柱建て四方転び(振れ隅構造)の墨付けと加工;木工房用

柱建て四方転び(振れ隅構造)の墨付けと加工;木工房用
木工あとりえY
5/24/2014
http://www.mokkou-atorie-y.com
下図構造の柱建て振れ隅四方ころびの脚の墨付けと加工に採用している方法です。
数値計算に三角関数を扱うポケット電卓か、Excelが入ったパソコンが必要です。
加工は鋸盤(軸傾斜や、ほぞ取り付きの定盤傾斜昇降盤)と角鑿盤を使います。
数式の基本は別資料「規矩術の数学」(上記ホームページ)に導出を含めて公開しています。
y軸に垂直な面が x 軸の
まわりにα傾斜した(x 軸
に沿って見て時計方向:反
対方向から見て反時計方
向)2 枚一組の面(右図X
面)と、x軸に垂直な面が
y軸のまわりにβ(y 軸に
沿って見て時計方向)傾斜
した 2 枚一組の面(右図Y
面)からなる構造体です。
接地面とそれに平行な上
端面は矩形です。脚の軸方
向に垂直な断面は矩形か
ら外れます
x方向、y方向に貫が入り
ます。ぬきの軸方向に垂直
な断面は矩形です。x方向
のぬきの側面はX面と平
行に、y方向のぬきの側面
はY面と平行に傾きます。
*なお、板組み漏斗型の四方転びについては、別資料「異方性四方転び(振れ隅)胴
付きの墨付けと加工」に説明しています(本資料と同じサイト)。
1
1.墨付け
1.1 脚柱
◎墨付けの前に、接地面と、それに平行な上部接合面が矩形になるように、脚の軸に垂直な断面を平
行四辺形に加工する(癖をとる)。
傾斜脚の接地面から上端面までの鉛直方向の高さをh、接地面の寸法をx方向にa、y方向にbとす
ると、脚の軸に垂直な断面の2辺長a1、b1、隅の角度θ1、稜の長さlt は次式で与えられる。
a1 = a × cos a C
b1 = b × cos b C
lt = h × C
tan J1 = - C tan a × tan b
C = 1 + tan 2 a + tan 2 b
(なお、上式で a = b の時は
tan J1 = - 1 + 2 tan 2 a tan 2 a
となり、これは付表の加弓の勾配のころびに等しい)
この脚柱は、下式で与えられる矩形断面a0、b0 で長さl0 の素材から木端を切削して得られる。
a0 = a × cos b , b0 = ( b C + a tan q1 ) cos b (図の青枠) または
a0 = ( a C + b tan q1 ) cos a , b0 = b × cos a (図の赤枠)
l0 = h × C + ( a × tan b + b × tan a ) C
◎接地面と上端面の墨付けは下式の角度θ2x、θ2y で行う。
tan J2 x = 1 cos a tan b
tan J2 y = 1 tan a cos b
から算出する。
(なお、上式で a = b の時は tanJ2 x = tanJ2 y = 1 sin a となり、これは付表の中勾の勾配のころび
に等しい。)
2
◎x 軸方向、y軸方向のぬきの胴付き面の墨付けは下式で算出できる角度θ4x、θ4y、胴付き面の位置
lx、ly(=ぬきの最も低い位置にある稜が脚柱と交わる点の、脚柱の軸に沿っての接地面からの距
離)、ぬきの胴付きの上下面の幅dxu、dyu、上下方向幅wxs、wys、を用いて行う。なお下式でhx、
hy はぬきの最も低い位置にある稜の接地面からの高さ、dx、dyは矩形断面のぬきの上下面の幅、
wx、wyはそれと直角の上下方向の幅である。
tan J 4 x = 1 + tan 2 b tan 2 b sin a cos a
tan J 4 y = 1 + tan 2 a tan 2 a sin b cos b
(なお、上式で a = b の時は tan J4 x = tan J4 y = 1 sin a 、となり、これは付表の小中勾の勾配の
3
ころびに等しい。)
l x = hx × C
l y = hy × C
ただし C = 1 + tan a + tan b
2
2
d xu = d x × cos a 1 + tan 2 a cos 2 b
d yu = d y × cos b 1 + tan 2 b cos 2 a
wxs = wx × C × cos a
w ys = w y × C × cos b
から算出する。
なお、ぬきが脚柱面の側面と面一になる場合の上下面の幅dx、dy、胴付きの上下面の幅dxu、dyu、
下式で与えられるので、これを基本に実際に加工する幅に比例按分して墨付けすることもできる。
d x = b × cos a
d y = a × cos b
3
d xu = b × cos 2 a 1 + tan 2 a cos 2 b
d yu = a × cos 2 b 1 + tan 2 b cos 2 a
1.2 ぬき
x軸方向ぬき、y軸方向ぬきは上下面の幅がdx、dy、それらと直角の上下方向幅がwx、wyであり、
長さrx、ry の矩形断面の棒である。
ぬきの端面の墨付けに必要なな角度θ2x、θ2y は脚柱の墨付けで前出、角度θ5x、θ5y と長さrx、ry
(=ぬきの最も低い位置にある稜の長さ=4本の稜の中で最長)は下式で得られる。
rx=天井部でのx軸方向の2本の脚柱の内側間隔+2Δx
ry=天井部でのy軸方向の2本の脚柱の内側間隔+2Δy 、ここで
D x = ( h - hx ) × tan a
D y = ( h - h y ) × tan b
ここでhは傾斜した状態での脚柱の全高、hx、hy は、x方向、y方向の各ぬきでの最も低い稜の高さ
である。
tan J5 x = 1 tan b sin a
tan J5 y = 1 tan a sin b
(なお、a = b の時は tan J5 x = tan J5 y = 1 tan a sin a となり、これは付表の短玄の勾配のころび。)
なお、墨付けには不要であるが、図の胴付き面の寸法dxu、dyu、wxs、wys は、脚柱の墨付けで用い
たものと同じである。
4
2.加工
2.1 脚柱
脚柱の端面の切断、および上部端面を枘で天板部などの上部構造に接ぐ場合の胴付き面の切削は、癖
とり角度θ1 の傾斜木端を持った短冊治具と、鋸盤の定盤の上で柱の向きを決める2種の角度板γx、
γy を使い、同時に鋸刃をδx、δy だけ鉛直方向から傾けることによって出来る。
さらに、天板など上部構造につなぐ組立工程で枘が胴付き面に垂直であることが都合が良い場合もあ
り、そのほぞ挽きに鋸刃の傾き角度を持った2種の角度板δx、δy が要る。
これらの角度板はぬきの枘穴を角鑿盤で掘る場合にも使える。
これらの角度γx、γy、δx、δy は傾斜角α、βから次式で算出される。
tan g X = cos a tan b
tan g Y = cos b tan a
dX =a
dY = b
(なお、a = b の時は tan g X = tan g Y = sin a となり、
これは付表の中勾の勾配のころびに等しい。
)
5
◎脚柱端面の胴付きの切削は、1ページの図の脚柱X面沿いについては角度板γXを使って部材を鋸
盤定盤上送り方向から傾け、鋸刃を鉛直からδXだけ傾斜させる(あるいは昇降盤の定盤を傾ける)
ことにより図のように行う。脚柱Y面沿いについては角度板γYを使い、鋸刃をδYだけ傾斜させる。
6
◎脚柱の端面の枘は、端面に垂直である場合と柱の長軸に平行である場合があるが、前者の枘挽きは、
鋸盤の枘とり付属装置を使って、角度板γx、γy、δx、δy を使い、鋸刃を傾けないで下図のように
して行える。
◎柱の長軸に平行な枘は、右図
で角度板δを外して、枘とり装
置の定規に沿わせて部材を送れ
ば良い。
◎ぬき用のほぞ穴掘りは、ぬき
の枘を端面に垂直に立てる場合
は角鑿盤の定盤に裏側面を密着
させて、角鑿を真下に降ろせば
よい。部材の側面に短冊治具を
添えると安定する。
ぬき端面の枘を長軸方向に平行
にとる場合は、右図ほぞ挽きの
角度板設定から角度板δを外し
て角鑿盤の定規に沿わせ、角鑿
を真下に降ろす。
7
2.2 ぬき
ぬきの断面は矩形であるので脚柱で用いた短冊治具は不要である。
x方向、y方向の2種のぬき夫々で、1ページに示した2種の面u、sのγ、δの2x2x2=8枚
の角度板が原理上必要であるが、そのうち、脚柱に沿うs面ではγxs、γysが脚柱で使ったγx、γy
と同じになるので転用でき、また下式に示すようにδxsとδysが等しいので、結局下図5枚の角度板
が新たに必要である。
tan g xu = sin a tan b
tan g yu = sin b tan a
2
( a = b の時は tan g xu = tan g yu = tan a
1 + tan 2 a となり、これは付表の短玄の勾配に等しい。)
tan g xs = cos a tan b = tan g X
tan g ys = cos b tan a = tan g Y
( a = b の時は tan g xs = tan g ys = sin a となり、これは付表の中勾の勾配のころびに等しい。)
tan d xu = tan a
1 + tan 2 a ( 1 + tan 2 b )
tan d yu = tan a
1 + tan 2 b ( 1 + tan 2 a )
( a = b の時は tan d xu = tan d yu = tan a
1 + tan 2 a + tan 4 a となり、この式を差し金の操作に翻
訳すると下図になる――すなわち「短玄の勾配の延びにおいて、殳の長さが平勾配のころびの勾であ
る地点の勾 h5 の勾配」――が、これに対応する規矩術での勾配名は浅学のため分らない。)
8
tan d xs = tan a tan b
1 + tan 2 a + tan 2 b = tan d ys = tan d s
tan d ys = tan a tan b
1 + tan 2 a + tan 2 b = tan d xs = tan d s
( a = b の時は tan d s = tan a
2
1 + 2 tan 2 a となり、これは付表の加弓の勾配に等しい。)
◎ぬきの端面の胴付きの加工とほぞ挽きは、脚柱と全く同様にして、それぞれの面に対応した角度板
γとδを使用して出来るので、具体的な図は蛇足につき省略する。
補足
・曲線やテーパー導入などの部材整形は、仮組みを終えてから、胴付き面、脚柱の接地面と上部端面
を損なわないように行います。
・以上の式の数値計算は、Excelで計算プログラムシートを一度作っておくと、以後は簡便に行
えます。弊工房での参考例を添付しました(計算結果とプログラムシートのプリント)。
通常の四方転び(振れ隅でない)の計算にも、αとβに同じ角度を入力することで使えます。
・振れ隅構造でない場合との対応のために、規矩術の種々勾配の三角関数表示の一覧を参考に添付し
ました。
完
9
10
11
12
規矩術における種々勾配の定義と三角関数による表現
殳=a
勾=h
玄=l
中勾=h1
長玄=l1
短玄=l2
小中勾=h 2
加弓=h4
h2
l2
2011.11.1
中勾の勾配において
l
l1
h1
h
h1
h
h4
α
a
規矩術で用いられる種々勾配と
a
左の各勾配を三角関数で表現すると下式の左辺になり、
その定義(下式下線部に上図の各長さを さらに平勾配 tan a を用いて書き直すと右辺になる。
入れる。)
(各勾配の値を平勾配の値から右辺で算出し、これに
墨付けも上図に従って差し金でする。
殳の長さを掛けたものを勾として墨付けする。)
平勾配
h/a
tan a
ころび勾配
a/h
cot a =
h1 / a = h / l = l 2 / h
sin a =
l1 / a = a / l = h1 / h
cos a =
l 2 / a = (l 2 / h1 )(h1 / a)
sin a tan a = tan 2 a
1 + tan 2 a
h2 / a
sin 3 a = tan a
(
)
h4 / a
tan 2 a
返し勾配
中勾の勾配
長玄の勾配
短玄の勾配
小中勾の勾配
加弓の勾配
半勾配
倍勾配
裏の目勾配
1
tan a
tan a
1 + tan 2 a
1
1 + tan 2 a
1 + tan 2 a
3
1 + 2 tan 2 a
1
h/a
2
2h / 2 a = 2 h / a
2h / a
転び勾配、または返し勾配=余角の勾配=定義の分子と分母を逆転する。
延びかね法=上式で殳の代わりに玄を取ること=a を l に変えること。
例:平勾配( h/ a)の延び=h/l=sinα=中勾の勾配
つまり、規矩術で”平勾配の延びは中勾の勾配に等しい”と言われていること
13