微分積分学 I:第2章 1変数関数の微分 担当: 金森 敬文 ([email protected]) http://www.math.cm.is.nagoya-u.ac.jp/~kanamori/biseki1.html § 微分係数・導関数 定義 2.1 (微分可能性・片側微分). 区間 I 上で定義された関数 f : I → R が a ∈ I で微分可能とは,極限 lim x→a f (x) − f (a) f (a + h) − f (a) = lim h→0 x−a h が存在すること.この極限値を f ′ (a) とかき,f の x = a における微分係数という.また片側微分可能とは,極限 lim x→a+ f (x) − f (a) f (a + h) − f (a) = lim , h→0+ x−a h lim x→a− f (x) − f (a) f (a + h) − f (a) = lim h→0− x−a h が存在すること 1 .この極限値を右 (左) 側微分係数という. note: 関数が微分可能 ⇐⇒ 右側と左側の微分係数が存在して一致. (a + h)2 − a2 = lim 2a + h = 2a となる.よって f ′ (a) = 2a. h→0 h→0 h 例 2.1. f (x) = x2 の x = a での微分係数は lim f (x) = |x| に対して f ′ (0) は存在しない. 定理 2.1 (可微分関数の連続性). f : I → R が a ∈ I で微分可能なら,f は a で連続. 定義 2.2 (導関数). f : I → R が任意の x ∈ I で微分可能 (片側しか定義されないときは片側微分可能) のとき,f は I で微分可能という.このとき f ′ は I 上の関数となり,これを f の導関数という. y = f (x) に対して f ′ (x) を df d dy df と書くこともある. (x), f (x), y ′ , などと書く.また,f ′ (x) の x = a での値 f ′ (a) を dx dx dx dx x=a 例 2.2. f (x) = xn (n ∈ N) ⇒ f ′ (x) = nxn−1 .f (x) = ex ⇒ f ′ (x) = ex . 定理 2.2 (導関数の公式). f, g が a ∈ I で微分可能とする.このとき以下が成り立つ. (f (x) + g(x))′ = f ′ (x) + g ′ (x), (kf (x))′ = kf ′ (x) (k 定数) ( )′ g(x) g ′ (x)f (x) − g(x)f ′ (x) (f (x)g(x))′ = f ′ (x)g(x) + f (x)g ′ (x), = f (x) (f (x))2 演習 2.1. f (x) = ex sin x の導関数を計算せよ.f (x) = (ただし f (x) ̸= 0) 1 の導関数を計算せよ. 1 + x2 定理 2.3 (合成関数の微分). y = f (x) が x = a で微分可能,z = g(y) が y = f (a) で微分可能とする.このとき dz dz dy z = g(f (x)) は x = a で微分可能で (g(f (x)))′ = g ′ (f (a))f ′ (a) となる.これは = とかける. dx dy dx 定理 2.4 (逆関数の微分). f : I → R が連続で狭義単調とする.f (x) が x = a で微分可能かつ f ′ (a) ̸= 0 とすると,逆 1 関数 x = f −1 (y) は b = f (a) で微分可能で,微分係数は (f −1 )′ (b) = ′ となる. f (a) 例 2.3. x ̸= 0 に対して,関数 y = f (x) = loga |x| (a > 0, a ̸= 1) の導関数を求める.x > 0 のとき x = ay > 0 よ dy dx = ay log(a) ̸= 0.したがって, = り,x > 0 の範囲での関数 f (x) の逆関数は x = f −1 (y) = ay > 0.よって, dy dx 1 1 = .一方,x < 0 のとき −x = ay > 0 なので,x < 0 の範囲での関数 f (x) の逆関数は x = f −1 (y) = −ay ay log a x log a dy 1 1 1 dx = −ay log(a) ̸= 0.したがって =− y = .結局,x ̸= 0 に対して (loga |x|)′ = . より, dy dx a log a x log a x log a 1 lim x→a+ f (x) は x > a を満たしながら極限 x → a を考えること.limx→a− f (x) は x < a を満たしながら 極限 x → a を考えること. 1 例 2.4. a ∈ R に対して (0, ∞) 上の関数 f を f (x) = xa とする.f (x) = ea log x より f ′ (x) = ea log x (a log x)′ = axa−1 . 演習 2.2. f (x) = sin(x2 ) の導関数を計算せよ.f (x) = sin−1 x (|x| < 1) の導関数を計算せよ.ただし sin−1 は sin : (−π/2, π/2) → (−1, 1) の逆関数とする. 定義 2.3 (高階導関数). f : I → R の導関数 f ′ : I → R が I 上で微分可能なとき,f は 2 回微分可能といい,f ′ の微分 (f ′ )′ を f ′′ (または f (2) ) とかく.f ′′ を f の 2 階導関数という.同様に f が I 上 n 回微分可能なとき f の n 階導関数 dn を f (n) または f (x) とかく.f (0) , f (1) はそれぞれ f, f ′ を意味する. dxn 例 2.5. f (x) = x2 とすると f (0) (x) = x2 , f ′ (x) = f (1) (x) = 2x, f ′′ (x) = f (2) (x) = 2, f (n) (x) = 0 (n ≥ 3). 定理 2.5 (ライプニッツの公式). f, g が n 回微分可能のとき (f (x)g(x))(n) = n ∑ n Ck f (k) (x)g (n−k) (x).ここで n Ck = k=0 n! . k!(n − k)! 例 2.6. (f g)′ = 1 C0 f (0) g (1) + 1 C1 f (1) g (0) = f g ′ + f ′ g. (f g)(2) = f ′′ g + 2f ′ g ′ + f g ′′ . 演習 2.3. n ≥ 3 に対して dn 2 x (x e ) を計算せよ. dxn 定義 2.4 (連続微分可能性). f : I → R が n 回微分可能で,さらに f (n) が I 上連続関数のとき,f は n 回連続微分可能 という.このとき f を C n 級関数という. note: f は C 0 級 ⇔ f は連続.f は C 1 級 ⇔ f は 1 回微分可能で f ′ は連続.f は C 2 級 ⇔ f は 2 回微分可能で f ′′ は連続.f は C ∞ 級 ⇔ f は ∞ 回微分可能. note: 微分可能なら連続なので C m+1 級なら C m 級. 0 x<0 例 2.7. 関数 f : R → R を f (x) = (max{0, x})2 と定める.f ′ (x) = .また f ′′ (0) は存在せず,x ̸= 0 に対 2x x ≥ 0 0 x < 0 して f ′′ (x) = .したがって f は C 1 級. 2 x > 0 § 平均値の定理・関数のグラフ・不定形の極限 定義 2.5 (接線・法線). 関数 f (x) が x = a で微分可能なとき,直線 y = f ′ (a)(x − a) + f (a) を f (x) の x = a での接線 1 という.また f ′ (a) ̸= 0 のとき,直線 y = − ′ (x − a) + f (a) を f (x) の x = a での法線という. f (a) 定義 2.6 (極値). Uε (a) = {x ∈ R | |x − a| < ε} を a の ε 近傍という.f : I −→ R, a ∈ I に対して • f (x) が x = a で (広義の) 極大:∃ε > 0, ∀x ∈ Uε (a), f (x) ≤ f (a). • f (x) が x = a で (広義の) 極小:∃ε > 0, ∀x ∈ Uε (a), f (x) ≥ f (a). 定理 2.6. f : I → R が a ∈ I で極値をとり,f (x) が x = a で微分可能なら f ′ (a) = 0. note:上の定理は関数 f が極値をとる必要条件.極値かどうかは,増減表を書くなどして詳しく調べる必要がある. 定理 2.7 (ロール (Rolle) の定理). f : [a, b] → R は [a, b] 上連続で,(a, b) 上微分可能とする.また f (a) = f (b) とする. このとき f ′ (c) = 0 となる c ∈ (a, b) が存在する. proof: [a, b] 上で f は最大値または最小値をとる (最大値・最小値定理).境界でない点 x = c で最大値をとるとき 極値 条件から f ′ (c) = 0 となる.もし境界の点で最大値 f (a)(= f (b)) をとるとき,a < c < b で最小値をとるので f ′ (c) = 0 となる. 2 定理 2.8 (平均値の定理). f : [a, b] → R は [a, b] 上連続で,(a, b) 上微分可能とする.このとき なる c ∈ (a, b) が存在する. f (b) − f (a) = f ′ (c) と b−a 定理 2.9 (コーシーの平均値の定理). f, g は [a, b] 上連続,(a, b) 上微分可能とする.g(a) ̸= g(b) かつ x ∈ (a, b) に対し f ′ (c) f (b) − f (a) = ′ となる c ∈ (a, b) が存在する. て g ′ (x) ̸= 0 が成り立つとき, g(b) − g(a) g (c) 定理 2.10. 関数 f がある区間 I 上で微分可能とする. • ∀x ∈ I に対して f ′ (x) > 0 なら,f は I 上で単調増加, • ∀x ∈ I に対して f ′ (x) < 0 なら,f は I 上で単調減少. 証明には平均値の定理を使う.上の 定理を使うと f ′ (z) の符号を調べれば関数 f の増減表が書ける.これより関数 f の 概形が分かる. 極限が不定形 (0/0, ∞/∞) となる関数の極限値を考える. 定理 2.11 (ロピタルの定理). f (x), g(x) は x = a の近くで連続で微分可能,g ′ (a) ̸= 0 かつ f (a) = g(a) = 0 とする.ま た lim f ′ (x)/g ′ (x) が存在するなら lim f (x)/g(x) = lim f ′ (x)/g ′ (x) が成り立つ. x→a x→a x→a note: コーシーの平均値の定理を用いて証明する. • 1 回微分しても 0/0 となる場合には,さらに分子分母を微分して計算をすすめる. • a = ±∞ でも定理が成り立つ.また f (x) → ∞ かつ g(x) → ∞ のとき (∞/∞ となるとき) でも定理が成り立つ. sin x (sin x)′ の分子,分母はともに x → 0 で 0 に収束する.また分母について (x)′ = 1 ̸= 0 で lim = x→0 x x→0 (x′ ) cos x sin x lim = 1 となるので lim = 1. x→0 x→0 x 1 例 2.8. lim 例 2.9. lim xx を計算するために log xx を考える. lim x log x = − lim log t/t = − lim (log t)′ /(t)′ = − lim 1/t = 0 x→0+ t→∞ x→0+ t→∞ t→∞ (t → ∞ で log t → ∞, t → ∞ を使った).よって lim log xx = 0 と関数 ex の連続性より lim xx = 1. x→0+ ex − 1 演習 2.4. 次の極限値を求めよ. lim , x→0 x x→0+ 1 − cos x lim . x→0 x sin x § テイラーの定理・テイラー展開・マクローリン展開 定理 2.12 (テイラーの定理). f : [a, b] → R は [a, b] で n 回微分可能とする.このとき c ∈ (a, b) が存在して,Rn = f (n) (c) (b − a)n とおくと以下の等式が成り立つ. n! f (b) = f (a) + = n−1 ∑ k=0 f ′ (a) f (2) (a) f (n−1) (a) (b − a) + (b − a)2 + · · · + (b − a)n−1 + Rn 1! 2! (n − 1)! f (k) (a) (b − a)k + Rn . k! c は c = θa + (1 − θ)b, 0 < θ < 1 とかける. f (n) (c) (b − c)n−1 (b − a), c ∈ (a, b) (n − 1)! がある.コーシーの剰余項もルジャンドルの剰余項と同じ値になるが,c の選び方が一般に異なる. note: Rn をルジャンドルの剰余項という.他の表現としてコーシーの剰余項 Rn = 例 2.10. f (x) = x3 に a = 1, b = x でテイラーの定理を適用する.f (1) = 1, f ′ (1) = 3, f ′′ (1) = 6, f (3) (1) = 6, f (n) (1) = 3 6 6 0 (n ≥ 4) より f (x) = 1 + (x − 1) + (x − 1)2 + (x − 1)3 + R4 . ここで R4 = 0.f (x) = 1 + 3(x − 1) + 3(x − 1)2 + R3 1 2 3! ここで R3 = (x − 1)3 .f (x) = 1 + 3(x − 1) + R2 ここで R2 = 3c(x − 1)2 (c は 1 と x の間の値).c = (2 + x)/3 とすれ ばよい (実際 c は 1 と x の間). 3 例 2.11. f (x) = ex に対して a = 0, b = x とすると f (n) (0) = 1 より f (x) = 1 + x + 1 2 2! x + ··· + 1 n−1 (n−1)! x + Rn . c n Rn = e x /n!,c は 0 と x の間の数 演習 2.5. f (x) = log(1 − x) に対して a = 0, b = x, n = 3 としてテイラーの定理を適用せよ. f : I → R を C ∞ 級とする.テイラーの定理において Rn → 0(n → ∞) なら,以下の式が成り立つ. ∞ f (b) = f (a) + ∑ f (k) (a) f ′ (a) f (2) (a) (b − a) + (b − a)2 + · · · = (b − a)k 1! 2! k! (1) k=0 式 (1) を f (x) の x = a における テイラー展開(または展開式) という.とくに a = 0 のときの展開式 ∞ ∑ f (k) (0) f (2) (0) 2 f ′ (0) b+ b + ··· = bk f (b) = f (0) + 1! 2! k! k=0 を マクローリン展開 という. (k − 1)! より f (k) (0) = (1 + x)k (−1)k−1 (k − 1)! (k ≥ 1).コーシーの剰余項を計算すると |x| < 1 のとき Rn → 0 が確認できる.よって log(1 + x) = ∞ ∑ (−1)k−1 k x2 x3 x4 f (0) + x =x− + − + ···. k 2 3 4 例 2.12. |x| < 1 として f (x) = log(1 + x) のマクローリン展開を計算する.f (k) (x) = (−1)k−1 k=1 演習 2.6. f (x) = ex のマクローリン展開を計算せよ. 例 2.13. i を虚数単位 (i2 = −1) とする.マクローリン展開を使うと (形式的に) eix = cos x + i sin x が分かる.厳密に は複素関数の議論が必要.x = π として eiπ + 1 = 0. f (x) = 0 のとき f (x) = x→a g(x) 定義 2.7 (ランダウの記号). 点 x = a の近くで定義された関数 f (x), g(x) に対して lim o(g(x)) (x → a) とかく.o(·) をランダウの記号といい「スモールオー」と読む. f (x) = o(g(x)) (x → a) のとき x = a の近くで |f (x)| は |g(x)| よりも小さい. 例 2.14. f (x) = o(1) (x → a) は lim f (x) = 0 を意味する.x → 0 のとき xn = o(1), log(1 + x) = o(1), x3 = o(x2 ). x→a 一般に n > m のとき xn = o(xm ) (x → 0). 定理 2.13. f (x) が 0 を含む区間で C n 級なら f (x) = f (0) + f ′ (0)x + f ′′ (0) 2 f (n) (0) n x + ··· + x + o(xn ) (x → 0). 2! n! note: 上の式では n は有限.0 に近い x における f (x) の近似値を与える. 例 2.15. f (x) = sin x とする.a = 0, b = x としてテイラーの定理を使うと sin x = sin 0 + よって x ̸= 0 に対して 演習 2.7. lim x→0 sin x sin x o(x) =1+ より lim = 1. x→0 x x x log(1 + x) を求めよ. x 4 cos 0 x + o(x) = x + o(x). 1!
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