水溶液中でもフェノールの 一段階合成が可能な 固体触媒の開発 愛媛大学 大学院理工学研究科・物質生命工学専攻 准教授 山口 修平 教授 八尋 秀典 1 研究背景 フェノール:フェノール樹脂などの原料として汎用性の高い化合物 フェノールの工業的合成方法:クメン法 (多段階プロセス) OOH 62万トン/年 OH + O HCl, AlCl3 O2, Na2CO3 65-100°C 90-130°C 5-10 atom 一段階合成プロセス OH H2SO4 + 60-90°C 溶媒:水(環境負荷低減) 触媒:固体触媒(分離・回収・再利用が容易) 酸化剤:過酸化水素(副生成物が水のみ) 環境に優しい合成プロセスの開発! 2 ベンゼンからフェノールの合成方法 スルホン化・フュージョン法 ONa SO3H H2SO4 3 NaOH Cl Rashig-Hooker法 HCl NaCl Na2SO4 1/2 Cl2 H2O OH OOH クメン法 HCl O2 acetone OAc AcOH, 1/2 O2 H 2O NO2 HNO3, H2SO4 NH3Cl H2, HCl N2O AcOH NaNO2 NaCl, H2O N2Cl H2O HCl 3 フェノールの工業的合成方法:クメン法 (多段階プロセス) OOH OH + O HCl, AlCl3 O2, Na2CO3 65-100°C 90-130°C 5-10 atom 転化率:? 選択率:約80% 転化率:15~30% 選択率:90~95% H2SO4 + 60-90°C 転化率:約100% 選択率:約90% [参考文献:「触媒便覧」,触媒学会/編,講談社,pp 716-718 (2008).] 一段階目の転化率を100%と仮定。精製の過程は省略。 Max: (1.0 × 0.80) × (0.30 × 0.95) × (1.0 × 0.90) × 100 = 20.5 % Min: (1.0 × 0.80) × (0.15 × 0.90) × (1.0 × 0.90) × 100 = 9.7 % フェノールトータル収率:10~20% 4 [Fe(bpy)3]2+@Yの の設計指針 ∼12 Å [Fe(bpy)3]2+ complex ∼7.4 Å (window) ∼13 Å (supercage) Y-type zeolite [Fe(bpy)3]2+@Y 2+ [Fe(bpy)3]2+ 錯体を に内包させた 錯体をNa-Yに 内包させた触媒 させた触媒([Fe(bpy) 触媒 3] @Y) は既に不均一系酸 化触媒として 化触媒として報告 として報告されている 報告されている. されている K. Mori et al., J. Phys. Chem. C, 112 (2008) 2593. 2+@Y の しかしながら, ] しかしながら,水溶媒中における 水溶媒中における選択酸化反応 における選択酸化反応に 選択酸化反応に対する[Fe(bpy) する 3 触媒活性についてはほとんど 触媒活性についてはほとんど情報 についてはほとんど情報がない 情報がない. がない 2+@Y を 本技術は ] 本技術は,環境に 環境に優しい酸化剤 しい酸化剤である 酸化剤である過酸化酸素 である過酸化酸素による 過酸化酸素による[Fe(bpy) による 3 用いた有機溶媒 いた有機溶媒あるいは 有機溶媒あるいは水溶媒中 あるいは水溶媒中におけるシクロヘキセンをはじめとする 水溶媒中におけるシクロヘキセンをはじめとする プロペニレン化合物 プロペニレン化合物の 化合物の選択的水酸化反応についての 選択的水酸化反応についての技術 についての技術である 技術である. である 5 シクロヘキセンの選択的酸化反応 [Fe(bpy)3]2+@Y as a Heterogeneous Catalyst [Fe(bpy)3](ClO4)2 as a Homogeneous Catalyst H2O2 in CH3CN H2O2 in CH3CN + 27.9 (58%) 14.9 (31%) + 34.7 (91%) 2.7 (7%) TON (Selectivity) in H2O H2O2 + 3.7 (25%) 7.7 (52%) in H2O H2O2 + 20.2 (> > 99%) 0.0 (∼ 0%) 水溶媒中でシクロヘキセンの水酸化反応を選択的に進行させることに成功! (特許出願:特願2011-112799,公開2012-240968 ) ベンゼンからフェノールへの一段階合成反応への応用が可能! 6 新技術の基となる研究成果・技術 ・ 鉄錯体をゼオライト空孔へ導入した固体触媒を 調製することで、ベンゼンの選択的水酸化反応が 可能となった。 ・ 反応溶媒として有機溶媒だけでなく、 水含有有機溶媒、水溶媒も利用可能となった。 ・ 鉄錯体内包ゼオライト触媒の鉄錯体や ゼオライト部分のカチオンを交換することで 水溶媒中でも反応活性が大きく向上した。 以下、詳細な実験結果について紹介する。 7 触媒調製 [Fe(bpy)3]2+@M-Y触媒の調製 触媒の調製 Na-Y : Si/Al=2.7 (Tosoh Co.) M = Na+, K+, Cs+, Mg2+, Ca2+, カチオン( カチオン(Mn+)交換 +, TMA+, TBA+ NH 4 (各カチオンの硝酸塩 カチオンの硝酸塩を 硝酸塩を使用) 使用) 鉄イオン交換 イオン交換 (FeSO4・7H2Oの の水溶液を 水溶液を使用) 使用 触媒のキャラクタリゼーション Fe-M-Y 2,2’-bipyridine (bpy) 還流 20 h ソックスレー抽出 ソックスレー抽出 (水とメタノール) とメタノール) 真空乾燥 [Fe(bpy)3]2+@M-Y XRD 元素分析(CHN, ICP-AES) 元素分析 UV-vis [Fe(bpy)3]2+@M-Y M = Na+, K+, Cs+, Mg2+, Ca2+, NH4+, TMA+, TBA+ 8 [Fe(bpy)3]2+@Y触媒のキャラクタリゼーション 触媒のキャラクタリゼーション 3× Fe2+ bipyridine (BPY) Fe-containing Y-type zeolite (Fe-Y) [Fe(bpy)3]2+@Y Y型 型ゼオライトの骨格構造 ゼオライトの骨格構造を 骨格構造を維持 (XRD, FT-IR) [Fe(bpy)3]2+ (Fe : bpy = 1 : 3)錯体 錯体を 錯体を形成 (UV-vis, FT-IR, ICP, CHN) ゼオライト空孔内 錯体が存在 (XRD, TG-DTA, and UV-vis) ゼオライト空孔内に 空孔内に[Fe(bpy)3]2+錯体が [Fe(bpy)3]2+ 錯体を 型ゼオライトのスーパーケージ内 錯体をY型 ゼオライトのスーパーケージ内に形成できた 形成できた. できた 9 触媒活性評価実験方法 過酸化水素を酸化剤としたシクロヘキセンの酸化反応 触媒: 触媒 [Fe(bpy)3]2+@M-Y M = Na+, K+, Cs+, Mg2+, Ca2+, NH4+, TMA+, TBA+ (7.9 µmol for Fe) Ar 基質: 基質 benzene (7.9 mmol) Temperature control system 酸化剤 : 30 % H2O2 (7.9 mmol) 溶媒: 溶媒 acetonitrile (10 ~ 0 mL) + water (0 ~ 10 mL) = Total 10 mL 反応条件 4 ~ 72 h, 50 oC, Under Ar, dark condition 生成物の分析法 GC-FIC or GC-MS (Shimadzu GCMS-QP5050A) o-Dichlorobenzene を標準物質として用いた. を標準物質として用いた Stirring bar Stirrer 活性は,TON (=(product [mol])/(Fe atoms in catalyst [mol]))で評価した で評価した. 活性は, で評価した 10 ベンゼン酸化における水の添加効果 : H2O2 = 1 : 1000 : 1000 CH3CN + H2O = 10 mL 50 oC under Ar 24 h) ( Fe : TON (=(product [mol])/(Fe atoms in catalyst [mol])) Na+ Na+ Na+ OH 80 OH Na+ TON Na+ 100 OH OH 60 OH 40 Na+ Na+ 20 Na+ 0 0 [Fe(bpy)3]2+@Na-Y 1 3 4 5 7 9 10 Amount of water added into solvent / mL 0 CH3CN Amount of water added/ mL Mixed solvents of CH3CN and H2O 10 H2O 混合溶媒とすることで反応活性が大幅に向上! (特許出願中:特願2014-30794 ) 11 水中ベンゼン酸化におけるカチオン交換の効果 ( Fe : : H2O2 = 1 : 1000 : 1000 H2O 10 mL 50 oC under Ar 24 h) TON (=(product [mol])/(Fe atoms in catalyst [mol])) 60 OH 50 X+ X+ 40 TON X+ X+ X+ OH OH X+ X+ OH 30 OH 20 X+ 10 [Fe(bpy)3]2+@X-Y 0 Na+ K+ Cs+ Mg2+ Ca2+ NH4+ TMA+ TBA+ [Fe(bpy)3]2+@X-Y カチオン部位を交換することで反応活性が大幅に向上! (特許出願中:特願2014-30794 ) 12 水中ベンゼン酸化における鉄錯体の配位子の効果 ( Fe : : H2O2 = 1 : 1000 : 1000 H2O 10 mL 50 oC under Ar 24 h) TON (=(product [mol])/(Fe atoms in catalyst [mol])) OH 80 X+ X+ X+ OH X+ OH 60 OH X+ TON X+ X+ X+ [Fe(bpy)3]2+@X-Y 40 OH 20 0 [Fe(phen)3]2+ [Fe(terpy)2]2+ 鉄錯体部分を交換することで反応活性・選択性が大幅に向上! (特許出願中:特願2014-30794 ) 13 従来技術とその問題点 フェノールの工業的合成方法:クメン法 (多段階プロセス) OOH OH + O HCl, AlCl3 O2, Na2CO3 65-100°C 90-130°C 5-10 atom H2SO4 + 60-90°C クメン法として既に実用化されているが、 多段階反応プロセスが必要 フェノールのトータル収率(20%以下)が低い 触媒の分離・回収・再利用ができない 等の問題がある。 14 技術開発動向 フェノールの工業的製造法としてはクメン法が古くから用いられているが、 多段階の合成プロセスが必要なため、一段階合成プロセスの研究がなさ れてきたが、実用化には至っていない。 〇フェノールの主な1段階合成法 とFe/ZSM-5触媒によるフェノール製造方法 触媒によるフェノール製造方法 ・笑気ガス(N ・笑気ガス 2O)と OH N2O Fe/ZSM-5 673-723 K Degree of conversion: benzene to phenol 97-98 mol% [Panov et al., Appl. Catal. A, 82, 31 (1992)] 高効率にフェノールを得られるが、笑気ガスを酸化剤とするため、工業化は困難。 ・酸素とゼオライト坦持Re触媒によるフェノール製造法 OH O2/NH3 CVD-Re/HZSM-5 553 K Benzene conversion 9.9% Phenol selectivity 94% [Iwasawa et al., Angew. Chem. Int. Ed., 45, 448 (2006)] 酸素を酸化剤として使えるが、高温でアンモニアを使うため装置の劣化が心配。 15 新技術の特徴・従来技術との比較 • 従来技術の問題点であった、フェノールの一 段階合成に成功した。 • 従来はクメン法によるフェノールのトータル収 率は10~20%であるが、本技術の適用により 一段階合成で約10%まで向上することが可能 となった。 • 本技術の適用により、水が溶媒として使用で きるため、有機廃棄物の処理コストが削減さ れることが期待される。 16 想定される用途 • 本技術の特徴を生かすためには、フェノール の直接製造に適用することで触媒 触媒の分離・回 触媒 収・再利用のメリットが大きいと考えられる。 • 上記以外に、水溶媒の使用により有機廃棄物 の低減の効果が得られることも期待される。 • また、達成された水酸化反応に着目すると、 医薬品やファインケミカルといった分野や用途 に展開することも可能と思われる。 17 市場性 【用途】 消毒剤、歯科用(局部麻酔剤)、ピクリン酸、サリチル酸、フェナ セチン、染料中間物の製造、合成樹脂(ベークライト)及び可塑 剤、2,4PA 原料、合成香料、ビスフェノールA、アニリン、2,6-キ シレノール(PPO 樹脂原料)、農薬、安定剤、界面活性剤 【生産量】 平成25年度 経済産業省生産動態統計より 単位:t 品 名 フェノール 生 産 740,760 受 入 146,536 消 費 145,536 販売 数 量 金額(百万円) 457,500 183,545 18 想定される業界 • 工業化学材料の製造メーカー など 天然資源である石油 天然資源である石油、 石油、石炭、 石炭、天然ガス、などか 天然ガス、などか ら他の化学製品の原料や溶媒となる化合物を 分離、合成する 。 • 医薬品メーカー など 新規化合物の開発、製造など 19 実用化に向けた課題 • 現在、鉄錯体内包ゼオライト触媒についてベ ンゼンの選択水酸化反応が可能なところまで 開発済み。しかし、錯体部分・ゼオライト部分 の最適化が未解決である。 • 今後、種々の有機化合物について実験データ を取得し、錯体部分・ゼオライト部分の最適化 及びより適した反応条件設定を行っていく。 • 実用化に向けて、目的生成物であるフェノー ルのトータル収率を30%以上まで向上できる よう技術を確立する必要もあり。 20 企業への期待 • 未解決の錯体部分・ゼオライト部分の最適化につ いては、開発者の有する知見・技術により克服で きると考えている。 • 固体触媒の様々なキャラクタリゼーションの技術 を持つ、企業との共同研究を希望。 • また、有機合成のための触媒を開発中の企業、 ファインケミカル分野への展開を考えている企業 には、本技術の導入が有効と思われる。 21 本技術に関 本技術に関する知的財産権 する知的財産権 • 発明の名称 :フェノールの製造方法 • 出願番号 :特願2014-030749 • 出願人 :愛媛大学 • 発明者 :山口修平、八尋秀典 22 お問い合わせ先 問い合わせ先 株式会社テクノネットワーク四国(四国TLO) ライセンスアソシエイト 矢野 慎一 TEL:087-811 - 5039 FAX:087-811 - 5040 e-mail:[email protected] 23
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