現代ファイナンス論講義ノート No.4 ポートフォリオ計算の基礎 蛭川雅之 2014 年 10 月 20 日 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 1 金融資産のリターンとリスク • 投資家は、各資産(例:株式、債券)のリターンとリスクを考慮する。 (リターン) = (期待収益率) = (収益率の期待値) (リスク) = (収益率の分散・標準偏差) – とりあえず、資産の範囲を株式に限定する。 • このノートでは、以下の点を説明する。 1. 収益率はどのように定義されるか? 2. 期待値、分散、標準偏差とはどのようなもの(であった)か? (=統計学の復習) 3. リターンとリスクを具体的にどのように計算するか? 2014 年 10 月 20 日 1 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 2 株式の収益率 • 株式の収益率を定義するため、以下の表記を用いる。 Pi,t = (企業 i の時点 t における株価) Di,t = (企業 i の時点 t における配当) 定義 1 企業 i の時点 t における 1 期あたり株価収益率は Pi,t + Di,t −1 Pi,t−1 ( ) Pi,t + Di,t (連続複利収益率) = log Pi,t−1 (離散収益率) = と定義される。 2014 年 10 月 20 日 2 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 2.1 ネイピア数と連続複利 • ネイピア数 e とは ( )n 1 e = lim 1 + n→∞ n = 2.718281828459045235360287471352 . . . – ところで、 ( )n 1 1+ n にどのような経済学的な意味があるのか? 2014 年 10 月 20 日 3 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 • いま1円を年利 r% で1年間預けると、1年後の元利合計は 1+r となる。 • 利息を計算する期間を1年でなく6か月(= 1/2 年)とする。 – 6か月後の元利合計は 1 + r/2 である。 – 1年後の元利合計は ( となる。 2014 年 10 月 20 日 4 r )2 1+ 2 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 • 利息を計算する期間をさらに短い4か月(= 1/3 年)とする。 – 4か月後の元利合計は 1 + r/3 である。 2 – 8か月後の元利合計は (1 + r/3) である。 – 1年後の元利合計は ( r )3 1+ 3 となる。 • 以上のことから、一般に、利息の計算期間を 1/n 年とすると1年後 の元利合計は ( r )n 1+ n となる。 2014 年 10 月 20 日 5 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 • これを ( 1+ r )n n = {( 1+ }r ) n/r r n {( )n/r }r 1 = 1+ n/r と変形し、n → ∞ の極限をとる。 – n → ∞ のとき n/r → ∞ であるから、 ( )n/r 1 lim 1 + =e n→∞ n/r となる。 – 最終的に、連続複利計算をした場合の元利合計 {( )n/r }r ) ( 1 r n = lim 1+ lim 1 + = er n→∞ n→∞ n n/r を得る。 2014 年 10 月 20 日 6 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 • では、“元利合計”が与えられたとき、連続複利収益率 r をどのよう に求めるか? • 時点 (t − 1) で企業 i の株式 1 単位を購入し、時点 t でこれを売却 する場合、キャッシュ・フローは以下のようになる。 時点 t−1 t キャッシュ・フロー −Pi,t−1 Pi,t + Di,t • “元利合計”についての関係式 Pi,t + Di,t = er Pi,t−1 の両辺に自然対数をとることにより、 (連続複利収益率) = r = log を得る。 2014 年 10 月 20 日 7 ( Pi,t + Di,t Pi,t−1 ) 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 3 離散確率変数の期待値・分散・標準偏差 3.1 期待値 定義 2 離散確率変数 X のとり得る値を x1 , . . . , xn とし、それらの確率 関数を pX (x1 ) , . . . , pX (xn )(ただし、pX (·) ≥ 0, ∑n i=1 pX (xi ) = 1)と すると、この離散確率変数 X の期待値は E (X) = µ = n ∑ xi pX (xi ) = x1 pX (x1 ) + · · · + xn pX (xn ) i=1 と定義される。 ∫ ∑ • 連続確率変数の場合は、“ ”が“ ”に置き換わる(以下同様)。 2014 年 10 月 20 日 8 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 3.2 分散および標準偏差 定義 3 離散確率変数 X のとり得る値を x1 , . . . , xn とし、それらの確率 関数を pX (x1 ) , . . . , pX (xn )(ただし、pX (·) ≥ 0, ∑n i=1 pX (xi ) = 1)と すると、この離散確率変数 X の分散は V ar (X) = σ 2 2 = E (X − µ) = n ∑ 2 (xi − µ) pX (xi ) i=1 2 2 = (x1 − µ) pX (x1 ) + · · · + (xn − µ) pX (xn ) と定義される。この分散の正の平方根 σ = の標準偏差である。 2014 年 10 月 20 日 9 √ V ar (X) が離散確率変数 X 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 3.3 期待値・分散に関する性質 結論 4 a と b を定数とすると、期待値に関して以下の性質が成り立つ。 E (a) = a E (aX + b) = aE (X) + b 練習 5 ( ) V ar (X) = E X − µ2 ( 2) 2 = E X − {E (X)} が成り立つことを示せ。 2014 年 10 月 20 日 10 2 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 結論 6 a と b を定数とすると、分散に関して以下の性質が成り立つ。 V ar (a) = 0 V ar (aX + b) = a2 V ar (X) 練習 7 確率変数 X を標準化して得られる新しい確率変数 X −µ Z= σ について、E (Z) = 0 および V ar (Z) = 1 が成り立つことを示せ。 2014 年 10 月 20 日 11 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 4 リターンとリスクの計算 • 収益率の期待値・分散・標準偏差は、収益率の母集団に関する母数 (パラメータ)である。 – これらを推測するには、過去のデータに頼るしかない。 • エクセルでリスクおよびリターンを推測する場合、以下の関数を用 いる。 1. “AVERAGE”⇒ 標本平均 2. “VARP”⇒ 標本分散 3. “STDEVP”⇒ 標本標準偏差 2014 年 10 月 20 日 12 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 練習 8 エクセル・ファイル“ln04.xls”には、2001 年 1 月から 2012 年 9 月 までの Intel Corporation (INTC) の NASDAQ 月次株価データ(単位: 米ドル)が与えられている。このデータから、INTC のリターンおよびリ スクを離散・連続複利双方の場合について計算せよ。 2014 年 10 月 20 日 13 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 5 収益率相互の関連 • 投資のリスクを考える上で、個別の株式の期待収益率、分散、標準 偏差を見るだけでは十分でない。 – この株式の収益率と他の株式(もしくはポートフォリオ)の収 益率との関連に着目する必要がある。 • “関連”をどのように計測するか? 1. 共分散(covariance) 2. 相関係数(correlation coefficient) 2014 年 10 月 20 日 14 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 6 離散確率変数の共分散・相関係数 6.1 共分散 定義 9 2つの離散確率変数 X と Y について、X は m 個の離散的な値 x1 , . . . , xm 、一方、Y は n 個の離散的な値 y1 , . . . , yn をとるものとする。 さらに、X が xi 、かつ、Y が yj をとる確率を pX,Y (xi , yj )(ただし、 pX,Y (·) ≥ 0, ∑m ∑n i=1 j=1 pX,Y (xi , yj ) = 1)と書くことにすると、X と Y の共分散は Cov (X, Y ) = E [{X − E (X)} {Y − E (Y )}] = E (XY ) − E (X) E (Y ) 2014 年 10 月 20 日 15 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 と定義される。ただし、 E (X) = E (Y ) = E (XY ) = m ∑ i=1 n ∑ xi pX (xi ) , pX (xi ) = yj pY (xj ) , pY (yj ) = j=1 n m ∑ ∑ n ∑ j=1 m ∑ pX,Y (xi , yj ) , pX,Y (xi , yj ) , i=1 xi yj pX,Y (xi , yj ) i=1 j=1 である。 ∫ ∑ • 連続確率変数の場合は、“ ”が“ ”に置き換わる。 • Cov (X, Y ) は確率変数 X と Y の関係の強さを表す尺度である。 – この尺度は X と Y の単位に依存する。 2014 年 10 月 20 日 16 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 6.2 相関係数 定義 10 2つの離散確率変数 X と Y の分散がそれぞれ V ar (X) と V ar (Y )、共分散が Cov (X, Y ) であるとき、X と Y の相関係数は ρXY Cov (X, Y ) √ √ = V ar (X) V ar (Y ) と定義される。 • ρXY は X と Y の線形関係の強さを表す。 • −1 ≤ ρXY ≤ 1 が成り立つ。 2014 年 10 月 20 日 17 現代ファイナンス論講義ノート No.4 ■ρXY > 0 ⇒ X と Y に正の相関関係がある。 2014 年 10 月 20 日 18 担当:蛭川雅之 現代ファイナンス論講義ノート No.4 ■ρXY < 0 ⇒ X と Y に負の相関関係がある。 2014 年 10 月 20 日 19 担当:蛭川雅之 現代ファイナンス論講義ノート No.4 ■ρXY = 0 ⇒ X と Y は無相関である。 2014 年 10 月 20 日 20 担当:蛭川雅之 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 6.3 独立性 定義 11 2つの離散確率変数 X と Y について、すべての i, j に関し pX,Y (xi , yj ) = pX (xi ) pY (yj ) が成り立つとき、X と Y は互いに独立であるという。 • X と Y が無相関であっても、必ずしも独立ではない。 – X と Y が無相関とは、X と Y に線形関係が見られないとい う意味である。 – X と Y が独立ならば、これらは必ず無相関である。 2014 年 10 月 20 日 21 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 6.4 収益率の共分散・相関係数の計算 • 収益率の共分散・相関係数も、やはり母集団に関する母数(パラ メータ)である。 – これらを推測するには、過去のデータに頼るしかない。 • エクセルで共分散・相関係数を推測する場合、以下の関数を用いる。 1. “COVAR”⇒ 標本共分散 2. “CORREL”⇒ 標本相関係数 練習 12 エクセル・ファイル“ln04.xls”には、2001 年 1 月から 2012 年 9 月までの Intel Corporation (INTC) および Microsoft Corporation (MSFT) の NASDAQ 月次株価データ(単位:米ドル)が与えられてい る。これらの収益率に関する共分散・相関係数を計算せよ。 2014 年 10 月 20 日 22 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 7 ポートフォリオの期待値と分散 7.1 2つの確率変数の期待値に関する性質 結論 13 確率変数 X と Y の和 X + Y および積 XY の期待値に関して、 次の性質が成り立つ。 1. 和の期待値は期待値の和に等しい。 E (X + Y ) = E (X) + E (Y ) 2. 確率変数 X と Y が無相関である場合(独立である場合を含む)、積 の期待値は期待値の積に等しい。 E (XY ) = E (X) E (Y ) 2014 年 10 月 20 日 23 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 7.2 2つの確率変数の分散に関する性質 結論 14 確率変数 X と Y の和 X + Y の分散は V ar (X + Y ) = V ar (X) + V ar (Y ) + 2Cov (X, Y ) である。ただし、確率変数 X と Y が無相関である場合(独立である場合 を含む)、 V ar (X + Y ) = V ar (X) + V ar (Y ) が成り立つ。 2014 年 10 月 20 日 24 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 7.3 ポートフォリオのリスクとリターン • 様々な資産の組合せをポートフォリオという。 • 手持ち資金の α% を株式 A、残り (1 − α) % を株式 B に投資する ようなポートフォリオを考える。 – 以下の表記を用いる。 1. 株式 A と B の収益率:rA , rB 2. 株式 A と B の期待収益率:E (rA ) , E (rB ) 2 2 = V ar (rA ) , σB = 3. 株式 A と B の収益率の分散:σA V ar (rB ) 4. 株式 A と B の収益率の共分散:σAB = Cov (rA , rB ) 5. 株式 A と B の収益率の相関係数:ρAB = σAB / (σA σB ) 2014 年 10 月 20 日 25 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 • このポートフォリオの収益率 rP に関して、以下の関係が成り立つ。 rP = αrA + (1 − α) rB – このポートフォリオの期待収益率は E (rP ) = αE (rA ) + (1 − α) E (rB ) , (1) さらに、収益率の分散は σP2 = V ar (rP ) 2 2 2 = α2 σA + 2α (1 − α) σAB + (1 − α) σB 2 2 2 + 2α (1 − α) σA σB ρAB + (1 − α) σB = α2 σA となる。 練習 15(1)および(2)が成り立つことを示せ。 2014 年 10 月 20 日 26 (2) 現代ファイナンス論講義ノート No.4 担当:蛭川雅之 7.4 ポートフォリオのリスクとリターンとの関係 • リスク σP を横軸、リターン E (rP ) を縦軸にとり、リスクとリター ンとの関係を図示する。 • 株式 A と B の収益率に関する条件を以下のように設定する。 – E (rA ) = 0.03 – E (rB ) = 0.06 – σA = 0.2 – σB = 0.4 • ρAB を [−1, 1] の範囲で変化させると、このポートフォリオのリス クとリターンの関係はどのようになるか? 2014 年 10 月 20 日 27 現代ファイナンス論講義ノート No.4 2014 年 10 月 20 日 28 担当:蛭川雅之
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