乾癬治療における 医療連携の重要性

皮膚関連疾患
乾癬治療における
医療連携の重要性
白 崎 文 朗
の使用が躊躇される場合がある。
∼クリニックの立場から∼
医療連携の重要性
2)
くなったと実感できるPASI が約半数の人
一声である。生物学的製剤は、乾癬の皮疹が良
男性が、筆者のクリニックに戻ってきて発した
診連携を利用してアダリムマブ治療に変更した
なコントロールが得られた後に逆紹介してもら
考えた場合、承認施設に導入をお願いし、良好
医が自院の患者に生物学的製剤を使用したいと
的製剤の使用が認められるようになった。開業
2011年版日本皮膚科学会の指針で、乾癬
﹁今年は半袖で外出できます﹂
。
︵レ
Re-PUVA
患者の7割を診療している開業医にも、生物学
チノイド+ソラレン長波長紫外線療法︶から病
3)
その一方で、感染症などの副作用のリスク、薬
︵QOL︶を向上させることができる。しかし
対しても高い有効性を示し、患者の生活の質
で達成できる薬剤である。さらに、関節症状に
有する患者の利便性が増す。
を用いた治療が行え、難治性の皮疹や関節痛を
通院しやすく身近にある開業医で生物学的製剤
携が必要になるが、これを上手に利用すれば、
い維持治療を行うことになる。いわゆる病診連
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剤費が高額であるというデメリットもあり、そ
2)
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1)
応患者の選択と治療概要の適切な説明であろう。
したがって、これからの開業医は、 The rule
日本皮膚科学会の指針に従えば、適応患者は、
︵BSA %以上、PASI 以上、D
of 10s
﹁①紫外線治療を含む既存の全身治療で十分な
LQI 以上のいずれかを満たす︶に該当し、
院で行うのに比べ病診連携は患者への説明も増
剤の説明を行う必要がある。すべての治療を自
なかった患者に対しては、積極的に生物学的製
既存治療でQOLを含めた改善が十分に得られ
ている患者﹂である。具体的には、光線治療を
たは関節症状を有し、QOLが高度に障害され
およぶ患者、②既存治療抵抗性の難治性皮疹ま
効果が得られず、皮疹が体表面積の %以上に
2)
続けていたが改善が少ない、あるいは回数が多
10
えハードルも高くなるが、逆に、主治医が2人
10
生物学的製剤使用後の経過も自院で見ることが
合や、免疫抑制剤により皮疹はコントロールさ
⑴PASI が7∼8割の患者で達成できる有
これを用いている。具体的に説明することは、
一方、治療概要の説明は、製薬会社から無料
でもらえるパンフレットが詳しいので、筆者は
ろう。
があり、QOLが障害されている場合などであ
いるが、爪や頭皮など可視部の症状や関節症状
きた場合、さらには、皮疹の面積は限局されて
れるが、長年の治療で徐々に腎機能が悪化して
になることで副作用などの見逃しが少なくなり、 くなってきて将来皮膚癌の発生が心配される場
10
できるため、開業医、患者双方にとってメリッ
トが大きい。
実際筆者自身も、病診連携の下、生物学的製
剤による維持療法を行っており、劇的な改善効
果を実感することができている。
医療連携を行うためのポイント
医療連携を行う際、クリニックから承認施設に
紹介する前に、まずクリニックで行うことは、適
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効性の高い薬であるが、PASI に達しない
が必要になる。そのため投与前に種々のスクリ
感染症にかかる場合があり、重篤な場合は入院
サイトカインを抑えるため、細菌・結核などの
一次無効例が1割ほどある、⑵免疫に関与する
ムーズな連携を行うことができる。
ら逆紹介するかなども事前に決めておけば、ス
た、どれくらいまで承認施設で治療を行ってか
き、患者に説明しておくと安心されやすい。ま
与までの期間はどれくらいか、なども聞いてお
がよいか、診察の待ち時間や検査をしてから投
通じて予めCTなどの予約を入れておいたほう
ーニング検査が必要になる、⑶腫瘍免疫も抑制
しかし、5年間の使用で内臓悪性腫瘍の発生を
では、どの生物学的製剤を選択するかを有効
悪性腫瘍発生のリスクは明確にはなっていない。
性の観点から考えると、現在発売されている3
する薬なので、長期使用例が少ない現時点では
50
⑷薬剤費は高額であるが、高額療養費制度をう
有意に高めないという結果が報告されている、
る。しかし、関節症状に対しては、関節破壊抑
剤はいずれも高い皮疹改善効果が認められてい
導入する必要性も説明している。
これらの説明で同意が得られれば承認施設に
紹介するわけだが、連携をスムーズに進めるた
がなく、点滴スペースの確保が不要な
reaction
アダリムマブはクリニックでの使用に適した薬
infusion
方法を相談しておくとよい。例えば、診療の予
剤であると考えている。
剤 で あ り、そ の 中 で も、投 与 後 の
約は必要か、紹介前に地域連携ネットワークを
め、予め承認施設の先生と具体的に患者の紹介
ているのは、現在のところTNFα 阻害剤の2
医療連携の観点から考えると、日本皮膚科学
る。これらに加え、薬の投与方法や承認施設で
会の指針でクリニックでの維持療法が認められ
制効果の強いTNFα 阻害剤が第一選択薬である。
2)
まく利用すれば負担を少なくできる、などであ
4)
5)
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1)
6)
最後に
生物学的製剤は重篤な副作用が出現するリス
クがあるため、クリニックでは使用しないとい
う立場もあるが、劇的な改善効果を得て、QO
Lを向上させることもできる薬剤である。今後
は、承認施設とクリニックが十分な医療連携を
行い、クリニックでも生物学的製剤をうまく使
︵2013︶
Dommasch ED, et al : The risk of infection and
malignancy with tumor necrosis factor antagonists in
adults with psoriatic disease : A systematic review and
meta-analysis of randomized controlled trials. J Am
Acad Dermatol, 64, 1035-1050 (2011)
5)
6)
いこなし、患者のQOL向上に寄与していかな
4)
Papp KA, et al : Long-term safety of ustekinumab in
patients with moderate-to-severe psoriasis : final results
from 5 years of follow-up. Br J Dermatol, 168, 844854 (2013)
安部正敏ら 乾癬治療ネットワークの試み、 Visual
、 、312︵2014︶
Dermatology
13
ければならないと考えている。
︵皮膚科神経内科白崎医院
院長︶
文献
朝比奈昭彦 皮膚科最新治療のすべて︱乾癬 生物
学的製剤の光と影、 Derma
、190、119∼12
5︵2012︶
大槻マミ太郎ら 日本皮膚科学会マニュアル 乾癬
における生物学的製剤の使用指針および安全対策マ
ニュアル︵2011年版︶
、日皮会誌、121、1
561∼1572︵2011︶
小林
彩ら 長野県における乾癬治療の現状と病診
連携の可能性、西日本皮膚科、 、346∼349
75
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