消化器関連疾患︵炎症性腸疾患︶ 平 井 郁 仁 ており、抗TNFα 抗体を必要とする多くのC アダリムマブ自己注射治療の より 患者評価︱ PEARL Survey はじめに 2010年 月にクローン病︵CD︶ 、201 る薬剤である。消化器疾患に対して日本では、 の導入や継続に極めて重要である。今回、われ なることも多く、これらを確認することは治療 症性腸疾患︵IBD︶治療に広く使用されてい DやUCの症例に使用している。 アダリムマブ︵ADA ヒュミラ︶は、完全 しかし、医療者側と患者側の治療に対する ヒト型の抗TNFα 抗体製剤であり、世界で炎 ︵特に自己注射についての︶認識や受容性は異 ® 性大腸炎︵UC︶への適応が承認されている。 3年5月に腸管ベーチェット病、同6月に潰瘍 射治療患者を対象とした多施設共同アンケート われは4つの大学病院において、ADA自己注 短い皮下注射製剤であり、自己注射も可能であ るため、高い利便性が期待されている。筆者も その簡便性と利便性を日常診療において実感し 福岡大学筑紫病院、九州大学、大阪市立大学、 方法 調査﹁ PEARL Survey ﹂を企画し実施した。 1) ADAは従来の点滴製剤と異なり、投与時間が 2) 10 (223) CLINICIAN Ê15 NO. 636 83 4) 3) 兵庫医科大学の4施設において事前にUMIN 登録および各施設倫理委員会の承認を受け、外 来にてADA自己注射治療を行っているCD患 者に対し、同意を取得しアンケート調査を実施 左︶ 。不安を感じていた理由は﹁注射が怖い﹂ が ・0%と最も多く、 ﹁痛みが強そう﹂ ・ 32 (文献4より引用改変) 約60%の患者は自己注射に不安を持っていた。 した。 結果 124人から本アンケート調査への回答が得 られ、その結果を以下に記載する。 自己注射実施前の不安 ADA治療開始前の評価において、 ・0% の患者は自己注射を希望していなかった。自己 注射に不安がないと回答したのは ・8%のみ 38 であり、 ・2% は不安を感じていた︵ 図① 22 5%、 ﹁投与を失敗しそう﹂ ・2%、 ﹁副作用 24 の対処が不安﹂ ・3%などが挙げられた︵図 ①右︶ 。 33 84 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (224) 60 0 n=123 24.2 30 20 49% 1) 40 40.0 23% 17% 11% 䛆Ᏻ䛾⌮⏤䛇 䛆Ᏻ䛾⛬ᗘ䛇 32.5 33.3 40 10 ᝈ⪅䛾ྜ䠄䠂䠅 ①自己注射実施前の不安 50 Ᏻ䛺䛧 䛹䛱䜙䛸䜒ゝ䛘䛺䛔 ᑡ䛧Ᏻ 㠀ᖖ䛻Ᏻ 約75%の患者は自己注射に満足し、様々なメリットを実感していた。 (文献4より引用改変) 自己注射実施後の評価 自己注射治療開始後の満足度については、 ・0%が自己注射を実施してよかった︵満足︶ と回答した︵図②左︶ 。また自己注射治療を実 施してよかったこととして、 ・0%が﹁通院 回数が減った﹂ 、 ・0%が﹁治療にかかる時 間が減った﹂ 、 ・4%が﹁仕事︵学校︶を休 自己注射治療の満足度に影響を与える因子 まなくなった﹂と回答した︵図②右︶ 。 24 治療前の自己注射希望の有無で分けて解析し たところ、希望していた患者と希望していなか った患者間で、満足している割合に有意差は認 められなかった︵図③左︶ 。また、点滴製剤の 治療歴がある患者 例では、 ・2%の患者が 点滴時間に負担を感じており、負担に感じてい なかった患者に比較し、有意にADA自己注射 75 治療に満足している割合が高かった︵図③右︶ 。 (225) CLINICIAN Ê15 NO. 636 85 2) 3) 48.0 50 39 68 䛆⮬ᕫὀᑕ䛻䜘䜛䝯䝸䝑䝖䛇 䛆⮬ᕫὀᑕ䛾‶㊊ᗘ䛇 48 66 20 75% 39.0 40 25% 10 n=120 24.4 30 ᝈ⪅䛾ྜ㻔䠂䠅 ②自己注射実施後の患者評価 ‶㊊䛧䛶䛔䜛 䛹䛱䜙䛸䜒ゝ䛘䛺䛔䜎䛯䛿‶㊊ 0 左/治療前の自己注射希望の有無で治療後の満足度は変わらなかった。 右/点滴治療を負担に感じている患者では有意に満足度が高かった。 (文献4より引用改変) 自己注射治療の 疼痛・安全性・アドヒアランス 投与時の疼痛については ・0%が注射時に 強い疼痛があると回答したが、治療の継続に影 等の軽度の注射部位反応が ・8%と高頻度に あった。有害事象としては、注射部位が腫れる 響すると回答したのは2例︵1・7%︶のみで 25 アドヒアランスに関しては ・6%が投与日 を守り、しっかり投与をできていると回答した の報告の範疇であった。 認められていたが重篤な有害事象はなく、従来 26 が、 ・6%は投与を忘れることや遅延するこ 84 とがあると回答し、症状が落ち着いているか自 身の判断で投与を中止していた症例が2例認め られた。多変量解析を行ったところ、良好なア ドヒアランスに関連する因子として、 ﹁罹病期 間︵月︶ ﹂がオッズ比0・986、 ﹁治療効果へ の満足﹂がオッズ比 ・424、 ﹁投与日のカ 86 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (226) 4) 14 レンダーやスケジュール帳への記入や携帯電話 13 70.5 Ⅼ㛫㈇ᢸ䛺䛧 (n=21) Ⅼ㛫㈇ᢸ (n=45) ᕼᮃ䛧䛺䛛䛳䛯 (n=44) ᕼᮃ䛧䛯 (n=74) 䠄Fisher’s exact test䠅 78.4 䛆Ⅼ⒪䜈䛾㈇ᢸ䛾᭷↓ู䛇 䛆⒪๓⮬ᕫὀᑕᕼᮃ䛾᭷↓ู䛇 P=0.012 86.7 䠄Fisher’s exact test䠅 57.1 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 P=0.380 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 ⮬ᕫὀᑕ⒪‶㊊䛾ྜ 䠄䠂䠅 ③自己注射実施後の満足度の違い 有意な関連因子として抽出された。 のアラームの登録﹂がオッズ比7・945で、 感している。したがってインフォームドコンセ くの患者が簡便であることやそのメリットを実 ントを行う際には医師・看護師などの医療従事 の不安を訴える症例が認められた、②自己注射 今回のアンケート調査から、ADAの自己注 射に関して、①施行前には主に注射による痛み ドヒアランスの課題に対しては、アラームメー 踏み切ってもらえるかが重要である。また、ア 者がいかに不安を和らげ、患者に最初の一歩を 導入後の満足度は高かった、③点滴製剤の施行 ルサービス︵ myHUMIRA アラームメール︶な どを利用した工夫が有効であると考えられる。 時間への不満が自己注射で解決するケースがあ ること、④注射のアドヒアランスを向上するた IBDに限らず疾患への治療の決定権は従来、 医師にあり、患者は受動的立場にあった。しか 示唆された。これらの患者側の認識や自己注射 の決定に関わることが増えてきている。在宅で しながら、今日では、患者が積極的に治療方針 め、いくつかの方策が有効であること、などが に関わる情報をきちんと把握することが、医療 の自己注射は、治療決定だけでなく、まさに患 ︵福岡大学筑紫病院 消化器内科 准教授︶ なることを期待したい。 方通行でなく、双方向の関係を構築する嚆矢と から、今回の検討が医療従事者から患者への一 者本人による治療の実践である。そうした観点 者側には求められよう。 おわりに 欧米では多くの患者が点滴製剤よりも皮下注 射製剤を好むことが報告されているが、実際に は自己注射に不安を感じる患者も少なくない。 しかしながら、本邦の患者でも、実施後には多 (227) CLINICIAN Ê15 NO. 636 87 5) 文献 Watanabe M, et al : Adalimumab for the induction and maintenance of clinical remission in Japanese patients with Crohn’s disease. J Crohns Colitis, 6, 160-173 (2012) Tanida S, et al : Adalimumab for the Treatment of Japanese Patients with Intestinal Behçet’s Disease. Clin Gastroenterol Hepatol, 2014 [Epub ahead of print] Suzuki Y, et al : Efficacy and safety of adalimumab in Japanese patients with moderately to severely active ulcerative colitis. J Gastroenterol, 49, 283-294 (2014) Hirai F, et al : Patients’ Assessment of Adalimumab Self-Injection for Crohn’s Disease : A Multicenter Questionnaire Survey (The PEARL Survey). Hepatogastroenterology, 61, 1654-1660 (2014) Vavricka SR, et al : Systematic assessment of factors influencing preferences of Crohn’s disease patients in selecting an anti-tumor necrosis factor agent (CHOOSE TNF TRIAL). Inflamm Bowel Dis, 18, 1523-1530 (2012) 88 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (228) 1) 2) 3) 4) 5)
© Copyright 2024