マイクロRNA(miR-200bおよびmiR

産婦人科教室抄読会
平成 26 年 10 月 6 日
NAME
網田 光善
TITLE
マイ ク ロ RNA( miR-200b およ び miR-429) はマウスの排卵に作用し 、
雌の妊孕性に不可欠である
Background
マイクロ RNA(miRNA)は、標的とする mRNA の3’側非翻訳領域に結合、あるいは、これを切断することなど
により遺伝子の発現を翻訳の段階において抑制すると言われている1)-3)。しかし、成熟した動物の個体におい
て、様々な miRNA がどのような生命現象にかかわっているのかはあまりわかっていない。
筆者らは、精子の形成過程における miRNA の機能を調べるため、miR-200b KO マウスを作製したところ、偶
然に点変異により、miR-200b と miR-429 を二重に欠損したマウス(miR-DKO)が作製された。
miR-DKO 雄マウスの精巣に異常は認められず、妊孕性の低下も認められなかったが、全く予想していなかっ
た結果として、雌の miR-DKO はほとんど妊娠しないことがわかった。
Summary
① miR-DKO 雌マウスの交尾あたりの妊娠率は約9%でヘテロ欠損マウスの85%に比し優位に低値であっ
た。また、miR-DKO 雌マウスでは自然排卵の障害があり、また、排卵誘発に反応し、排卵した。
② miR-DKO 雌マウスでは、血中の LH、P4 が低値で、下垂体での LH の発現も低値であった。
miR-DKO 雌マウスにおいて LH サージの誘発を試みるも LH サージは起こらなかった。
また、miR-200b および miR-429 は下垂体で強く発現していた。
③ 遺伝子データベースを検索した結果。miR-200b および miR-429 の標的遺伝子として Zeb1 遺伝子が考えら
れた。miR-DKO 雌マウスでは下垂体で ZEB1 タンパクが過剰発現しており、また、Zeb1 遺伝子のトランスジ
ェニックマウスでは、妊娠率の低下が認められた。
④ 以上から、2つのマイクロ RNA は下垂体における Zeb1 遺伝子を標的遺伝子としており、マイクロ RNA の欠
損により増加した ZEB1 タンパクが LH のサブユニットを形成する Lhb 遺伝子の発現を抑制することが示唆さ
れた。
これらの結果から、視床下部、下垂体、卵巣系で制御される排卵機構には、2つのマイクロ RNA、miR-200b
および miR-429 が不可欠であることが明らかとなった。
1) D. P. Bartel, MicroRNAs: Genomics, biogenesis, mechanism, and function. Cell 116, 281– 297(2004).
2) A. Grimson, et.al, MicroRNA targeting specificity in mammals: determinants beyond seed pairing. Mol. Cell 27,
91– 105 (2007).
3) S. Yekta, et.al, MicroRNA-directed cleavage of HOXB8 mRNA. Science 304, 594– 596 (2004).
4) H. Hasuwa, et.al miR-200b and miR-429 function in mouse ovulation and are essential for female fertility.
Science.341,71-3 (2013).
産婦人科抄読会 10/6/2014 網田 光善
Science. 2013 Jul 5;341(6141):71-3.
① miR-200bおよびmiR-429を欠損したマウス(miR-DKO)は排卵障害により不妊になる
(A)
交尾あたりの妊娠率は、miR-200b および miR-429をヘテロで欠損したマウスで85%であったのに対し、miR-DKOマウスでは9%であった。
miR-DKOマウスにmiR-200b およびmiR-429を発現するトランスジェニックマウスを交配させ、 miR-200b およびmiR-429トランス遺伝子を戻してやるとマウスの妊
娠率は回復した。
→miR-DKOマウスの不妊の原因は、 miR-200b およびmiR-429の欠損であると確認された。
(B,C,D)
交尾あたりの卵管内の排卵数をカウント。ヘテロ欠損マウスでは、5個体すべてで排卵を確認できたが、miR-DKOマウスでは20個体中2個体のみ排卵。
卵巣を確認すると、ヘテロ欠損マウスでは黄体(CL)を確認できたが、miR-DKOマウスでは確認できなかった。
(B,E,F)
miR-DKOマウスに過排卵処理をすると、ヘテロ欠損マウスと同様に排卵した。卵巣切片では黄体化が見られた。
さらに過排卵処理をしたmiR-DKOマウスから得られた卵をIVFしたところ、正常な受精能を有し、発生異常も見られなかった。
→miR-DKOマウスの卵巣は正常な卵子を排卵する能力があることがわかった。
miR-DKOマウスでは卵巣機能は正常であるが、内分泌系の異常により排卵障害を引き起こしている可能性が示唆された。
② miR-DKOマウスは排卵の引き金となるLHサージが起こらない
(AーD)
WTとmiR-DKOマウスの血中ホルモンレベルを測定した。
FSHとE2のレベルに有意差は認められなかったが、LHおよびP4のレベルはmiR-DKOマウスで優位に低下していた。
(EーH)
下垂体の組織検査では、形態に異常は認められなかったが、免疫染色ではmiR-DKOマウスでLHの発現が減少していることが確認された。
(I)
下垂体機能を調べるため卵巣を切除した後にE2を投与するという方法を用いて、LHサージの誘発を試みた。
miR-DKOマウスでは、基礎値、および誘発後ともにLHレベルはコントロールマウスに比べ低値であった。
(J)
視床下部、下垂体、卵巣のmiR-200b およびmiR-429の発現を調べたところ、どちらも下垂体において非常に強く発現していることがわかった。
→ miR-DKOマウスでは下垂体異常があり、LHサージの不全による不妊を引き起こしていることが示唆された。
miRNAはそれ自体が直接に生命現象を担っているわけではなく、標的となるmRNAの3’側の非翻訳領域に干渉し、タンパク質への翻訳を抑制することにより生
命現象に関わっている。
→ miR-200b およびmiR-429の標的となり得る遺伝子をデータベースを用いて検索。
→標的配列を持ち、下垂体において発現しているZeb1遺伝子が標的として考えられた。
転写制御因子ZEB1は、発現制御領域にあるCACCT配列に結合することによりその遺伝子の発現を抑制する。
LHのβサブユニットをコードするLhb遺伝子の上流には複数のCACCT配列があることがわかった。
→ゲルシフトアッセイの結果、少なくとも3箇所、 ZEB1の結合する領域が確認された。
③ ZEB1はLhb遺伝子の発現を抑制し排卵障害を引き起こす
(A, S14)
WTとmiR-DKOマウスの下垂体においてZeb1mRNAの発現に差は認められなかったが、 miR-DKO
マウスではタンパクの発現が増加していることが確認された。
(B,C)
Zeb1遺伝子を下垂体において特異的に発現するトランスジェニックマウスを作製。
(D)
Zeb1トランスジェニックマウスでは1つの系で妊娠率8%、もうひとつの系では全く妊娠しなかった。
(E,S18)
Zeb1トランスジェニックマウスでは、 miR-DKOマウスと同様に、WTと比べLhbmRNAの発現が有意
に低下しており、また無排卵であった。
④ まとめ
miR-200b および miR-429の欠
損は下垂体においてZEB1の発
現増加をもたらし、結果、 Lhb
遺伝子の発現を減少させる。
LHの分泌不全、排卵障害
を引き起こす。