2例 - アミオダロン研究会

.
.
(
.
): ∼ 一般講演 1
3
静注アミオダロンと直流通電の併用によって
洞調律が維持できた持続性心房細動合併
肥大型心筋症の2例
脇坂 収1)
高橋 尚彦1)
山末 象三1)
近藤 秀和1)
岡田 憲広1)
吉松 博信2)
油布 邦夫1)
犀川 哲典1)
中川 幹子1)
原 政英1)
V1
¿
はじめに
肥大型心筋症
(HCM)の心房細動合併率は10∼20%
以上と高く,高度の肥大を生じた症例に多い1,2).心房
V2
À
細動により血行動態の破綻や心不全増悪を来した場合
は,直流通電による洞調律化が必要となる.しかし,
Á
V3
VR
V4
VL
V5
このような症例では除細動後に心房細動が再発するこ
とも多く,再発防止も重要である.
a
HCM患者では,発作性ないし持続性心房細動に対す
るアミオダロンの内服投与が保険適応となっている.
a
今回われわれは,心房細動を合併したHCM症例に対し
てアミオダロン静脈内投与と電気的除細動を併用し,
VF
a
V6
血中濃度の推移と心房細動の発生状況を検討したので
図1 入院時12誘導心電図(症例1)
報告する.
対象と方法
3,6,1
2,24,48時間後に測定した.
対象は,HCMに心房細動を合併して電気的除細動が
症例呈示
必要と判断された2症例である.これらの症例に対し,
経食道心エコーで血栓の有無を確認した後,アミオダ
1.症 例 1
ロン静注と直流除細動(DC)を行った.
4歳,男性.
症 例:7
アミオダロン静注時には通常の急速投与を行わず,
主 訴:労作時呼吸困難.
負荷投与
(50 mg/時×6時間)
を経て維持投与(25 mg/
0
0
8年10月より労作時呼吸困難を自覚する
現病歴:2
時)
に切り替え,投与開始から24時間後にDCを施行
ようになり,当科外来を受診した.胸部X線写真にて
した.アミオダロンの血中濃度は,投与開始から0,
胸水が認められたため,精査・加療を目的に当科入院
となった.
1)O. Wakisaka,N. Takahashi,S. Yamasue,H. Kondo,N.
Okada,K. Yufu,M. Nakagawa,M. Hara,T. Saikawa:大分
大学医学部循環器内科 2)H. Yoshimatsu:同総合内科学第一
講座
. mg/日,フロセミド
入院時内服薬:ワルファリン25
2
0 mg/日.
―
(
690)―
2誘導心電図では,頻脈性の心房
検査所見:入院時1
第14回アミオダロン研究会講演集
血中濃度(μç/mL)
1.5
直流除細動
1.375
V1
¿
1.131
1.141
1
1.058
0.5
0.628
アミオダロン
モノデスエチル体
0
0
6
12
18
24
30
投与時間(時間)
V2
À
36
42
48
図2 アミオダロン血中濃度の推移(症例1)
Á
V3
VR
V4
VL
V5
VF
V6
a
a
a
¿
V1
À
V2
図3 除細動直後の12誘導心電図(症例1)
除細動直後の心電図を図3に示す.本症例はその後,
Á
V3
VR
V4
a
アミオダロン200 mg/日の経口投与に移行し,退院と
なった.
2.症 例 2
9歳,男性.
症 例:6
主 訴:労作時呼吸困難.
VL
V5
VF
V6
a
0年前にHCMを指摘され,非持続性心室頻
現病歴:2
拍に対してアミオダロン1
0
0 mg/日を投与されていた.
a
その後,植え込み型除細動器
(ICD)移植術,および両
室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT―D)
図4 入院時12誘導心電図(症例2)
へのアップグレードが行われた.2
00
6年には頻脈性心
房粗細動が出現するようになり,DCを施行しても早
細動を認めた(図1)
.
期に再発を繰り返したため,房室接合部アブレーショ
血液検査では軽度の肝障害および腎障害を認めた.
ンを施行された.
また,BNPが5
1
57
. pg/mLと上昇していた.
200
8年10月頃から労作時呼吸困難を自覚するように
胸部X線写真では,心胸郭比
(CTR)
6
0%と心拡大を
なり,CRT―Dのデバイスクリニックにて半年前から心
認め,胸水の貯留も観察された.
房細動が持続していることが判明したため,本人の強
心エコー図では,左室駆出率(LVEF)
が6
89
. %と比
い希望もあり,除細動目的に入院となった.
較的保たれていたほか,左室壁運動の異常もみられな
0
0 mg/日,カルベジ
入院時内服薬:アミオダロン1
かったが,びまん性の左室肥大を認めたため,HCMと
ロール75
. mg/日,フロセミド2
0 mg/日,スピロノラク
診断した.
トン25 mg/日,ワルファリン15
. mg/日,アトルバスタ
経 過:心房細動に対してアミオダロンの静注を開
チン10 mg/日.
2誘導心電図は心房細動を呈した.
検査所見:入院時1
始したところ,アミオダロンの血中濃度は投与3時間
後に1μg/mLを超え,投与6時間で13
. 75 μg/mLと
房室接合部アブレーションを施行されているため,
ピークに達した.維持投与に移行していた開始後2
4時
VVIモードのペーシング調律であった
(図4)
.
間の時点では,10
.5
8 μg/mLであった
(図2)
.この時
血 液 検 査 で は 軽 度 の 腎 障 害 を 認 め,BNP が5
104
.
点でDCを施行し,出力1
0
0 Jにて除細動は成功した.
pg/mLと高値であった.また,TSHが143
. 9 μU/mLと
なお,代謝物であるモノデスエチル体の血中濃度は,
著明に上昇しており,アミオダロンの副作用による甲
測定感度以下で推移した.
状腺機能低下症と考えられた.
―
(
691)―
. 直流
除細動
血中濃度(μç/mL)
4
アミオダロン
モノデスエチル体
¿
V1
À
V2
Á
V3
VR
V4
VL
V5
VF
V6
2.906 2.786
3
2
1.509
1
2.590
2.301
2.005
0.688 0.603 0.588
0.549
0.507
0.654
0
a
0
6
12
18
24
30
36
42
48
投与時間(時間)
a
図5 アミオダロン血中濃度の推移(症例2)
a
胸部X線写真ではCTR 6
8%と心拡大を認めた.
図6 除細動直後の12誘導心電図(症例2)
心エコー図ではLVEFが561
. %であり,びまん性の
左室壁肥厚を認めた.さらに中等度の僧帽弁逆流も認
症例1は心房細動が一因と考えられる心不全を発症
められた.
0
0 mg/日内服を継
経 過:もともとアミオダロン1
しており,除細動を早期に施行する必要があった.一
続していたため,血中濃度は静注前からアミオダロン
方,症例2は電気的除細動直後の再発を経験しており,
が15
. 09 μg/mL,モノデスエチル体も06
.5
4 μg/mLと
洞調律を維持するためにアミオダロンを投与した.
上昇していた.静注開始後の推移は症例1とほぼ同様
2症例とも除細動に成功し,除細動後早期の洞調律
で,約15
. μg/mLの上昇を経てピークに達し,24時間
維持が可能であった.
後には開始時から1μg/mLほど上昇した状態であっ
おわりに
た(図5).この時点でDCを施行したところ,出力100
Jにて除細動が可能であった.
アミオダロン静脈内投与下での電気的除細動は,早
除細動直後の心電図を図6に示した.本症例は洞不
期に除細動が必要な心房細動患者において有効な手段
全症候群も合併しており,DDDモードのペーシング調
となる可能性が示唆された.
律となっている.その後は経口のアミオダロンを100
mg/日から2
00 mg/日に増量し,退院となった.
ま と め
HCMに心房細動を合併し,電気的除細動が必要と考
えられた2症例に対して,アミオダロン静注下にDC
文 献
1)Olivotto I, Cecchi F, Casey SA, et al:Impact of atrial
fibrillation on the clinical course of hypertrophic car24.
diomyopathy. Circulation 20
01;1
04:25
17―25
2)Robinson K, Frenneaux MP, Stockins B, et al:Atrial
fibrillation in hypertrophic cardiomyopathy:a longitu28
5.
dinal study. J Am Coll Cardiol 19
90;15:127
9―1
を施行した.
―
(
692)―
第14回アミオダロン研究会講演集
質疑応答
(富山大学医学部第二内科教授) 座長/井上 博
(東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授)
杉 薫
(大分大学医学部循環器内科) 演者/脇坂 収
井上(座長) ありがとうございました.それでは討
脇坂 最終的に4
8時間後の血中濃度は測定しました
議をお願いいたします.
が,それまでの経過は検討していません.
奥山(大阪府立急性期・総合医療センター)
導入量
水牧 かなり高く維持されるという話もよく聞きま
から維持量に切り替えた場合,静注開始2
4時間後には
すが,このように心房細動が持続していて再発しやす
血中濃度がかなり低下するケースも多いと思いますが,
い症例では,内服移行時の血中濃度低下が気になりま
先行して経口投与が行われていると,血中濃度は比較
す.QT時間は延長したままだったのでしょうか.
的高く維持されることがわかり,非常に興味深いご発
脇坂 今回は評価していませんので,後日確認いた
表でした.
します.ただ,症例2に関していえば,QTcはアミオ
血中濃度が最も高いのは導入直後だと思いますが,
ダロン投与24時間後がピークで,内服移行時には投与
DC施行のタイミングとして2
4時間後を選択されたの
前と同程度でした
(図7)
.
はなぜでしょうか.
水牧 ありがとうございました.
脇坂(演者) 血中濃度が上昇するタイミングととも
井上 ほかにいかがですか.
に心筋組織への移行も考慮し,ある程度の時間を置く
芦原
(滋賀医大)
大変興味深いご発表をありがとう
ことで効果がさらに上がることを期待しました.
ございました.アミオダロンの効果を血中濃度から評
奥山 導入直後のDCと24時間後のDCで比較を行っ
価するのは難しいことですから,心房筋への組織移行
た研究などは報告されているのでしょうか.
性から効果を判定するという意味で,心房細動のf波
脇坂 私が検索した限りでは見当たりません.ただ,
がfineかcoarseかという点も1つの目安になると思い
実際に血中濃度の推移を確認してみると,3時間後な
ます.症例1では,アミオダロンの静注前後でf波の
いし6時間後にDCを施行してもよかったように思え
変化はみられたのでしょうか.
ました.
脇坂 今回は検討していませんので,先生のご質問
奥山 わかりました.
にはお答えできませんが,その点も確認いたします.
水牧(富山大) 非常に興味深いご検討をありがとう
症例2に関していえば,アミオダロン投与2
4時間後に
ございました.症例2は以前からアミオダロンを内服
は,f波はfineからcoarseへ変化していました
(図7).
していたために血中濃度が維持されたのでしょうが,
井上 症例1は,頻脈性の心房細動で入院してきた
症例1ではどのように静注から内服へ移行されたので
後,除細動を施行されたのがアミオダロン静注開始の
しょうか.
2
4時間後ですね.それまではどのように心拍数をコン
脇坂 点滴を開始したのが午後3時頃で,DC施行
トロールされたのですか.
は24時間後の3時頃,2
0
0 mg/日の経口投与を開始し
脇坂 詳しくは覚えていませんが,入院後に通常の
たのは翌朝ですから,静注開始後4
0時間程度で経口投
心不全治療を行ったことで,心拍数は多少安定してき
与へと移行したことになります.多少は静注とオー
ました.コントロールが必要になるほど速い頻脈が持
バーラップしているかもしれません.
続したという印象はありません.
水牧 移行時の血中濃度は測定されましたか.
井上 そうですか.心電図では速めに見えましたが.
―
(
693)―
. アミオダロン
投与前
アミオダロン
投与24時間後
¿
アミオダロン
投与前
アミオダロン
投与24時間後
V1
À
V2
V3
Á
V4
VR
a
V5
VL
a
V6
VF
a
投与前
血中濃度(AMD/モノデスエチル体,μç/mL) 1.509/0.654
投与24時間後 投与48時間後
2.590/0.549
2.005/0.507
QTc
(ms)
475
487.5
475
心拍数(回/分)
60
60
60
図7 アミオダロン静注前後における12誘導心電図の推移(症例2)
脇坂 そうですね.入院時は速かったのです.
杉 症例2は以前にDCを施行したことがあったも
井上 アミオダロンの静注により,除細動を施行す
のの,心房細動が再発したということですね.一方で
る前に心拍数が低下したのでしょうか.
症例1は,持続性の心房細動が心不全の治療を妨げて
脇坂 具体的な数字は覚えていませんが,ある程度
いるのに対し,アミオダロンを静注してからDCを施
低下してきたことは確認しています.
行すると,成功する確率が非常に高く,心不全も改善
井上 そういったデータを発表していただければ,
できる.これがご発表のメッセージと考えてよいので
「入院後24時間のアミオダロン静注により,心拍数が
しょうか.DCは無効だったけれどもアミオダロンは
低下し,除細動が容易になる」というメッセージを発
有効だった,というメッセージではないのですね.
信できますね.この研究会の記録集を作成するときに
脇坂 HCMの患者さんでは再発の可能性が比較的
は,もしデータがあれば追加していただけますか.
高く,今回は心房細動の再発を防ぐことが最も重要な
脇坂 わかりました.
目的でした.また,経口投与への切り替えを前提に静
杉(座長) 井上先生のご質問に関連して確認したい
注を開始したこともポイントです.
のですが,アミオダロンの静注を開始してから2
4時間
杉 わかりました.ほかにありませんか.では脇坂
が経過するまではDCを施行していないのですね.
先生,どうもありがとうございました.
脇坂 施行していません.
―
(
694)―