亜臨界水抽出による茶の味おび香りに関する化学的研究

SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
Title
Author(s)
亜臨界水抽出による茶の味おび香りに関する化学的研究
宮下, 知也
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2013-12
http://hdl.handle.net/10297/7984
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(課程博士・様式7)(Doctoral qualification by coursework,Form 7)
学 位 論 文 要 旨
Abstract of Doctoral Thesis
専
攻:バイオサイエンス専攻
Course:Bioscience
氏
名:宮下 知也
Name:Miyashita Tomoya
論文題目:亜臨界水抽出による茶の味および香りに関する化学的研究
Title of Thesis:Chemical Studies on Taste and Fragrance of Tea by Sub-critical Water
Extraction.
論文要旨:
本研究では、亜臨界水が持つ特殊な作用に着目し、緑茶の有効な抽出方法として検証を試みた。亜
臨界水は、常温常圧の水に比べてイオン積が 103 倍程度大きく、酸または塩基触媒として作用する。
また、水の比誘電率は温度の上昇とともに著しく低下し、亜臨界水と呼ばれる領域では常温常圧での
有機溶媒の性質に近くなる。従って、亜臨界水抽出には優れた成分抽出作用と強い加水分解作用があ
る。これまでの亜臨界水抽出の技術は廃棄物の処理や環境汚染物質の無害化などとして利用されてい
るが食品の抽出技術としてはあまり利用されていない。そこで、我々は静岡県の特産品である緑茶の
抽出に活用することを考え、バッチ式亜臨界水抽出装置を用いて緑茶の味および香りの改善に関する
研究を行った。緑茶には様々な有用成分が含まれており、その生理作用についてはこれまでに数多く
報告されている。例えば、発がん抑制作用、抗酸化作用、血圧上昇抑制作用、動脈硬化抑制作用、抗
肥満作用、生活習慣病予防などがある。本研究では従来の抽出方法(熱水抽出および加圧抽出)とこ
れらの有用成分について比較し、亜臨界水抽出の有効性を検討することにした。
実験は原料茶葉 18 g に 360 ml の蒸留水を加えて 1 分間撹拌し、亜臨界水抽出は圧力 3.0 MPa、
120~180 ℃で 1 分の条件で抽出を行った。熱水抽出は 90 ℃で 10 分、加圧抽出は圧力 0.2 MPa、
120 ℃で 10 分の条件で抽出した。
抽出後は水で速やかに常温まで冷却し、各緑茶抽出物を回収した。
その後、各緑茶抽出物は No.2 濾紙で吸引濾過させ、抽出液と茶殻に分離した。緑茶抽出物は分析に
使用するまで密封状態で-20 ℃で保存した。
その結果、亜臨界水抽出 130 ℃で得られた緑茶抽出物はカテキン含有量 150 mg /g と高濃度であ
りながら従来の抽出方法に比べ、苦渋味が低減していた。官能検査および味覚センサー分析での評価
により渋味の低減が確認された。これらの要因としては苦渋味が強い ECG の減少や水溶性ペクチン
やスクロース等の糖類による苦渋味のマスキング効果が考えられた。また、亜臨界水抽出 130 ℃で
得られる緑茶抽出物の香りも良好と評価された。
次に、亜臨界水抽出 130 ℃での有用成分について検証を行った。その結果、サポニン、ケルセチ
ン、水溶性食物繊維、クロロフィル含有量の増加を確認した。従来の抽出方法よりも亜臨界水抽出
130 ℃は有用成分の抽出に適していることが示唆された。
次に、亜臨界水抽出 180 ℃におけるアミノ酸の変化について検証を行った。その結果、テアニン
は新規化合物の(S)-3-アミノ-1-エチルグルタルイミド、グルタミン酸はピログルタミン酸に変化し
たことを明らかにした。(S)-3-アミノ-1-エチルグルタルイミドにはテアニン以上の呈味の相乗効果
と ACE 阻害活性があることも分かった。
続いて、緑茶の他によく飲まれる烏龍茶および紅茶の香りの変化について検証を行った。その結果、
亜臨界水抽出 130 ℃により総香気成分量の増加が確認された。烏龍茶は香気成分の種類や含有量が
増加し、高品質化したことが分かった。また、亜臨界水抽出 130 ℃の烏龍茶にリラックス効果があ
ることが脳波測定により示された。
以上のことから亜臨界水抽出 130 ℃では緑茶から高濃度でカテキンを抽出し、さらにカテキン特
有の渋味を抑制する効果があることが分かった。また、亜臨界水抽出 180 ℃では緑茶中のテアニン
を容易に新規機能性素材の(S)-3-アミノ-1-エチルグルタルイミドに変化することが分かった。従っ
て、亜臨界水抽出は食品の抽出技術として利用価値が高いことが示唆された。また、今後の展開とし
て本研究で得られた成果をもとに新規茶飲料の開発を行い、事業化を目指したいと考えている。