Title ガイドラインの作成経緯と意義 Author(s) 並木, 幹夫

Title
ガイドラインの作成経緯と意義
Author(s)
並木, 幹夫
Citation
泌尿器外科 = Japanese journal of urological surgery, 19(11): 1279-1281
Issue Date
2006-11
Type
Journal Article
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URL
http://hdl.handle.net/2297/40229
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http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/
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≡ ガイドラインから
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泌尿器外科 2006年
19(11), 1279 一’ 1281
と意義
ガイド
鍵
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金沢大二大学院医学系研究科集学的治療学(泌尿器科学)*
要旨:少子高齢化社会の到来により,高齢者の健康増進や予防医学が国家の政策としても重要
性が増してきている。Late-onset hypogonadism(LOH)は加齢に伴う男性ホルモン低下が様々
な全身臓器の機能低下を起こしQOLを著しく損なうということであり,その対策が急がれて
いる。このため,日本泌尿器科学会と日本Aging Male研究会が合同で診療ガイドラインを作
成したので,その経緯と意義について概説した。
轡籍
セヒ
男性ホルモン,性腺機能低下,ガイドライン
、 ℃」
人口の高齢化に伴い,中高年男性の生活の質が
平均寿命の延長に伴う急激な高齢化社会の出現が
問われており,近年は学際的な視点から取り組み
あることは言うまでもない。すなわち,近未来の
がすすめられている。
少子高齢化社会では既存の社会保障制度が成立せ
partial androgen deficiency of the aging
ず,高齢者自らも労働者として自立することが求
male(PADAM)あるいはlate-onset hypogonadism
められる。また,要介護者の存在は,現役世代の
(LOH)は男性ホルモンの部分欠乏に因る諸症状
貴重な労働力も介護に割かれることになり,経済
からなる症候群であるが,発症時期が一定せず,
的にも大きな損失となるため,この意味において
疫学的実態が不明であったため,これまで本邦で
も高齢者の自立は必然である。
は加齢に伴う一般現象と理解され,医療行政から
そこで,高齢者の健康増進や予防医学が国家の
も顧みられることなく,診療の対象にならなかっ
政策としても重要性が増してきている。高齢者の
た。
健康増進は,高齢者の自立を促すのみならず,労
一方,欧米では1980年代より老年病学や生殖
働力としても期待できる。さらには,QOLの高
内分泌学の一領域として注目されており,1998
い生活を可能にする。
年には基礎的および臨床的研究,卒後教育,社会
このように,高齢者のQOLをいかに維持する
への啓発を目的とする国際学会the International
かが,21世紀の医療の大きなテーマとなってい
Society for the Study of the Aging Male
るが,女性に対するホルモン補充療法が国際的に
(ISSAM)が設立された。その社会的背景として,
広く普及しているのに対し,高齢男性に対する医
療はEDに対するphosphodiesterase type 5
Rationale of making clinical practice guideline for late-
onset hypogonadism
Mikio Namiki
Department of Cancer therapy and Urology, Kanazawa
University Graduate School of Medical Sciences
(PDE-5)阻害剤の普及以外,あまり医療の対象
となってこなかった。このような高齢男性への医
療対策の遅れが直接原因ではないものの,近年女
性と男性の平均寿命の差が大きく開き,本邦では
key words : androgen, hypogonadism, guideline
約7歳男性の寿命の方が短い。このような危機
感がWHOを後押しし,1998年のGeneve
*金沢市宝町13-1(076-265-2390)〒920-8640
1279
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泌尿器外科 2006年11月号
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(年)
(年)
図1 日本人の年齢別人口割合の推移(2005年国勢調査
速報より)
図2 65歳以上の高齢者の全人口に占める割合の世界比
較(2005年国勢調査速報より)
Manifestoが発せられるに至り,“Healthy aging
研究・調査を行い,広く男性の健康についての正
for men”がようやく国際的な大きな流れになっ
しい医療の開発・推進・発展に寄与する」ことを
てきた。そして“The aging male research on
目的とした学会に発展している。
gender specific issues in male health”を目的
以上述べてきたように,Aging Male研究の理
に1998年にISSAMが設立されたわけである。
ISSAMの国際会議は,その後2年毎に開催され
ており,2006年2月にザルツブルグで開催され
念は“Healthy aging for men”推進であるが,
た第5回国際会議には世界50ヵ国以上から1000
会が設立された当時,ある有名人の男性更年期障
名以上の参加者があり1)発展を続けている。
害体験談がマスコミで大きく取り上げられ,
アジア地区でも2001年にマレーシアで第1回
Aging Male診療(PADAM診療, LOH症候群
の学会が開催され,国際的にも早くからこの問題
診療)を始めたばかりの診療現場に男性更年期障
への取り組みが見られる。その理由は,現在ピラ
害を主訴とする患者が多く受診した。男性更年期
ンミッド型の人口分布を示すアジア諸国が将来の
障害はLOH症候群の一症状であるが,うつ病と
その意味での実際の診療は,これまでほとんど行
われていなかった。一方,日本Aging Male研究
少子高齢化社会に先進国より経済的,社会的に大
紛らわしく診療現場で混乱も生じた。国際的には
きな不安を持っているからと考えられる。一方,
2005年のISSAM, ISA(the International Society
本邦はすでに少子高齢化に突入しており,2005
of Andrology)およびEAU(the European
年の国勢調査では65歳以上の高齢者の割合が
Association of Urology)合同でLOH診療に対
21%で,先進諸国で第1位である(図1,2)。
するrecommendationが発表されて2)いたが,
本邦でのAging Maleに関する学術研究も,ア
テストステロン値ひとつとっても,測定している
ジア諸国とほぼ同時期に開始し,2001年ll月に
テストステロンの種類や基準値が海外と異なる3)
熊本悦明札幌医科大学名誉教授,名和田新九州大
など不都合が少なくなかったため,診療現場から
学教授を代表世話人に「日本Aging Male研究会」
は,本邦独自の男性更年期診療(PADAM診療,
が設立され,以後毎年学術研究会が開催されてき
LOH症候群診療)ガイドライン作成の要求が高
た。そして,2006年に研究会で「日本Men’s
まってきた。
Health医学会」と名称変更が行われ,「男性特有
そこで,日本泌尿器科学会内分泌・生殖機能・
の医学的諸問題の診断,治療,予防対策に対して,
性機能専門領域部会から学術委員会にガイドライ
基礎科学的,臨床医学的,さらには社会学的に,
ン作成の要請があり,理事会の審議を経て日本泌
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並木:ガイドラインの作成経緯と意義
尿器科学会と日本Aging Male研究会の合同チー
れる「LOH症候群診療の手引き」を参考にして
ムによるガイドライン作成のためのワーキンググ
いただいて診療を行っていただくことを希望す
ループが組織された。ガイドラインでは,まず定
る。それにより,今後診療結果の検証が可能にな
義としてその病態を医学的に的確に表現した言葉
り,さらにグレードアップした「手引き」さらに
として:LOH:(1ate-onset hypogonadism)症候
は文字通りの「ガイドライン」が近い将来作成さ
群を採用し,診断,治療,アンドロゲン補充療法
れることを願っている。
副作用の回避と監視,治療後の評価について標準
文 献
的推奨を行うべく,臨床論文の検索が行われたが,
LOH診療は始まったばかりであるため,推奨ラ
1) Lunenfeld B: Men’s health and aging: The 5th
ンクの低い論文がほとんどであった。このため,
World Congress on the Aging Male. Aging Male 9:
当初予定していたガイドラインという名称の変わ
1, 2006
2) Nieschlag E, Swerdloff R, Behre H H, et al:
りに「LOH症候群診療の手引き」という名称で
Investigation, treatment and monitoring of late-
公表予定である。
onset hypogonadism in males. Aging Male 8: 56-
LOH診療は始まったばかりであり,診療にあ
58, 2005
たっては注意深い配慮が必要である。また,今後
3)岩本晃明,柳瀬敏彦,高 栄哲,他:日本人成人
推奨ランクの高いエビデンスを創出していく必要
男子の総テストステロン,遊離テストステロンの
基準値の設定.日泌尿会誌95:75}760,20Q4
がある。そういった意味からも,近日中に公表さ
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