川上浩良

川上浩良
首都大学東京大学院都市環境科学研究科
分子応用化学域 教授
略歴
1991年
1991年
1993年
1997年
2005年
2006年
早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻博士課程修了
米国シラキュース大学 Research Associate
東京都立大学工学部工業化学科 助手
東京都立大学大学院工学研究科応用化学専攻 助教授
首都大学東京都市環境学部材料化学コース 准教授
(大学統合により改名)
首都大学東京大学院都市環境科学研究科
環境調和・材料化学専攻 教授
受賞歴
1991年
1996年
1999年
2005年
2006年
第4回水野賞
日本MRS(Materials Research
日本膜学会膜学研究奨励賞
ポルフィリン学会賞
日本人工臓器学会論文賞
2010年
Who's Who in the Worldに選出
Society
of
Japan)若手研究奨励賞
学会活動等
高分子学会(前関東支部理事、編集委員、燃料電池材料研究会委員長など多数)
日本化学会(前高分子ディビジョン、幹事など多数)
日本人工臓器学会(評議委員)
日本酸化ストレス学会(評議委員)
日本バイオマテリアル学会(評議委員)
日本膜学会(評議員、編集委員、組織委員など多数)
エピジェネティクス工学を用いた新しい予防・治療の可能性
川上浩良
首都大学東京大学院 都市環境科学研究科
エピジェネティクスとは、DNA の塩基配列によらずDNA メチル化やヒストン修飾など
の化学修飾により遺伝子の発現制御を行う機構である。近年、ストレスや環境要因によりエ
ピゲノム異常が惹起されることで、がんや生活習慣病などの疾患が発症することが明らかに
されてきた。現在、低分子薬剤(阻害剤)を用いて単一のエピゲノム制御を行う研究は報告さ
れているが、複雑に絡み合ったエピジェネティクス修飾を同時に制御する技術は確立されて
いない。複数のエピジェネティクス修飾を同時に制御することができれば、先に挙げたよう
な多くの疾患治療に繋がると考えられる。
我々は、エピジェネティクスを支配するクロマチン構造変化に関与するDNA メチル化とヒ
ストン修飾を工学的に制御することができる、エピジェネティクス工学を用いた新しい治療
の検討を進めている。
具体的には、エピジェネティクス的な修飾を自在に制御するため、エピジェネティクス修飾
酵素を発現するプラスミドDNA と、当該修飾の逆反応を行う酵素の阻害剤を同時封入でき
る生分解性ナノ粒子(エピジェネティクスコントロール(EpC)キャリア)を合成し、それによ
るクロマチンのエピジェネティクス修飾を検討している。例えば、慢性閉塞性肺疾患
(COPD)に代表される炎症性疾患は、炎症性遺伝子のヒストンにアセチル化が生じ、炎症性
遺伝子の発現が増大し炎症が増幅するという、塩基配列に依存しないエピジェネティクスの
関与が強く示唆されている。慢性的な酸化ストレスがヒストン脱アセチル化酵素2(HDAC2)
の後天的修飾を引き起こし、HDAC2 の発現及びその活性の低下が明らかとされている。
つまり、酸化ストレスによるHDAC2 の機能不全がCOPD における慢性炎症の原因である
と考えられるため、抗酸化機能EpC キャリアが合成できれば、COPD の治療に効果を示す
可能性がある。首都大学で行われている、エピジェネティクス工学を用いた新しい予防や治
療に関する研究や、抗酸化機能を有する人工酵素による酸化ストレス障害の低減、効果的な
薬物治療を実現する新しいドラッグデリバリーシステムについて紹介する。