近年のRAにおける外科治療

激変するRA治療
近年のRAにおける
外科治療
桃 原 茂 樹
膜炎が劇的に鎮静化され、その結果、外科治療
に伴いこれまでコントロールが困難であった滑
り新たな薬物治療の時代に入った。そしてそれ
どの抗リウマチ薬︵DMARDs︶の登場によ
関節リウマチ︵RA︶に対する薬物療法は、
メトトレキサート︵MTX︶や生物学的製剤な
えてくると予想され、薬物療法の進歩に伴い手
関節にまでよりきめ細かな外科治療の需要が増
病勢が安定化することで、手指や足趾などの小
ズがより高まっている傾向がみられる。つまり、
でさらに日常生活の質︵QOL︶的向上のニー
る。特に最近では、全体の病勢が落ち着くこと
はじめに
として滑膜を切除する治療の適応はかなり減少
術治療の変化も求められている。
これからのRA治療では、薬物療法を中心に
手術も治療のオプションとして考える必要があ
している。しかし一方で、これら薬剤でも完全
には関節破壊を抑制できない場合もしばしば経
験され、手術治療は現在でも依然として必要不
可欠な治療法の一つである。
(153)
CLINICIAN Ê15 NO. 636
13
2005
2006
2007
2008
83
216
84
203
70
180
72
183
53
155
59
194
TKA
Total
10
8
手術療法変遷の報告
︱大規模観察研究IORRAによる解析
たところ、まず手術時の罹病期間は年々長くな
センターのIORRAコホートを用いて解析し
する東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風
こで、本邦での変化をみるために、筆者が所属
る点では、いずれの報告でも一致している。そ
進歩が外科的治療にも大きく影響を及ぼしてい
はみられていない。しかし、近年の薬物治療の
また背景も異なるため、必ずしも一致した結果
それぞれのデータの集積や解析方法に差があり、
欧米からは、近年RAに対する外科手術件数
の変化が報告されるようになってきた。しかし、
(文献1より)
TKA:人工膝関節、Total:全ての手術
降は大きな変化はなくなり、ここ数年はほぼ一
また、人工関節を含む全体の手術件数は20
02年以降減少していた。しかし2007年以
が成功しているためと考えられた。
薬物治療により関節破壊進行の抑制や除痛効果
っていることが判明した︵図①︶
。このことは、
1)
36
176
2004
2009 䠄ᖺ䠅
2003
TKA
Total
14
CLINICIAN Ê15 NO. 636
(154)
12
6
⨯⑓ᮇ㛫䠄ᖺ䠅
①東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターにおける
RA 手術時の罹病期間の推移
20
18
16
14
4
2
0
㛵⠇ᙧᡂ⾡
25.0
(文献2より)
定か、やや増加してきている︵図②︶
。術式別
での検討では、滑膜切除術の件数は2000年
以降著明に減少し、また以前件数が多かった人
工膝関節置換術も減る一方で、手指や肘関節、
足関節など様々な関節に対する人工関節の手術
件数が増加していた。また部位別でも膝などの
大関節への手術は減少していたが、手指や手関
節、足趾など小関節に対する関節形成術が増加
と思われる。
や足趾の外科的治療が要求されている面もある
めることになり、その結果これまで以上に手指
おいて患者自身がよりレベルの高いQOLを求
全体の病勢が安定することで、機能や整容面に
る結果であると考えられる。その一方で、RA
成功し、関節破壊の進行をある程度抑制してい
れ、さらに膝関節などの大関節に対する除痛に
このような術式の変化は、炎症性滑膜が薬物
治療により鎮静化され外科的切除の適応が限ら
していた。
2)
2012 䠄ᖺ䠅
2010
2008
2006
2004
2002
(155)
CLINICIAN Ê15 NO. 636
15
⁥⭷ษ㝖⾡
30.0
㛵⠇㙾どୗᡭ⾡
㛵⠇ᅛᐃ⾡
20.0
ேᕤ㛵⠇⨨᥮⾡
15.0
10.0
5.0
እ᮶ᝈ⪅1,000ே࠶ࡓࡾ༙ᖺẖࡢᡭ⾡௳ᩘ
②東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターにおける
RA 手術件数の推移
35.0
඲య
0.0
要がある。合併症には、感染や創傷治癒遅延、
術時に合併症の危険性が高いことを認識する必
患、糖尿病を合併する割合も高く、そのため手
れているケースが多い。また呼吸器疾患や腎疾
外科的治療が行われる症例は、罹病期間が長
く、ステロイドや様々なDMARDsが処方さ
ある。
のの、術前の休薬や術後の十分な観察が必要で
など特別な周術期での処置は不要と思われるも
が、実臨床では抗菌剤の予防的投与や長期投与
恐らく大きな有意差はないとは考えられている
すとの報告もあり、まだ意見の一致をみない。
周術期の合併症および注意点
TNF α 阻害剤に関しては、感染のリスク
は上げないとされる一方で、有意に合併症を来
塞栓、さらにDMARDs休薬によるRA再燃
−
等が考えられる。
生物学的製剤は術前術後に一定期間の休薬が
s
推奨されているが、その間にRAの再燃が生じ
周術期のDMARD 処方に関しては、その
多くがMTXやTNF α 阻害剤の報告である。 る問題がある。再燃した場合には、術後創部の
3)
学会による﹁関節リウマチ治療におけるメトト
上げないとされている。ただし、日本リウマチ
MTXは周術期継続しても、合併症のリスクを
休薬期間に関しては術式の侵襲の程度も考慮し、
るいは一時的に鎮痛剤やステロイドで対処する。
問題がなければ生物学的製剤を再開するか、あ
術後に創部が治癒し感染がないことを確認でき
レキサート︵MTX︶診療ガイドライン﹂では、 個々の生物学的製剤に応じて検討する。通常は、
整形外科予定手術以外の手術やMTX ・5㎎
判断するとしている。
個々の症例のリスク・ベネフィットを考慮して
に対するTNF阻害薬使用ガイドライン﹂で周
日本リウマチ学会より﹁関節リウマチ︵RA︶
/週以上の高用量投与例における手術の際には、 れば再投与は可能と考えられている。本邦では、
12
16
CLINICIAN Ê15 NO. 636
(156)
−
③母趾中足骨骨切り術による関節温存手術
術期での対応が示されている。
これからのRAにおける外科的治療
︵T2T︶が叫ばれて久しいが、
Treat to Target
薬物療法だけではどうしても炎症の鎮静が主眼
になってしまう。しかし、治療の最終目標はあ
くまでもQOLの向上であり、医療側は今後も
薬物療法を中心に、必要があれば外科的治療を
考える姿勢が必要である。このことは、日本リ
ウマチ学会﹃関節リウマチ診療ガイドライン2
014﹄にもリハビリとともに盛り込まれてい
る。
薬物治療の進歩は、骨びらんを始めとする関
節破壊に対する修復機転が働くことも期待され
ており、例えば足趾の変形に対しては、従来の
ルリエーブル法に代表される中足骨骨頭切除術
に代わって、中足趾節関節を温存する中足骨骨
ち、薬物治療の進歩に伴って、術式や適応も
切り術が最近普及してきている
︵図③︶
。すなわ
4)
(157)
CLINICIAN Ê15 NO. 636
17
(文献4より)
徐々に変化してきている。
最近では、全体の病勢が鎮静化されることで、
さらに高いレベルでのQOLのニーズが高まっ
てきており、特に手指や足趾変形などこれまで
顧みられなかった小関節に対する機能回復や整
容的改善が求められる場合が増えてきている。
これからは薬物療法を主体に外科的治療という
オプションがあることを理解し、これらを上手
に組み合わせることで、よりQOLを高めるト
ータルマネジメントの治療戦略の概念を持つこ
とが大切である。
︵東京女子医科大学附属
整形外科
教授︶
膠原病リウマチ痛風センター
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(158)
1)