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目次
§1
複素数の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1
§ 1.1 実数の公理と性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1
§ 1.2 複素数の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
2014 年度 東京理科大学 理学専攻科 数学特論 2A (担当:須田学)
No. 1
履修上の注意
教科書は使用しない.参考図書は,次の 2 冊である.
• 複素数の幾何学,片山考次,岩波書店,1982 年
(品切れのため新品での入手は困難.古本で入手可能.例えば,神保町の明倫館,インターネット書店の四方堂など.)
• 幾何の有名な定理,矢野健太郎,共立出版,1981 年
扱う内容は「複素数平面による初等幾何学」である.高等学校の数学 III の複素数平面の内容も含む.評価は,試験,レポート,
出欠により総合的に行う.講義に関連する内容で自由レポート (任意) を提出すれば,評価に加味する.
§ 1 複素数の構成
複素数は,i2 = −1 をみたす文字 i を形式的に与え,実数 x, y に対して,x + yi の形で表される数として説明されることが多い
が,そもそもこの i を勝手に与えている部分に違和感があるだろう.また,“+” の意味や yi における y と i の関係も不透明であ
る.そこで,実数の公理を認めて,複素数を厳密に構成 する.まずは,実数の公理を復習しておこう.
§ 1.1 実数の公理と性質
実数の公理 以下の性質 (1)–(3) をみたす数の集まり R に対して,その要素を実数とよぶ.
(1) すべての x, y ∈ R に対して,
• 2 つの数 x, y から新たに 1 つの数を作る規則である加法 x + y (∈ R)
• 2 つの数 x, y から新たに 1 つの数を作る規則である乗法 x · y (∈ R)
• 成立するかしないかどちらか一方に決まる関係 x ≦ y
が定められている (x · y を xy と略記することもあるが,ここでは省略しない).
16 が成立する.
1 –⃝
(2) x, y, z ∈ R に対して,次の⃝
⃝
1 (x + y) + z = x + (y + z)
⃝
2 0 ∈ R が存在して,すべての x ∈ R に対して x + 0 = x = 0 + x が成立する.
⃝
3 すべての x ∈ R に対して,x + y = 0 = y + x をみたす y ∈ R が存在する.
(y は x に対して 1 つに定まり −x と表される.当然,x + (−x) = 0 = (−x) + x をみたす.)
⃝
4 x+y =y+x
⃝
5 (x · y) · z = x · (y · z)
⃝
6 1 ∈ R が存在して,すべての x ∈ R に対して x · 1 = x = 1 · x をみたす.
⃝
7 0 でない すべての x ∈ R に対して,x · y = 1 = y · x をみたす y ∈ R が存在する.
(y は x に対して 1 つに定まり x−1 と表される.当然,x · x−1 = 1 = x−1 · x をみたす.)
⃝
8 x·y =y·x
⃝
9 x · (y + z) = x · y + x · z
10 0 ̸= 1 かつ 0 ≦ 1
⃝
11 x ≦ x
⃝
12 x ≦ y かつ y ≦ x ならば x = y
⃝
13 x ≦ y かつ y ≦ z ならば x ≦ z
⃝
14 x ≦ y と y ≦ x のうち少なくとも一方が成り立つ.
⃝
15 x ≦ y ならば x + z ≦ y + z
⃝
16 0 ≦ x かつ 0 ≦ y ならば 0 ≦ x · y
⃝
(3) R が連続性の公理をみたす(詳細はこの講義では扱わない).
2014 年度 東京理科大学 理学専攻科 数学特論 2A (担当:須田学)
No. 2
問1
16 のうちで法則や公理がいくつかある.それらを確認せよ.
1 –⃝
実数の公理において,⃝
問2
実数の公理を用いて,次を示せ.ただし,x, y を実数とする.
2 における 0 (∈ R) が 1 つしか存在しないこと
(1) ⃝
3 で,y が x に対して 1 つに定まること
(2) ⃝
(3) −(−x) = x
6 における 1 (∈ R) が 1 つしか存在しないこと
(4) ⃝
7 で,y が x (̸= 0) に対して 1 つに定まること
(5) ⃝
(6) x ̸= 0 のとき,(x−1 )−1 = x
問3
実数の公理を用いて,次の等式を示せ.ただし,x, y を実数とする.
(1) 0 · x = 0
(2) (−1) · (−1) = 1
(3) (−x) · y = −(x · y) = x · (−y)
(4) (−x) · (−y) = x · y
(5) (−1) · x = −x
(6) x ≦ y ならば −y ≦ −x
(7) x ≦ 0, 0 ≦ y ならば x · y ≦ 0
(8) 0 ≦ x · x
(注意) 一般に,x · x を x2 と表す
x
差と分数は次のように定義される.実数 x, y に対して,x − y を x + (−y),y ̸= 0 のとき, を x · y −1 で定義する:
y
x − y = x + (−y),
問4
y ̸= 0 のとき
x
= x · y −1
y
(
)
1
−1
特に x = 1 として, = y
.
y
実数の公理を用いて,次を示せ.ただし,x, y, z を実数とする.
(1) x + y = z ⇔ x = z − y
(3) y ̸= 0 のとき,x · y = z ⇔ x =
(5) x ̸= 0, y ̸= 0 のとき,
x
̸= 0
y
(2)
z
y
x
が定義されないこと
0
(4) y ̸= 0 のとき,x · y = 0 ⇔ x = 0
1
y
(6) x ̸= 0, y ̸= 0 のとき, x =
x
y
実数 x, y に対して,x < y を「x ≦ y かつ x ̸= y 」で定義する.このとき,x ≦ y が「x < y または x = y 」を意味することも
10 は 0 < 1 を意味する。さらに,よく知られている実数の性質がすべて証明されるが,この講義では深入
証明できる.また,特に⃝
りしない.以下,実数の性質をすべて認める ことにする.また,自然数,整数,有理数,実数の包含関係 N ⊂ Z ⊂ Q ⊂ R も認
める.
2014 年度 東京理科大学 理学専攻科 数学特論 2A (担当:須田学)
問5
No. 3
実数の公理を前提として,次の数を構成する方法を簡単に述べよ.
(1) 自然数
(2) 整数
(3) 有理数
(4) 無理数
この講義では,実数を前提として,自然数などを構成したが,ペアノの公理による自然数を前提として,
自然数 (ペアノの公理) → 整数 → 有理数 → 無理数 → 実数
の順で,数の体系を広げる方が正攻法である.その理由は,実数を前提とする場合,
ことにある.この構成法に興味のある者は,
• 数の体系,蟹江幸博訳,丸善出版,2014 年
• 数をとらえ直す,柳原弘志・織田進,裳華房,2005 年
• 幾何入門,砂田利一,岩波書店,2004 年
• 数の構造,竹内啓,教育出版,1979 年
• 数の概念,高木貞治,岩波書店,1949 年
などを参考にしてみるとよいだろう.
これまで,x = y ならば x + z = y + z, x · z = y · z を認めてきたが,これらは,等号の公理から証明することができる.
等号の公理
(参考文献: 数学の基礎,島内剛一,日本評論社,1971 年)
• 公理 1
∀x : x = x
• 公理 2
P (x) を x に関する命題で y を含まないものとするとき,
( = の反射律)
∀x, y : ( x = y ∧ P (x) ) → P (y)
問6
等号の公理を用いて,次を示せ.
(1) ∀x, y : x = y → y = x
( = の対称律)
(2) ∀x, y, z : ( x = y ∧ y = z ) → x = z
問7
( = の代入法則)
x, y, z ∈ R について,次を示せ.
(1) x = y ならば x + z = y + z
( = の推移律)
ヒント:等号の公理,問 6 の結果を利用せよ.
(2) x = y ならば x · z = y · z
2014 年度 東京理科大学 理学専攻科 数学特論 2A (担当:須田学)
No. 4
自然数を構成する公理であるペアノ (Peano) の公理を紹介しておく.
ペアノ (Peano) の公理
集合 N は特別な元 1 と,写像 S : N → N を持ち,以下の性質を満たすものとする.
(1) 1 ∈
/ S(N).
(2) S は単射である (i.e. S(n) = S(m) ⇒ n = m).
(3) A ⊂ N が,次の性質 (i),(ii) を満たせば,A = N.
(i) 1 ∈ A
(ii) n ∈ A ならば S(n) ∈ A (i.e. S(A) ⊂ A)
このとき,N を自然数の集合といい,N の元を自然数という.また,S(n) を「n の次の自然数」という.
素朴な意味での自然数 1, 2, 3, · · · とペアノの公理により規定される自然数の関係は,次のようにして与えられる:
2 = S(1),
3 = S(2) = S(S(1)),
4 = S(3) = S(S(2)) = S(S(S(3))),
··· .
このとき,N = {1, S(1), S 2 (1), · · · , S n (1), · · · } と表したくなるが,
の意味
が与えられていないので,厳密には正しくない.これを避けるため,ペアノの公理では,無限に続く手続きを利用せず,(1)–(3)
で一挙に自然数の集合を特徴づけている点に着目して欲しい.
問 8 (数学的帰納法が正しいことの証明) ペアノの公理から,自然数の和が定義され,S(n) = n + 1 と表すことができる (証明
略).これを認めて,自然数 n に関する命題 P (n) について,
(i) P (1) が真,
(ii) P (n) が真と仮定するとき,P (n + 1) も真
とするとき,任意の n に対して P (n) が真であることを示せ.
§ 1.2 複素数の構成
以下,実数の性質や計算法則等をすべて認める ことにして,i2 = −1 をみたす複素数を厳密に構成していく.
R と R の直積 V = { (x, y) | x, y ∈ R } に,等号,加法,実数倍を次のように定める.
• 等号
(x1 , y1 ) = (x2 , y2 ) ⇔
• 加法
(x1 , y1 ) + (x2 , y2 ) =
• 実数倍
c(x, y) =
(c ∈ R)
このとき,α, β, γ ∈ V, c, d ∈ R に対して,次の法則が成り立つ.
(I) (α + β) + γ = α + (β + γ)
(II) α + β = β + α
(III) ∃o ∈ V, ∀α ∈ V, o + α = α = o + α
(問 2 と同様に o は一意に存在することが証明できる)
(IV) ∀α ∈ V, ∃β ∈ V, α + β = o = β + α
(問 2 と同様に β は一意に存在することが証明でき,β を −α と表す)
(V) c(α + β) = cα + cβ
(VI) (c + d)α = cα + dα
(VII) (cd)α = c(dα)
(VIII) 1α = α
問9
(ただし,1 ∈ R)
(I)–(VIII) を証明せよ.特に,o, −α を決定せよ.
(I)–(VIII) をみたすので,V は
である.
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No. 5
さらに,α = (x1 , y1 ), β = (x2 , y2 ) ∈ V に対して,乗法を
α·β =
∈V
· · · (∗)
で定義すると,α, β, γ ∈ V に対して,次の法則が成り立つ.
(IX) (α · β) · γ = α · (β · γ)
(X) α · β = β · α
(XI) ∃ε ∈ V, ∀α ∈ V, ε · α = α = α · ε
(問 2 と同様に ε は一意に存在することが証明できる)
(XII) o ̸= ∀α ∈ V, ∃β ∈ V, α · β = ε = β · α
(XIII) α · (β + γ) = α · β + α · γ,
(問 2 と同様に β は一意に存在することが証明でき,β を α−1 と表す)
(α + β) · γ = α · γ + β · γ
問 10 (IX)–(XIII) を証明せよ.特に,ε, α−1 を決定せよ.
乗法を (∗) のように定義した V を改めて C と書き,C の元を複素数という:
C = { (x, y) | x, y ∈ R },
(
問 11 α = (−3, −2), β =
(1) α · β
ただし,加法,実数倍は前ページのように,乗法は (∗) のように定義.
)
1
, 5 , γ = (3, −4) ∈ C に対して,次を計算せよ.
2
(2) γ −1
(3) α · (β · γ)
問 12 i · i = (−1)ε をみたす i ∈ C が存在して,C = { xε + yi | x, y ∈ R } と書けることを示せ.
(注意) i2 = i · i と表す
問 13 写像 f : R → C; x → (x, 0) を定義し,R′ = {f (x) | x ∈ R} ( = Im f ) とおくと,R′ ⊂ C である.このとき,f の値域を
R′ に制限した写像 f : R → R′ ; x → (x, 0) を考える.このとき,次に答えよ.
(1) f : R → R′ が全単射であることを示せ.
(2) f : R → R′ が環準同型であることを示せ.
∼
(3) (1),(2) より,環同型 f : R → R′ ; x → (x, 0) を得るので,対応 x ↔ (x, 0) により,R と R′ (⊂ C) は環として同一視で
きる.この同一視により,i2 = −1 をみたす i ∈ C が存在し,C = { x + yi | x, y ∈ R } と書けることを示せ.