小さい t(t < 1/∥ξ∥2 ) で ϕ(t) < ϕ(0) = δ 2 となって δ の
定義に反するから, γ = 0 となる. よって,
γ = ⟨ξ, z⟩ = ⟨ξ, x − y⟩ = 0
(ξ ∈ L)
となって, 定理が証明された. ♡
Proposition 15. M ⊂ H : subspace ならば (M ⊥ )⊥ = M
proof. 定義と M ⊥ が閉 (see.Lem 13) より M ⊂ (M ⊥ )⊥ から M ⊂ (M ⊥ )⊥ . x ∈
(M ⊥ )⊥ とすると, 射影定理から
x = xM + x(M )⊥
(xM ∈ M , x(M )⊥ ∈ (M )⊥ )
(♠)
と一意的にかける.
(M )⊥ = M ⊥ をみよう.
M ⊂ M より (M )⊥ ⊂ M ⊥ はよい. y ∈ M ⊥ とすると, 閉包の定義から任意の z ∈ M
に対してある zn ∈ M で zn −→ z とできる. ここで ⟨y, zn ⟩ −→ ⟨y, z⟩ と ⟨y, zn ⟩ = 0
4
から ⟨y, z⟩ = 0 となるから, y ∈ (M )⊥ となって, (M )⊥ = M ⊥ がわかった. よって
(M )⊥ = M ⊥ .
いま示したことから ⟨x, x(M )⊥ ⟩ = 0 がしたがい, これと (♠) をじっとみていると
⟨x, x(M )⊥ ⟩ = ∥x(M )⊥ ∥2 = 0 となって, もういっかい (♠) にもどって x = xM がわかった
から, x ∈ M となって証明がおわった. ♡
∑∞
2
Lemma 16. {xn }n を H の ONS とする.
n=1 |αn | < ∞ を満たす任意の α = {αn ∈
∑∞
∑∞
C} に対して, x(α) ··= n=1 αn xn は収束し, ∥x(α)∥2 = n=1 |αn |2 がなりたつ.
proof. yN =
∑N
n=1
αn xn とおく. N > M で
∥yN − yM ∥ =
2
N
∑
|αn |2 −→ 0 as N, M −→ ∞
n=M +1
となるから, {yN }N は H の Cauchy 列. よって完備性より収束して, それを
∑∞
n=1
αn xn
とかくと,
∥x(α)∥ = lim ∥yN ∥ = lim
2
2
N →∞
N →∞
N
∑
|αn |2
n=1
となる. ♡
Definition 17. H の ONS{xn }n がすべての x ∈ H に対して x =
∑∞
n=1 ⟨xn , x⟩xn
を満
たすとき, これを CONS という.
Remark 18. dim H = n < ∞ ならば基底 {xj }nj=1 があって, 任意の x ∈ H は
∑n
x = j=1 αj xj と一意的にかける. Gram-Schmidt を適用すればいいので {xj }nj=1 は
ONS としてよい. このとき
⟨xj , x⟩ =
n
∑
⟨xj , αk xk ⟩ = αk
k=1
となるので
n
∑
x=
⟨xj , x⟩xj
j=1
となる.
Theorem 19. {xn } を H の ONS とするとき, つぎの条件は互いに等しい.
∑∞
(1) {xn } が CONS. つまり任意の x ∈ H は x = n=1 ⟨xn , x⟩xn とかける.
5
(2) すべての x, y ∈ H に対して
∞
∑
⟨x, xn ⟩⟨xn , y⟩
(絶対収束)
n=1
(3) (Parseval の等式) すべての x ∈ H に対して
∥x∥2 =
∞
∑
|⟨xn , x⟩|2
n=1
がなりたつ.
(4) すべての n ≥ 1 に対して ⟨x, xn ⟩ = 0 ならば x = 0
proof. (1)=⇒(2): 内積をとって,
⟨x, y⟩ = ⟨
∑
∑
⟨xn , x⟩xn , y⟩ =
⟨x, xn ⟩⟨xn , y⟩
となる. Cauchy-Schwarz と Bessel によって,
N
∑
(∑
)1/2 ( ∑
)1/2
N
N
2
2
|⟨x, xn ⟩⟨xn , y⟩| ≤
|⟨x, xn ⟩|
|⟨xn , y⟩|
≤ ∥x∥∥y∥
n=1
n=1
n=1
から絶対収束する.
(2)=⇒(3): x = y とすればよい.
(3) =⇒ (4): ⟨x, xn ⟩ = 0 とすれば Parseval から ∥x∥2 = 0 でこれは x = 0 を意味する.
∑∞
(4) =⇒ (1): x
˜ ··= m=1 ⟨xm , x⟩xm とおく. このとき, 任意の n ≥ 1 に対して
⟨x − x
˜, xn ⟩ = ⟨x, xn ⟩ − ⟨˜
x, xn ⟩ = ⟨x, xn ⟩ −
∑
⟨x, xm ⟩⟨xm , xn ⟩ = ⟨x, xn ⟩ − ⟨x, xn ⟩ = 0
よって仮定より x = x
˜. ♡
Lemma 20. (D)⊥ = D⊥ .
proof. D ⊂ D と定義から (D)⊥ ⊂ D⊥ はよい. x ∈ D⊥ とすると, 任意の y ∈ D に対し
て y に収束するような D の点列 {yn } がとれる. 内積の連続性により ⟨x, y⟩ = 0 がわかる
から, x ∈ (D)⊥ となり, 逆もいえた. ♡
Proposition 21. (1) D ⊂ H が稠密 ⇐⇒ D⊥ = {0}
(2) D ⊂ H が稠密で, 任意の x ∈ D に対して x1 , x2 ∈ H が ⟨x, x1 ⟩ = ⟨x, x2 ⟩ ならば
x1 = x2
6
proof. (1)[=⇒] x ∈ D⊥ とするとき, D の稠密性から x に収束するような xn ∈ D がと
れるので, 内積の連続性から ⟨x, xn ⟩ −→ ⟨x, x⟩. 一方, ⟨x, xn ⟩ = 0 より ⟨x, x⟩ = 0 だから
x = 0.
[⇐=] M ··= D が閉部分空間より射影定理から任意の x ∈ H は
x = xM + xM ⊥
とかける. 前の補題と仮定によって M ⊥ = (D)⊥ = D ⊥ = {0} であるから, xM ⊥ = 0.
よって x = xM ∈ M = H よって D は稠密.
(2) 条件は x1 − x2 ∈ D⊥ をいっている. (1) より D⊥ = {0} なので x1 = x2 ♡
Example 22. {en }n は l2 で完全.
proof. ONS はみた. 任意の a = {an }n ∈ l2 に対して ⟨en , a⟩ = an となるので,
∞
∑
|⟨en , a⟩|2 = ∥a∥2
n=1
となるから Parseval より O.K. ♡
Definition 23. L(D) で D のすべてのベクトルによって生成される部分空間を表す. つ
まり
L(D) ··=
N
{∑
}
αj xj αj ∈ C, xj ∈ D, j = 1, · · · , N, N ∈ N .
j=1
ある H の高々可算部分集合 D があって, L(D) が H で稠密のとき H は可分であると
いう.
Proposition 24. H の ONS{xn }n が CONS⇐⇒ L({xn }n ) が H で稠密.
proof. (=⇒) 定理 19 の (4) より, ({xn }n )⊥ = {0} である. よって前の命題から稠密.
(⇐=) 前の命題から (L{xn }n )⊥ = {0} となり, 定理 19 の (4) がなりたつ. よって
{xn }n は CONS. ♡
Proposition 25. l2 は可分
∑∞
proof. {x = (ξ1 , ξ2 , · · · ) j=1 |ξj |2 < ∞, ξj ∈ Q} は可算で l2 のなかで稠密. ♡
Theorem 26. 可分な Hilbert 空間は CONS をもつ.
7
proof. H を可分な Hilbert 空間として, D ··= {xn }n を H の可算部分集合で L(D) が
H で稠密なものとする. 各 x1 , · · · , xn は線型独立とは限らないので, つぎの操作をする.
x1 = 0 ならのぞき, そうでなければのぞかない. n > 1 では xn が x1 , · · · , xn−1 の生成
する部分空間にふくまれていればのぞき, そうでなければのぞかない. この作業でのこっ
たものをその順番で x′1 , x′2 , · · · とするとき, 任意の n で x′1 , · · · , x′n はつくりかたから線
型独立で, L(D) = ({x′n }n=1,2,··· ) となる. {x′n }n に Gram-Schmidt を適用して得られる
ONS を {yn }n とすれば L({yn }n ) = L(D). よって仮定から L({yn }n ) は H で稠密より,
命題 24 から {yn }n は CONS となる. ♡
Theorem 27. L2 (Rd ) は可分.
proof. d 個の組 n = (n1 , · · · , nd ) ∈ Nd に対して In ··= [−n1 , n1 ] × · · · × [−nd , nd ] とし
md
1
て, In の定義関数を χn とする. 正整数の組を m ··= (m1 , · · · , md ), pm (x) ··= xm
1 · · · xd
とおき,
D ··= {χn pm n ∈ Nd , m ∈ ({0} ∪ N)d }
とする. χn が In の定義関数より D ⊂ L2 (Rd ) であり, D は可算個の元からなる. 任意の
f ∈ C0 (Rd ) に対して suppf ⊂ In なる n があって, Weierstrass の多項式近似より任意の
ε に対してある多項式 P により supx∈In |p(x) − f (x)| < ε とできる. よって
∥χn P − f ∥L2 (Rd ) =
=
(
(
∫
∫R
|χn P − f |2 dx
)1/2
d
√
)1/2
|P − f |2 dx
≤ ε |In |.
In
よって L(D) ⊂ C0 (Rd ) は稠密で, C0 が L2 (Rd ) で稠密という事実より, L(D) は L2 (Rd )
で稠密. ♡
Proposition 28. 線型作用素 A が単射である必要十分条件は kerA = {0} である.
proof. 線型代数.
Theorem 29 (Riesz の表現定理). 任意の F ∈ H ∗ に対して一意的に y ∈ H があって,
F (x) = ⟨y, x⟩(x ∈ H) とかける. さらに, ∥F ∥ = ∥y∥ がなりたつ.
proof. まず kerF が H の閉部分空間を示す. xn ∈ kerF, xn −→ x とすると, F の連続
性により F (xn ) −→ F (x). xn ∈ kerF により F (xn ) = 0. よって F (x) = 0 となるから
x ∈ kerF で O.K.
8
kerF = H であれば F (x) = 0 = ⟨0, x⟩ より y = 0 とすればよい. kerF ̸= H とする.
H は射影定理によって H = kerF ⊕ (kerF )⊥ とかける. 任意に 0 でない y0 ∈ (kerF )⊥
をとると, 任意の x ∈ H に対して F (y0 )x − F (x)y0 ∈ kerF だから
⟨y0 , F (y0 )x − F (x)y0 ⟩ = 0
から
⟨y0 , F (y0 )x⟩ − F (x)∥y0 ∥2 = 0
を ∥y0 ∥2 でわると,
F (x) =
F (y0 )⟨y0 , x⟩
F (y0 )
F (y0 )
=⟨
y0 , x⟩ = ⟨y, x⟩, y ··=
y0
2
2
∥y0 ∥
∥y0 ∥
∥y0 ∥2
となる.
一意性: F (x) = ⟨y, x⟩ = ⟨y ′ (x⟩) とおけば, ⟨y − y ′ , x⟩ = 0, x ∈ H. x ··= y − y ′ とおけ
ば ∥y − y ′ ∥2 = 0 よりよい.
∥F ∥ = ∥y∥: Schwarz より |F (x)| = |⟨y, x⟩| ≤ ∥y∥∥x∥ から ∥F ∥ ≤ ∥y∥. x = y/∥y∥
ととれば ∥y∥ = F (y)/∥y∥ ≤ sup∥y∦=0 |F (y)|/∥y∥ となるから, ∥y∥ ≤ ∥F ∥ であって
∥F ∥ = ∥y∥ ♡
Riesz の表現定理によって任意の f ∈ H ∗ に対して y ∈ H が一意的に定まるから H ∗
と H を同一視できる. たとえば L2 (0, 1)∗ = L2 (0, 1) と見れる.
また, 共役空間を考えずに内積だけ考えればよい. じっさいに X と Y を Banach 空
間として X から Y への稠密に定義された線型作用素 T については, ある f ∈ X ∗ で
g(T x) = f (x) となる g ∈ Y ∗ の全体を定義域として Y ∗ から X ∗ への作用素を T ∗ g = f
と定義できるが, X, Y が Hilbert 空間のときは Riesz の表現定理から f (x) = ⟨x, ξ⟩,
g(y) = ⟨y, η⟩ なる ξ ∈ X, η ∈ Y が一意的に存在し, ⟨x, ξ⟩ = ⟨T x, η⟩, x ∈ D(T ) となる
からわかりやすく ⟨x, T ∗ η⟩ = ⟨T x, η⟩, η ∈ D(T ∗ ) とかける.
Definition 30. ノルム空間 X に対して τ (x)(f ) ··= f (x) (f ∈ X ∗ ) によって定めら
れた等長写像 τ : X → X ∗∗ は X の X ∗∗ への標準的埋め込みといわれ, これによって
X ⊂ X ∗∗ とみなせる. X = X ∗∗ (τ (X) = X ∗∗ のとき X は反射的という.
Theorem 31. Hilbert 空間は Banach 空間として反射的.
proof. 標準的埋め込み τ : H → H ∗∗ が全射を示せばよい. H ∗ が内積空間となることを
みる. 任意の x ∈ H に対して線型汎関数 y ∈ H 7→ ⟨x, y⟩ は有界なのでこれを ι(x) ∈ H ∗
9
で表す. f, g ∈ H ∗ に対して,⟨g, f ⟩H ∗ ··= ⟨ι−1 (f ), ι−1 (g)⟩ とおくとき,
ι(x + y) = ι(x) + ι(y), ι(λx) = λι(x)
(共役線形性)
により ⟨f, g⟩H ∗ は H ∗ 上の内積となる.
∥f ∥2 = ∥ι−1 (f )∥2 = ⟨ι−1 (f ), ι−1 (f )⟩ = ⟨f, f ⟩H ∗
となり, 内積から定まるノルムは H ∗ の共役空間としてのノルムと一致するから H ∗ は
⟨g, f ⟩H ∗ によって完備内積空間 (Hilbert 空間) となる.
任意に ϕ ∈ H ∗∗ をとると, H ∗ に Riesz を適用して H ∗ の元 f で任意の g ∈ H ∗ に対し
て ϕ(g) = ⟨f, g⟩H ∗ なるものがとれる. x ··= ι−1 (g), y ··= ι−1 (f ) とおけば,
⟨g, f ⟩H ∗ = ⟨x, y⟩ι−1 (x) = g(x) = τ (x)(g)
とかける. よって ϕ(g) = τ (x)(g) (g ∈ H ∗ ) なので ϕ = τ (x) より τ は全射. ♡
Definition 32. D(T ) ⊂ D(T ∗ ), T x = T ∗ x を満たす T を対称作用素という.
D(T ) = D(T ∗ ), T x = T ∗ x を満たす T を自己共役作用素という.
また, H, K が Hilbert 空間で線型作用素 U : H → K が
(U.1) D(U ) = H
(U.2) R(U ) = K (全射)
(U.3) ⟨U x, U y⟩K = ⟨x, y⟩H (x, y ∈ H)
を満たすとき, U を Unitary 作用素という.
Proposition 33. Unitary 作用素は単射.
proof. 内積を保存することから
(U.4) ∥U x∥K = ∥x∥H , x ∈ H
だから U x = 0 なら x = 0 ♡
(U.4) から U は有界で ∥U ∥ = 1 となる.
N
Theorem 34. H, K を可分な Hilbert 空間, {xn }N
n=1 , {yn }n=1 を H, K の CONS と
する. このとき, N が可算であればすべての自然数 n に対して U xn = yn となる Unitary
作用素 U が一意的にある.
∑∞
proof. N = ∞ とする. 任意の x ∈ H は x = n=1 ⟨xn , x⟩xn とかける. Parseval より
∑∞
∑∞
2
n=1 |⟨xn , x⟩| < ∞ であるから, Lem16 により
n=1 ⟨xn , x⟩yn は K で収束する. よっ
10
て U : H → K を U x ··=
∑∞
n=1 ⟨xn , x⟩yn
と定義するとこれは線型で
∑
∑
∑
∑
⟨U x, U y⟩ = ⟨ ⟨xn , x⟩yn ,
⟨xm , y⟩ym ⟩ =
⟨x, xn ⟩⟨xn , y⟩ = ⟨x,
⟨xn , y⟩xn ⟩ = ⟨x, y⟩
より内積を保存する. 任意の y ∈ K を y =
x ··=
∑∞
m=1 ⟨ym , y⟩xm
Ux =
∑
⟨yn , y⟩yn とかけば収束しているので
とおけば
∑
∑
∑
∑
⟨xn , x⟩yn =
⟨xn ,
⟨ym , y⟩xm ⟩yn =
⟨yn , y⟩yn = y
で y は任意だから全射で U は Unitary.
一意性 U ′ xn = yn とすると, すべての x ∈ H に対して U ′ x =
∑
∑
∑
⟨xn , x⟩U xn = U x より U = U ′ ♡
D ⊂ D(A) に対して AD ··= {Ax x ∈ D} とおく.
⟨xn , x⟩U ′ xn =
⟨xn , y⟩yn =
Theorem 35. H, K を Hilbert 空間, U : H → K を Unitary 作用素とするときつぎが
なりたつ.
(1) U −1 : K → H, Unitary
(2) D ⊂ H が稠密ならば U D ⊂ K も稠密
(3) 任意の H の CONS{xn }∞
n に対して {Y xn } は K の CONS.
proof. (1) η, χ∈ H に対して
⟨U −1 η, U −1 χ⟩H = ⟨U (U −1 η), U (U −1 χ)⟩K = ⟨η, χ⟩K
より O.K.
(2) y ∈ (U D)⊥ とする. 任意の x ∈ D に対して ⟨y, U x⟩ = 0 で U が全単射より一意的
に y = U η なる η ∈ H がある. よって
0 = ⟨U η, U x⟩ = ⟨η, x⟩
で D が稠密より η = 0. よって y = 0 より (U D)⊥ = {0} より U D は K で稠密.
∞
(3) {xn }∞
n が CONS より命題 24 から L({xn }n ) が H で稠密. よって (2) より
L({U xn }n ) が K で稠密となり, ふたたび命題 24 によって {U xn }n は CONS. ♡
Definition 36. ある H から K への Unitary 作用素があるとき, H と K は同型という.
Theorem 37. H を可分な Hilbert 空間とし, {xn }∞
n を H の CONS とする. このとき
x → {⟨xn , x⟩}n ∈ l2 によって H と l2 は同型となる.
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proof. en = {δnj }j の集合 {en } は前にみたように l2 の CONS だから定理 34 によって
∑
U xn = en なる Unitary 作用素 U : H → l2 がある. 任意の x ∈ H は x = ⟨xn , x⟩xn と
かけるので,
Ux =
∑
⟨xn , x⟩en = (⟨x1 , x⟩, ⟨x2 , x⟩, · · · ) ∈ l2
となる. ♡
Remark 38. つまり可分な無限次元 Hilbert 空間は本質的には l2 しかない!
参考文献
[1] 新井朝雄・江沢洋『量子力学の数学的構造 1, 2』(朝倉物理学大系 7, 8), 朝倉書店,
1999.
[2] 増田久弥『関数解析』(数学シリーズ), 裳華房, 1994.
[3] 宮島静雄『関数解析』, 横浜図書, 2005.
元ネタは新井・江沢 [1] です. それに証明をてきとうに増田 [2] の方向に書きかえなが
らつくったという感じでしょうか.
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