マウスES細胞培養過程におけるメタボロミクス1)

マウスES細胞培養過程におけるメタボロミクス
1)
細胞培養では,細胞の成長を観察しながら,適切な頻度で培地を交換することを要求されるが,研究者の経験則や単に培地のpH変化を指標にすることも多い。そこで,ヒトの血液や
尿中の212成分の代謝物を一斉に測定できるガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)によるメタボローム解析手法2) を応用し,培地中の成分を網羅的に測定し,変動を観察した。
培養
マウスES細胞(ST1株)
培養液
分取
培養後拍動確認(心筋に分化)
パターン2
細胞分化付近まで増加し,
その後濃度変化が認められなかった成分一例
パターン3
肝組織構築付近まで増加し、
その後減少した成分
パターン4
細胞分化付近まで減少し,
その後濃度変化がなかった成分一例
パターン5
細胞分化付近で急激に増加した成分
パターン6
細胞培養中に濃度変化が認められなかった成分一例
50 μL 各n=3
← IS 0.1mg/mL 2-イソプロピル
リンゴ酸溶液 6 μL添加
肝組織構築
凍結乾燥
培地組成
Iscove s Modified Dulbecco s Medium(IMDM)
+15% Fetal Bovine Serum
+Non-Essential Amino Acids(終濃度:1 μM)
+Sodium Pyruvate(終濃度:10 μM)
+2-Mercaptoethanol(終濃度:7 nL/mL)
約16時間
← 20mg/mL メトキシアミンの
ピリジン溶液 40 μL添加
胚様体
PBS
細胞の成長と共に増加した成分一例
攪拌
Dishに播種し分化誘導
Mineral Oil
パターン1
← 水添加,10倍希釈
ハンギングドロップ法にて胚様体を形成
培地
解析結果
分析方法
各成分の特異的な定量イオンのピーク面積を,ISのピーク面積でノーマライズした。培地試料中から34成分
が検出された。濃度変化を6パターンに分類できた。なお,灰色のグラフは,再現性がなかった成分である。
メト オ キ シ ム 化
環鎖互変異性をもつグルコースなど糖類のアルデヒド基を
メトオキシム化し,環状の糖類を鎖状にすることで感度向上
30℃ 90分間 振とう
← MSTFA 20 μL添加
TMS誘導体化
水酸基,
カルボキシル基,
アミノ基などプロトン性の反応基を
トリメチルシリル化することで揮発性向上
マウスES細胞
培養5日目
(心筋に分化)
遠心分離
16,000rpm 10分間
上清採取
50 µL
GC-MS分析
回収した胚様体
37℃ 30分間 振とう
1 µL注入
培養18日目
(肝組織構築)
新鮮培地,培養開始3∼19日目まで2日毎に交換
した培地を採取し,測定まで凍結保存した。
分 析結 果
GC-MS分析で,沸点及び極性の差により,
アミノ酸,有機酸,糖,脂肪酸,糖アルコール,核酸,
リン酸エステル
類などのメトオキシム化及びTMS誘導体化物が分離・検出された。
Pyruvic acidMO-TMS↓
Alanine-2
TMS ↑
Phosphoric
acid-3TMS ↓
Glycerol-3
TMS ↑
IS
Glutamine-3T
MS ↓
Aspartic
acid-3TMS ↓
Serine-3
TMS ↓
Citric
acid-4TMS ↑
新鮮培地
培養7日目
培養19日目
Fig. 培地試料のGC-MS分析結果 TIC
パターン1∼5の成分については,細胞の成長過程と相関のある濃度変化が認められた。培養過程に伴う代謝産物,
培地成分及びそれら分解物の濃度変化を把握することは,最適な培地交換の定量的指標となり得ると考えられる。
1) 第13回日本再生医療学会総会 一般演題にて発表 発表者 ㈱島津テクノリサーチ 藤原 賢,松原 英理子,石部 恵子,辻野 一茂,南出 善幸,工藤 忍,東京工業大学 玉井 美保,田川 陽一
2)【引用文献】Nishiumi S, Shinohara M, Ikeda A, et al. Serum metabolomics as a novel diagnostic approach for pancreatic cancer. Metabolomics (2010) 6, 518-528