第6章 安定性 講義資料

6章�安定性�
例:2次要素のフィードバック制御
比例制御を考える
目標値と現在位置との誤差を定数倍した値を制御
対象の入力とする
目標値
誤差
制御量
s
+
1
K�
x
(s + 2)(s + 8)
xd=1�
+
r�
e=x
−x
�
d
r
−
閉ループ伝達関数は
2次要素のフィードバック制御�
閉ループ伝達関数の極(分母が0となるs)
Kが正である範囲で考えると
:負の2実数根�
:負の実数の重根�
:負の実数部をもつ2複素根�
:2虚数根�
:正の実数部をもつ2複素根�
:正の実数の重根�
:正の2実数根�
値が発散してしまう�
制御系の設計の際には
まず発散しないように
設計をする必要�
6.1�安定条件�
前向き要素G(s) 、フィードバック要素H(s)
からなるフィードバック制御系
基準入力
R(s) +
−
偏差
e(s)
G(s)
H(s)
検出部
出力応答
C(s)
BIBO
(Bounded Input-Bounded Output)�
閉ループ系に任意の有界な入力をしたとき
に、有界な出力を生じるとき
有界入力─有界出力安定
あるいは 安定
という。この必要十分条件はインパルス応答
go(t)について
であること。つまり、インパルス応答の絶対値
の積分が有界�
安定判別�
•  システムが安定か不安定かを見分けるこ
とを安定判別という。�
•  インパルス応答の積分を求めることは一般
に困難なので、より簡便な方法が必要
•  一般にn次の線形システムの伝達関数は、�
sの多項式の比で表される。�
•  ここで部分分数展開するには分母の多項
式の根(極)を求める。�
•  ここで、仮にすべての根が異なるとすると、�
Biを極siの留数という。�
これを逆ラプラス変換すると�
•  siが負の実数である場合
es
i
t は時間経過と共に減少
0 に漸近する
•  siが正の実数である場合
esi t は時間経過と共に増大 e s t
i
ついには無限大になる
si > 0
si = 0
1
si < 0
t
2次要素の極が負の実数の場合�
インパルス応答は
以降、留数Biが1である例を考える�
極が負の実数の場合の
インパルス応答�
減衰の遅い項に
収束する早さは依存�
2次要素の極が正の実数の場合�
インパルス応答は
極が正の実数の場合の
インパルス応答�
2次要素の極が正負の実数の場合�
�
インパルス応答は
極が正負である場合の
インパルス応答�
発散する�
ただし�
αが0である場合�
インパルス応答�
インパルス応答は
�
持続振動�
αが負である場合�
インパルス応答�
インパルス応答は
�
振動しながら振幅は減少�
αが正である場合�
インパルス応答�
インパルス応答は
�
振動しながら振幅は増大
発散する�
αが負である項が複数の場合�
�
インパルス応答は
αが負である項が複数の場合の
インパルス応答�
減衰の遅い項に
収束する早さは依存�
αが正と負である項を含む場合�
�
インパルス応答は
αが正と負である項を含む場合の
インパルス応答�
発散する�
極がすべて負の実数もしくは実数部
が負である複素根である場合�
�
インパルス応答は
安定な場合のインパルス応答�
極に正の実数を含む場合�
�
インパルス応答は
不安定な場合のインパルス応答�
極がすべて負の実数、もしくは負の実数部を
含む複素数である場合は安定
極に1つでも正の実数、もしくは正の実数部を
もつ複素数がある場合には、応答は発散
すなわち極がわかれば、システムが安定か��
不安定かを判定できる�
例題�6.1�
閉ループ伝達関数が
で与えられるフィードバック系のインパルス応
答を求めて安定性を論ぜよ
例題�6.1�
根の実数部が負なので安定�
例題�6.1�
インパルス応答�
ステップ応答�
6.1.2�特性方程式�
閉ループ伝達関数Go(s)の安定の必要十分条件は
すべての極siが以下の条件を満たしていること
1.  実数のとき������si < 0
2.  複素数の場合�Re[si] < 0
•  極siがs平面の左半平面にあることが安定の必要十分条件
と言い換えられる。
•  極siが虚軸上にあるときは安定限界→�持続振動�
•  高次のシステムの場合、虚軸から離れている極は���
減衰が早いので過渡応答特性にあまり影響を与えず、
虚軸、原点に近い極が重要。�
極の位置による安定判別�
すべての極が複素平面上の左半面にあれば
安定�
Im
高周波数
安定領域
不安定領域
Re
0
安定限界
(持続振動)
減衰
発散
特性方程式�
•  特性方程式:
閉ループ伝達関数の分母の多項式
•  特性根:特性方程式の根
–  特性根でシステムの安定性はわかるが、一般
に特性方程式が多項式の場合、特性根を求め
ることは困難
•  多項式の根が求められるのは2次方程式まで�
過渡応答の詳細は問わず、システムが安定か
(特性根の必要十分条件を満たしているか)��
だけを判定する簡便な安定判別法が必要�
6.2 ラウス・フルビッツの安定判別法�
6.2.1 ラウス(Routh) の安定判別法�
特性方程式が次のように与えられる場合
1.  係数a0, a1, …, anがすべて同じ符号である
(一般にはすべて正)
2.  特性方程式の正の実部をもつ根の数は、
ラウス配列の最初の列a0, a1, b1, c1, d1,…
の正負の符号変化の回数に等しい。つまり、
システムが安定であるためには、この数列
の符号がすべて等しい
ラウス配列�
ラウス配列�
一般的に書くと�
例題�6.1�
閉ループ伝達関数が
で与えられるフィードバック系の安定性を
判別せよ
特性方程式は
すべての係数は正。
例題 6.1�
ラウス配列を求める
�
安定である�
例題 6.2�
フィードバック系のシステムの安定判別を行え�
例題 6.2�
特性方程式を求める
より特性方程式は
ラウス配列は
例題 6.2�
ラウス配列の最初の列は
2、 1、 −7、 6.43、 10
符号変化は2回なので実部が
正の特性根を2個もつ。
つまり�不安定�
例題 6.2�
インパルス応答�
ステップ応答�
6.2.2 フルビッツ(Hurwitz) の
安定判別法�
特性方程式が次のように与えられる場合
1.  係数a0、 a1、 …、 anがすべて同じ符号で
ある(一般にはすべて正)�
2.  次の行列式Di(i=1〜n−1)がすべて正であ
ること�
フルビッツの安定判別法�
ラウス・フルビッツの安定判別法�
本質的にはラウスの安定判別法と、フルビッツ
の安定判別法は同じであることが分かっている。
すなわちラウス配列の1列目だけ見ると�
となるため、両方の符号が一致するのは明らか�
例題6.2をフルビッツの
安定判別法で�
特性方程式は�
例題�
次のフィードバックループが安定である
ゲイン係数Kの値の範囲を求めよ。�
例題�
閉ループ伝達関数�
特性方程式は�
ラウスの判別法
1.  係数がすべて正 ⇒�K>0
2.  ラウス配列
30−K>0かつK>0より安定である条件は0<K<30�
フルビッツの安定判別法�
特性方程式�
�
これをすべて正にするには0<K<30�
例題(K=10)�
インパルス応答�
ステップ応答�
例題(K=30)�
インパルス応答�
ステップ応答�
例題(K=50)�
ラウス・フルビッツの安定判別法
•  特性方程式の係数が必要
•  一般のシステムは必ずしも特性方程式の正
確な式は得られない
•  特性方程式が多項式に限られる
6.3 ナイキストの安定判別法�
開ループ伝達関数G(s)H(s)のナイキスト線図
を用い、閉ループ系の安定性を周波数領域で
図的に判別する方法
ナイキスト線図は実験的にも得られる
•  システムに角周波数ωの正弦波を入力して、ゲイン、
位相を求める。
•  ωを0から∞まで変化させ、複素平面にプロットする
–  特性方程式が必ずしも必要ない
–  特性方程式が多項式でなくても良い
6.3.1 G(s)H(s) の極がs 平面の
右半平面にない場合�
1.  簡易ナイキストの安定判別法
開ループ伝達関数が不安定でない場合、つまり
G(s)H(s)の極がすべて複素平面の左半平面にあ
る場合
開ループ伝達関数のナイキスト線図において
ωが0〜∞まで増加する向きにたどるときに、
(−1, j0)点を左側にみれば安定、右側にみれ
ば不安定
Im
Im
Im
安定限界
0
+
=
−1
−1
+
0
0
Re
不安定
0
Re
Im
Im
−1
+
−1
0
Re
0
0
安定
+
−1
Re
0
+
Re
位相交差周波数ωπ
ナイキスト線図が
負の実軸と交わる
角周波数�
ω増加
0
0
ω=0 または ω→0、ω=ωπ、ω→∞に注目してナイキスト線図を描く�
簡易ナイキストの安定判別法�
そのためにはω=0 または ω→0、ω=ωπ、
ω→∞に注目してナイキスト線図を描くとよい。
ただしωπはナイキスト線図が負の実軸と交わ
る角周波数(位相交差周波数)。�
例題�
•  開ループ伝達関数が次式の場合
•  ナイキスト線図を描くために、周波数伝達
関数を計算する�
例題�
•  ω→0、ω→+∞を考えると�
例題�
Im[G(jω)H(jω)] =0となるωπを求めると
と書けるので
このときのゲインρ (=Re[G(jωπ)]) は
a, b, c > 0であるから|ρ|<1を満たすようなa, b, c
ならば安定である
例題�
例えば
1)  a = 0.5、 b = 2、 c = 4、 K = 40、 ρ = −0.593
2)  a = 1、 b = 2、 c = 3、 K = 60、 ρ = −1
3)  a = 4、 b = 5、 c = 6、 K = 1200、 ρ = −1.212
のナイキスト線図を描いてみると、次のよう
になり、(1)は安定、(2)は安定限界、(3)は不
安定であることがわかる。�
ナイキスト線図�
1)  a = 0.5、 b = 2、 c = 4、 K = 40
2) 
3) 
a = 1、 b = 2、 c = 3、 K = 60
a = 4、 b = 5、 c = 6、 K = 1200
演習問題6 2番�
•  極は0, −1, −0.5 �
s=0の極が1つだけの場合は簡易型の安定判別
法が使える
•  周波数伝達関数�
演習問題6 2番�
1)  ω→0のとき
3
lim Re[G(j )] = lim
= 3
4
2
0
0 4
+5 +1
2 2 1
lim Im[G(j )] = lim
=
4
2
0
0 (4
+ 5 + 1)
演習問題6 2番�
2)  ω→∞のとき�
3
lim Re[G(j )] = lim
4 4+5 2+1
3
= 1lim
0
4
4+
5
2
+
1
4
=0
lim Im[G(j )] = lim
(4
2
2
1
4
+5
2
2
= 1lim
0
=0
1
3
4+
5
5
2
+
1
4
+ 1)
演習問題6 2番�
3)  ωπ (位相角周波数)����
Im[G(jωπ)] = 0となる時の角周波数
(演習ではω0 )
Im[G(j
1
=
2
Re[G(j
)] =
2
2
(4
4
1
+5
3
)] =
4 14 + 5
3
2
= 9 =
3
2
1
2
2
+ 1)
+1
より
演習問題6 2番 ナイキスト線図�
(−1, 0j)�
(−1, 0j)を
左に見るので
安定�
例題 6.3 (K=10)�
インパルス応答�
ステップ応答�
ナイキスト線図�
左に見ている
ので安定�
例題 6.3 (K=30)�
インパルス応答�
ステップ応答�
安定限界�
例題 6.3 (K=50)�
右に見ている
ので不安定�
ラウスの安定判別法と比較�
•  閉ループ伝達関数を求めると�
ラウスの安定判別�
特性方程式 2s3+3s2+s+1=0
1)  係数はすべて正
2)  ラウス配列は�
⇒�安定である�
例題 6.4�
開ループ伝達関数が
10
G(s)H(s) =
s(s + 1)(s + 5)
で与えられるフィードバック制御系がある.ナイキスト線
図の概形を描き,制御系の安定性について調べよ.�
① 
ナイキスト線図(ベクトル軌跡)を描く
a) 
周波数伝達関数を計算する
b) 
ω→0,ω→∞ におけるゲインと位相を求める
ω=ωπ と,そのときのゲイン ρ を求める
c) 
② 
ω→0,ωπ→∞と増加させたとき,(-1, j0) 点を左側に見
れば安定,右側に見れば不安定
例題 6.4:解答例�
① ナイキスト線図(ベクトル軌跡)を描く
a)  周波数伝達関数を計算する�
10
10
G(j )H(j ) =
=
j (j + 1)(j + 5)
6 2 + j (5
2
60
10(5
)/
=
j
2
2
2
2 )2
36 + (5
)
36 2 + (5
|G(j )H(j )| =
G(j )H(j ) =
2)
10
36
90
2
2 )2
+ (5
tan
6
1
5
a
2
b
θ
−90 − tan −1
90 − θ
tan(90 − θ ) =
a
b
a
b
b)  ω→0,ω→∞におけるゲインと位相を求める
lim |G(j )H(j )| =
0
lim
0
G(j )H(j ) =
90
60
lim Re [G(j )H(j )] =
0
36 2 + (5
2 )2
0
60
=
=
25
lim |G(j )H(j )| = 0
lim
G(j )H(j ) =
270
c)  ω=ωπ と,そのときのゲイン ρ を求める�
10(5
Im [G(j )H(j )] =
36 2 + (5
= |G(j
)H(j
)| =
2
)/
2 )2
= 0 より
10
36
2
+ (5
=
1
=
2 )2
3
5
2.4
例題6.4 ナイキスト線図�
(-1, j0)�
-2.4�
+
これでは分かりにくい�
⇒周波数範囲を適切に選ぶことが大事�
0
② 
ω→0,ωπ→∞と増加させたとき,(-1, j0) 点を
左側に見ているので安定
例題6.4 ナイキスト線図�
-2.4�
(-1, j0)�
(-1, j0)�
= 5
= 5
0.33�
0.33�
これでは分かりにくい
周波数範囲を適切に選ぶことが大事
0
+
6.3.2 G(s)H(s) の極がs 平面の
右半平面にある場合�
2.  拡張ナイキストの安定判別法
–  不安定な開ループ伝達関数G(s)H(s)の極の
総数をPとする。�
–  ωが−∞から+∞まで変化するときG(s)H(s)のナ
イキスト線図が(−1, j0)点を反時計方向にN回
まわるならば、この制御系が安定である条件
はN=Pである
例題 6.6�
システムの安定性について検討せよ�
例題 6.6�
システムの安定性について検討せよ�
例題 6.6�
�
開ループ伝達関数は
これは1次遅れ要素であるから、ナイキスト線
図は円になる。�
また、この開ループ伝達関数の極は
1つである(P=1)�
例題 6.6�
�
�
ナイキスト線図を描くために、周波数伝達関
数を計算する
したがって�
例題 6.6�
第2象限�
第3象限�
ただし、180−= 180−ε、 180+=180+ε
例題 6.6�
•  ということはωが−∞〜+∞に増加するとき、
原点から虚軸の正の方向に動き始め、ω=0
で(−K, j0)を通り、再び、虚軸の負の方向
から原点に向かう円となる。�
•  ナイキストの安定判別では(−1,j0)との関係
が重要であるから、K>1とK<1に分けて考
える。�
例題 6.6�
1.  K>1の場合
–  ナイキスト線図は(−1, j0)の点の外側を通るの
でこの点を半時計方向に1周することになる。
したがってN=1。つまりP=Nなので、安定�
K=2�
例題 6.6�
1.  K<1の場合
ナイキスト線図は(−1, j0)の点の右側で一周する
のでN=0。つまりP≦Nなので、不安定。
K=0.5�
したがってK>1が安定条件である。
例題 6.6�
閉ループ伝達関数を求めると、
�
であるので極はs=1−K
したがってK−1>0, K>1が安定条件�
6.4 安定度�
•  そのシステムが十分に安定かどうかは、ナイ
キスト線図で、どれぐらい(−1, j0) から離れて
いるかが問題。⇒安定度
–  ゲイン余裕:ナイキスト線図で負の実軸と交わる
ときの開ループゲインρが1より小さければ安定
1
GM = 20 log = 20 log
–  位相余裕:ナイキスト線図がゲイン1である単位
円と交わる点が180[deg]から離れていれば安定。
交わるときの角周波数をゲイン交差周波数ωc�
PM = + G(j c )H(j c )
Im�
ゲイン余裕
位相交点
=
GM = 20 log
ρ�
+
−1
1
=
20 log
Re�
0
ゲイン交点
= c
0
位相余裕
PM =
+ G(j
c )H(j c )
ゲイン余裕
gdB [dB]�
GM = 20 log
1
=
20 log
ωc�
0
ゲイン交点
ω�
GM�
ωπ�
0
φ [deg]�
ω�
−180
PM�
位相余裕

位相交点
PM =
+ G(j
c )H(j c )
6.3節の例�
1.  a = 0.5、 b = 2、 c = 4、 K = 40の場合
このときρ = −0.593であるのでゲイン余裕は
例題 6.7�
開ループ伝達関数が
であるフィードバック系のナイキスト線図を求
め、ゲイン余裕や位相余裕を求めよ。�
周波数伝達関数は�
例題 6.7�
ω→0、ω→+∞を考えて、ナイキスト線図を描く�
15.1
lim |G(j )H(j )| =
= 2.52
0
6
0
1
lim G(j )H(j ) = tan
=0
0
6
lim |G(j )H(j )| = lim
lim
15.1
(j )
3
G(j )H(j ) = lim tan
1
= lim tan
1
=0
2
6
(
)=
11
6
2
270
⇒第2象限�
例題 6.7�
ωπを求めると、虚部が0の場合だから�
代入すると�
G(j
)H(j
)=
15.1
, j0
60
ナイキスト線図�
ゲイン余裕
(−1, j0)� (−0.252, j0)�
ω→∞�
位相余裕�
ω→0�
例題6.7 ボード線図�
GM = 12dB�
ωc=1.5�
=
PM = 60[deg]�
11
例題 6.7�
ゲイン余裕は
例題 6.7�
位相余裕:位相φ(ω)を求める
�
�
|G(jω)H(jω)=1|となるゲイン交差周波数は����
ωc =1.5[rad/sec]であるので
したがって位相余裕PMは