虚血性心疾患に対する 低用量アスピリンの ガイドライン

はじめに
急性冠症候群
平 山 篤 志
て述べることとする。
虚血性心疾患に対する
低用量アスピリンの
ガイドライン
虚血性心疾患の予後を規定する急性冠症候群
は、冠動脈内のプラークの破綻あるいは、びら
ST上昇型急性心筋梗塞あるいは非ST上昇
んに引き続いて生じる血小板血栓が原因である
型急性冠症候群の急性期には、アスピリンの単
小板薬が用いられる。これまでの多くの試験か
臨床試験で明らかにされており、早期に投与す
独投与でも死亡率や再梗塞率が減少することが
ので、その発症の予防による予後改善には抗血
ら低用量アスピリンすなわち1日量 ∼160
㎎ が有用とされ、より血栓が関与する急性心筋
るほど死亡率が低下する。しかし、アスピリン
緊急投与時には、吸収促進のため咀嚼投与が推
る患者への投与等は避けるべきである。初回の
ルギーである喘息や活動性の出血性疾患を有す
には禁忌が6項目あり、例えばアスピリンアレ
75
梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群などの
病態での有用性が高い︵図①︶
。
6)
(283)
CLINICIAN Ê15 NO. 637
15
1)
稿では、虚血性心疾患に関連するガイドラ
本
∼
インに記載されているアスピリンの推奨につい
2)
①抗血小板薬によるイベント予防効果
8
㝞ᪧᛶᚰ➽᱾ሰ
⤯ᑐࣜࢫࢡ协㸣࣭ᖺ卐
奨されている︵クラスⅠ︶
。初期投与量162
∼330㎎ /日、維持量 ∼162㎎ /日が推
奨されている。
はアスピリン ∼162㎎ を無期限に投与する
留置されるが、ステント留置を行わない患者に
わが国では多くの場合、経皮的冠動脈インタ
ーベンション︵PCI︶が施行されステントが
心血管イベントの発症率の高い病態であればあるほど、抗血小板薬でイベントの発症を低下
(文献1より引用・改変)
させる効果が高い。
PCIを施行し、ベアメタルステント︵BM
S︶を留置した患者には、アスピリン ∼16
︵クラスⅠ、レベルA︶ことが推奨されている。
81
ドグレル1日 ㎎ は最低1カ月︵出血性リスク
2㎎ を無期限に投与する︵レベルA︶
。クロピ
81
の高い場合は最低2週間︶
、できれば1年間投
与する︵レベルB︶ことがクラスⅠとして推奨
されている。
また、薬剤溶出性ステント︵DES︶を留置
した患者には、アスピリン ∼162㎎ を無期
限に投与する︵レベルB︶
。クロピドグレル1
16
CLINICIAN Ê15 NO. 637
(284)
81
81
୙Ᏻᐃ⊃ᚰ⑕
12
50
40
30
20
10
0
Ᏻᐃᆺ⊃ᚰ⑕
೺ᗣே
4
75
日 ㎎ は最低1年間投与する︵レベルB︶こと
75
16
0
ᚰ⾑⟶䜲䝧䞁䝖䠄㠀⮴Ṛᛶᚰ➽᱾ሰ䚸㠀⮴Ṛᛶ⬻༞୰䚸⾑⟶Ṛ䠅䜢
㑊䛡䜛䛣䛸䛾䛷䛝䜛ேᩘ䠄䠍ᖺ㛫䚸1,000ேᙜ䛯䜚䠅
②ハイリスクの病態に応じた抗血小板薬のイベント発症予防効果
1,000ேᙜ䛯䜚ᚰ⾑⟶䜲䝧䞁䝖䜢
㑊䛡䜛䛣䛸䛾䛷䛝䜛ேᩘ䠄SE䠅
ᖹᆒ἞⒪ᮇ㛫䠄᭶䠅
䃦㻞 ᳨ᐃ
ㄪᩚᚰ⾑⟶叻吰呉吟Ⓨ⑕⋡协㸣卐
がクラスⅠとされている。
アスピリン群で低率であった︵図②︶
。わが国
Japanese
アスピリン ㎎ /日の投与が心筋梗塞の再発を
︵J
Antiplatelets in Myocardial Infarction Study
AMIS︶では、心筋梗塞既往患者において、
での多施設無作為化臨床試験である
7)
往患者も対象に含めた主要冠動脈イベントは、
2002年版のATT︵ Antithrombotic Trialists’
︶の二次予防試験において、心筋
Collaboration
梗塞既往の他に脳卒中、一過性脳虚血発作の既
心筋梗塞の二次予防
などは、クラスⅢすなわち禁忌とされている。
する患者に抗血小板薬を投与する︵レベルC ︶
一方、アスピリン喘息の患者にアスピリンを
投与する︵レベルC︶
、活動性の出血性疾患を有
(文献7より)
TIA:transient ischemic attack(一過性脳虚血発作)
有意に抑制することが示された。
わが国では多くの患者で冠動脈ステント留置
術が施行され、その後アスピリンとチエノピリ
(285)
CLINICIAN Ê15 NO. 637
17
8)
81
䝝䜲
䝸䝇䜽
⬻༞୰
ᛴᛶᮇ
㝞ᪧᛶ
⬻᱾ሰ䠋
TIA
ᛴᛶ
ᚰ➽᱾ሰ
㝞ᪧᛶ
ᚰ➽᱾ሰ
ジン系の併用である2剤併用抗血小板療法
した場合に、 時間以内のアスピリンの使用と
限り投与すべきとされている。また、冠動脈バ
イパス術︵CABG︶では、大伏在静脈を使用
︵ Dual Antiplatelet TherapyDAPT︶が行わ
れるが、ステント留置術後慢性期あるいは心筋
梗塞慢性期にどの時期まで継続させる必要があ
るのか、確立したエビデンスはまだない。DA
長期継続が推奨されている。
ハイリスク患者における一次予防
用が有効であるとされているが、わが国では糖
リンの使用が推奨されている。
虚血性心疾患の一次予防において、2009
年のATTで、禁忌でない限りアスピリンの使
安定型労作性狭心症︵慢性冠動脈疾患︶
ていないので、一次予防としてのアスピリンの
尿病やハイリスクの高齢者では有効性が示され
安定型労作性狭心症に対する治療の目的は、
症状の軽減と心血管イベントの予防による予後
投与については確立したガイドラインはない。
∼162㎎ /日が推奨される
以上、これまで明らかにされている虚血性心
疾患のアスピリンのガイドラインについて概説
した。しかし、抗凝固療法を必要とする冠動脈
エビデンスはないが、アスピリンは禁忌がない
しかし、DAPT期間についてはまだ確立した
を避けたほうが出血リスクも少なく、心血管イ
検討したWOEST試験で、アスピリンの使用
最低1カ月、DESでは1年と記載されている。 疾患に対するステント治療後の抗血小板療法を
安定冠動脈疾患に対する待機的PCIでは、
ステント後のDAPTについては、BMSでは
︵クラスⅠ、エビデンスレベルA︶
。
ピリンとして
改善であり、後者の目的のために、低用量アス
9)
PT終了後は禁忌がない限り、永久的なアスピ
48
18
CLINICIAN Ê15 NO. 637
(286)
81
ベントも抑制された。このように、アスピリン
のエビデンスについて、新たな検証が必要にな
るであろう。
循環器内科学分野
主任教授︶
︵日本大学医学部
文献
Collaborative overview of randomised trials of
antiplatelet therapy I :Prevention of death,
myocardial infarction, and stroke by prolonged
antiplatelet therapy in various categories of patients.
Antiplatelet Trialists’ Collaboration. BMJ, 308, 81-106
(1994)
循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関する
ガイドライン︵2009年改訂版︶
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_hori_
h.pdf
心筋梗塞二次予防に関するガイドライン︵2011
年改訂版︶
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_
ogawah_h.pdf
非ST上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドラ
イン︵2012年改訂版︶
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_
kimura_h.pdf
虚血性心疾患の一次予防ガイドライン︵2012年
改訂版︶
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_
shimamoto_h.pdf
ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライ
ン︵2013年改訂版︶
5)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_
kimura_h.pdf
Antithrombotic Trialists’ Collaboration : Collaborative
meta-analysis of randomised trials of antiplatelet
therapy for prevention of death, myocardial infarction,
and stroke in high risk patients. BMJ, 324, 71-86
(2002)
Yasue H, et al : Effects of aspirin and trapidil on
cardiovascular events after acute myocardial
infarction. Japanese Antiplatelets Myocardial
Infarction Study (JAMIS) Investigators. Am J Cardiol,
83, 1308-1313 (1999)
Antithrombotic Trialists’ (ATT) Collaboration;Baigent
C, et al : Aspirin in the primary and secondary
prevention of vascular disease : collaborative metaanalysis of individual participant data from
randomised trials. Lancet, 373, 1849-1860 (2009)
(287)
CLINICIAN Ê15 NO. 637
19
−
6)
7)
8)
9)
1)
2)
3)
4)