嫌気性ストラメノパイル生物 Cantina marsupialis が有する

嫌気性ストラメノパイル生物 Cantina marsupialis が有する
ミトコンドリア関連オルガネラの代謝能推定
○野口文哉(東京海洋大学), 島村繁(海洋研究開発機構), 中山卓郎・矢崎裕規・橋本哲男・
稲垣祐司(筑波大学), 藤倉克則・瀧下清貴(海洋研究開発機構)
ミトコンドリアは現存する全ての真核生物が有している, 真核生物進化の初期に成立した共生オルガ
ネラである。ミトコンドリアは酸素の存在下では, 酸化的リン酸化反応によって効率的なATP合成を行
うエネルギー生産の場として重要な役割を担っている。一方, 嫌気環境(あるいは貧酸素環境)に生
息する真核微生物は, 酸化的リン酸化反応によるATP合成能を消失させたり, 新たな代謝経路を獲得
するなどして, 機能的にも構造的にも好気性ミトコンドリアとは異なる退行的な進化を遂げたオルガ
ネラを有することが知られている。このような進化的起源がミトコンドリアと同じオルガネラは, 一
般にミトコンドリア関連オルガネラ(Mitochondrion-related organelles, MRO)と呼ばれている。こ
こ10年程の間に, 様々な系統群に属する嫌気性真核微生物が有するMROの代謝能に関する研究が行わ
れた結果, MROの極めて大きな機能的多様性が明らかにされてきた。本研究ではIllumina HiSeq 2000
を用いたRNA-seq解析により, 嫌気性自由生活型のストラメノパイル生物Cantina marsupialisが有す
るMROの代謝機能を推定した。その結果, MROの一種であるハイドロジェノソームでピルビン酸代謝に
関与することが知られているピルビン酸: フェレドキシン酸化還元酵素, 鉄ヒドロゲナーゼ,酢酸:コ
ハク酸CoA転移酵素がC. marsupialisのMRO内で機能していることが示唆された。さらに, アセチルCoA
合成酵素もそのMRO内に存在することが示唆された。その一方で, アミノ酸代謝, 鉄硫黄クラスター生
合成, (部分的)TCA回路等, 好気性ミトコンドリアに普遍的に存在する酵素群がMRO内で機能してい
ることも示唆された。また, 電子伝達系では複合体I, III, IV, F1F0-ATP合成酵素をコードする転写
産物は検出されなかったが, 複合体IIを構成するサブユニットをコードする転写産物は検出された。
HPLC解析によりキノン分析を行ったところ, C. marsupialisからユビキノンが検出された。これまで
に多くの嫌気性(あるいは嫌気耐性)真核生物において, 電子伝達物質として低酸化還元電位を有す
るロドキノンが検出されており, 複合体IIはフマル酸還元酵素として働くことが報告されている。し
かし, 今回検出されたユビキノンが有する高い酸化還元電位を考慮すると, C. marsupialisのMROでは
複合体IIはコハク酸デヒドロゲナーゼとして機能していると考えられている。